【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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本編

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 輝惺様がアルファの性を解放した瞬間、心臓が大きく跳ねた。

 頭に中が輝惺様で支配される。

 輝惺様以外、考えられなくなる。

 身体が熱い。

 血液が、流れる速度を早めたような感覚に陥った。

(これが、オメガの血……)

 初めて味わう感覚に、正気をなくしてしまいそうで怖い。

 呼吸がどんどん荒くなっていく。

 苦しい。こんなに苦しいのは初めてだ。

 ただこの苦しさは、呼吸が荒いからだけではない。体の奥から溢れ出る欲求が爆破しそうな、自分の奥深いところで湧き上がるマグマを感じているから……。

 輝惺様が僕を見つめている。

 いつもは柔らかく優しい視線を送ってくれるのに、今は何か違う。

 徐々に近づいてくる視線から目が逸らせない。

 輝惺様の細くて長い指が頬にソッと触れた。

 「如月……」

 耳元で呼ばれたかと思うと、目尻にフワリと体温を感じた。

 あまりの緊張に、口付けられたと気付くまで時間がかかった。


「……甘い香り……」

 香りを確かめるように、頸に鼻を擦り付けた。

 ビクンっと体が反応する。甘い香りは更に輝惺様のアルファの性を刺激する。


 僕は、発情していた。


 輝惺様が僕の存在を確かめるように、抱きしめる。

「如月……やっと出会えた。私の『運命の番』!!」

 抱きしめる腕が震えている。

 輝惺様が歓喜にわなないている。

(僕、輝惺様の番だったの?)

 まさか信じられない。なんて普段なら思うけど、今回はそうはならない。

 自分の熱が上がっていくのを無視などできるわけがない。

 今、目の前にいるこの人が、欲しくて欲しくてたまらない。

 輝惺様が更に腕に力を込めた。僕のフェロモンがまた強くなったようだ。

「甘い……。こんなにも甘いのか……」

 少し体を離すと、潤んだ瞳でお互いを見つめ合う。

「輝惺様……。僕……僕……」

 話したいことが上手くまとまらない。
『好きです』。その一言すら、意識が朦朧として伝えられない。

 ただ『欲しい』という感情だけが後から後からとめどなく溢れてくるのだ。

「如月、私と番ってくれるかい?」

「はい、喜んで……」

「もう、自分を抑えられそうにないのだ。もし、嫌だと感じ時は遠慮なく言ってくれ」

 嫌なんてことがあるものか。

 全てを受け入れたい。

 輝惺様の全てが欲しい。

 ソッと触れるだけの口付けを交わす。

 それだけでも、嬉しさで涙が溢れてきた。

 輝惺様の唇が僕に触れる度に、痺れるほどの悦びが全身を駆け巡る。

 頬を支えている白くて温かい肌が、ゆっくりと首筋を滑り、肩へと降りた。

 着物の襟から、輝惺様の手が侵入する。

「大丈夫、力を抜いて」

 片手で支えられながら、仰向けに寝かされた。

 優しい口付けは、徐々に熱を帯びていく。

 これまでの触れるだけではない、もっと深い口付けだ。

 僕はもう既に正気を失っている。

 本能のままに、輝惺様を受け入れた。
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