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本編
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目覚めると輝惺様は先に起きていて、僕の寝顔を眺めていた。眠気が一気に飛び、慌ててヨダレを拭う。
「おはっ、おはようございます!!」
「ふふ、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
朝から爽やかな笑顔が、逆に憎らしいほど輝いている。
朝とはいってもまだ夜明けには早いようで、もう一度眠っても良さそうだ。
「身体は? 傷んでないかい?」
「大丈夫です。でも僕……輝惺様を気持ちよくできなくて……」
「そんなことはない。とても気持ち良かった。もっと繋がっていたいほどだ」
平然と言うセリフではないとも思いつつ、求められているのは嬉しい。
でも赤面した顔は見せられないので、輝惺様の胸に顔を押し付けた。
条件反射のように抱きしめてくれる。頭を撫でた手が頸に滑り降りると、さっき噛まれた跡が傷になっているのが自覚できた。
改めてその喜びに浸る。
鈍い痛みと歯型を、ようやく実感できた。
同時に、これからの人生を神界で過ごすという確約も得られた。
輝惺様の腕に抱かれ、フッと他の八乙女が頭を過ぎる。
みんなはどうなっただろうか。
今日の朝、朝拝に来るのは運命の番だった者だけだ。
どうかみんな番であって欲しい。一緒にこの喜びを分かち合いたいし、祝福したい。
輝惺様は何も喋らず、僕の頭を撫でている。夜が明けるまでは体を休めろということなのだろう。
眠るのも勿体無いけど、起きるのも寂しい。ずっとこうしていられれば良いのに……なんて都合のいいことを考えてしまう。
夜が明け、大神殿へ行く時が来た。
「他の巫子にも会えるといいな」
輝惺様からも言葉をかけてもらい、緊張した面持ちで足を進めた。
寝ている間は心地よい疲労感しかなかったが、いざ歩いてみると自分の動きがぎこちないのが情けない。
正直、今は身体のどこにも触れられたくない。
いつもは走ってあっという間に着く大神殿も、今日は倍以上の時間をかけて移動した。
輝惺様に「一人で行けます」と見栄を張ったことを今更ながら後悔している。
やっとの思いで大鳥居へと辿り着くと、辺りを見回した。
まだ誰も来ていないようだ。もしかすると、既に拝殿まで行っているかもしれないと思い、休憩せずに歩き始めた。
他の巫子がいても同じようにぎこちない歩き方をしていると内心嬉しく思う。
ゆっくりしか進めなくて焦ったいけれど、拝殿の前に巫子が立っているのが確認できた。
「あ、あれは……!!」
駆け寄りたい衝動を抑え、できるだけ早く歩み寄った。
「おはっ、おはようございます!!」
「ふふ、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
朝から爽やかな笑顔が、逆に憎らしいほど輝いている。
朝とはいってもまだ夜明けには早いようで、もう一度眠っても良さそうだ。
「身体は? 傷んでないかい?」
「大丈夫です。でも僕……輝惺様を気持ちよくできなくて……」
「そんなことはない。とても気持ち良かった。もっと繋がっていたいほどだ」
平然と言うセリフではないとも思いつつ、求められているのは嬉しい。
でも赤面した顔は見せられないので、輝惺様の胸に顔を押し付けた。
条件反射のように抱きしめてくれる。頭を撫でた手が頸に滑り降りると、さっき噛まれた跡が傷になっているのが自覚できた。
改めてその喜びに浸る。
鈍い痛みと歯型を、ようやく実感できた。
同時に、これからの人生を神界で過ごすという確約も得られた。
輝惺様の腕に抱かれ、フッと他の八乙女が頭を過ぎる。
みんなはどうなっただろうか。
今日の朝、朝拝に来るのは運命の番だった者だけだ。
どうかみんな番であって欲しい。一緒にこの喜びを分かち合いたいし、祝福したい。
輝惺様は何も喋らず、僕の頭を撫でている。夜が明けるまでは体を休めろということなのだろう。
眠るのも勿体無いけど、起きるのも寂しい。ずっとこうしていられれば良いのに……なんて都合のいいことを考えてしまう。
夜が明け、大神殿へ行く時が来た。
「他の巫子にも会えるといいな」
輝惺様からも言葉をかけてもらい、緊張した面持ちで足を進めた。
寝ている間は心地よい疲労感しかなかったが、いざ歩いてみると自分の動きがぎこちないのが情けない。
正直、今は身体のどこにも触れられたくない。
いつもは走ってあっという間に着く大神殿も、今日は倍以上の時間をかけて移動した。
輝惺様に「一人で行けます」と見栄を張ったことを今更ながら後悔している。
やっとの思いで大鳥居へと辿り着くと、辺りを見回した。
まだ誰も来ていないようだ。もしかすると、既に拝殿まで行っているかもしれないと思い、休憩せずに歩き始めた。
他の巫子がいても同じようにぎこちない歩き方をしていると内心嬉しく思う。
ゆっくりしか進めなくて焦ったいけれど、拝殿の前に巫子が立っているのが確認できた。
「あ、あれは……!!」
駆け寄りたい衝動を抑え、できるだけ早く歩み寄った。
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