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本編
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それからの三日間は本当に輝惺様は僕に付きっきりだった。
自分の用事がある時も、必ず同行させて目の届くところにいさせた。
流石に湯浴みはそれぞれだったけど……。
万が一、僕と輝惺様が番になったら……湯浴みも一緒にするのだろうか……。
それは……無理だ。こんな華奢な体を見られるなんて恥ずかしすぎる。
いつもよりも長く湯浴みに時間を使ってしまい、少し逆上せてしまった。
「如月、顔が火照っている。大丈夫かい?」
「大丈夫です。少し考え事をしてしまっていて、湯浴みに時間がかかってしまいました」
輝惺様は直ぐに水を飲ませてくれた。
「直ぐに横になるといい」
今日はもう寝るだけなのだから。と、部屋まで支えてくれた。
布団に横になると、一気に眠気に襲われた。
輝惺様は僕が完全に眠りにつくまで髪を撫でてくれた。それがとても心地よくて、久しぶりに余計なことを考えずに深く眠れた。
そしていよいよ、身を捧げる儀式の当日。
目が覚めると、輝惺様はいなかった。ここのところ、毎日僕の部屋で寝ていたけれど、昨日はどうしたのだろう。
自室を出て、輝惺様の部屋に耳を当ててみたけど、既にどこかへ行った後だった。
仕方なく朝拝へと向かう。
しかし今朝は他の狼神様も来ていなかった。
凪に聞いてみると、狼神様は儀式の朝は滝行で身を清めるそうだ。
「僕たちは、帰ったら直ぐに湯浴みをして体をきれいにするんだよ」
「なんか、いよいよって感じで緊張してきた」
今朝の八乙女はみんなソワソワしている。昨日までは儀式を意識すらしてない素振りを見せていた、朱邑と秦羽も流石に落ち着きがない。
明日の朝拝には、番になった者しか来ない。
番になれなかった者は、五日後に地上界へと旅立つ。
それぞれの神殿へ帰る道中、八乙女全員で励ましあった。
「みんな番になれるって信じよう!!」
「どうなるか分からないけど、今だけは番になれるって思っていいわよね」
「明日、また会えるよな!!」
一人一人と抱きしめ合う。
「じゃあ、きっとまた此処で」
大鳥居を潜り、みんな神殿へと帰って行った。
僕も光の神殿へと向かう。
輝惺様の準備は整っているだろうか。
神殿が近づくにつれ、心臓の動きが激しさを増す。
この緊張から、一刻も早く逃れたい。でも始まってほしくないような……早く終わってほしいような……。不安と希望、どちらが大きいか? と聞かれれば、間違いなく不安のほうが大きい。
「如月、朝拝お疲れ様」
真っ白の着物に着替えた輝惺様が出迎えてくれた。
「おはようございます」
緊張する……。どんな顔で向き合えばいいのか分からない。
「湯浴みが終わったら、私の部屋へ来るように」
「は、はい!!」
自分で思っているよりもずっと大きな声で返事をしてしまった。
お辞儀をし、一旦部屋へ戻ると気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
(全く落ち着かなかった)
出来ればもう少し落ち着くまで部屋でいたい。でも待たせるわけにはいかないし……。
「ふぅっ!! よし!!」
自分に気合を入れ、湯浴みへと向かう。
隅々まで念入りに洗うと、輝惺様の部屋へと向かった。
「失礼します」
何気にここに入るのは初めてだ。中からの返事を確認すると、静かに襖を開けた。
輝惺様は微笑むと「こちらへ」と室内へ促した。
部屋に入ると、輝惺様は一組だけ敷かれた布団の上で正座をしていて、僕はそこに向き合って座った。
「緊張しているか?」
声も出ず、首を縦に振ると、「私もだ」と笑う。
「何回しても、この儀式の時は心臓が五月蝿い」
輝惺様でも緊張すんだ……。と思うとほんの少しだけ気持ちが落ち着いた。
「では、これから私が如月のオメガの性を解放すると同時に、アルファの性でフェロモンを誘導させる。それで如月が『運命の番』なら、発情する。そうでなければ何も起こらない。儀式は終わりだ」
「……承知しました。よろしくお願いします」
三つ指をつき一礼をすると、一瞬で空気が変わった。
輝惺様のアルファの性と、僕のオメガの性が解放された瞬間だった。
自分の用事がある時も、必ず同行させて目の届くところにいさせた。
流石に湯浴みはそれぞれだったけど……。
万が一、僕と輝惺様が番になったら……湯浴みも一緒にするのだろうか……。
それは……無理だ。こんな華奢な体を見られるなんて恥ずかしすぎる。
いつもよりも長く湯浴みに時間を使ってしまい、少し逆上せてしまった。
「如月、顔が火照っている。大丈夫かい?」
「大丈夫です。少し考え事をしてしまっていて、湯浴みに時間がかかってしまいました」
輝惺様は直ぐに水を飲ませてくれた。
「直ぐに横になるといい」
今日はもう寝るだけなのだから。と、部屋まで支えてくれた。
布団に横になると、一気に眠気に襲われた。
輝惺様は僕が完全に眠りにつくまで髪を撫でてくれた。それがとても心地よくて、久しぶりに余計なことを考えずに深く眠れた。
そしていよいよ、身を捧げる儀式の当日。
目が覚めると、輝惺様はいなかった。ここのところ、毎日僕の部屋で寝ていたけれど、昨日はどうしたのだろう。
自室を出て、輝惺様の部屋に耳を当ててみたけど、既にどこかへ行った後だった。
仕方なく朝拝へと向かう。
しかし今朝は他の狼神様も来ていなかった。
凪に聞いてみると、狼神様は儀式の朝は滝行で身を清めるそうだ。
「僕たちは、帰ったら直ぐに湯浴みをして体をきれいにするんだよ」
「なんか、いよいよって感じで緊張してきた」
今朝の八乙女はみんなソワソワしている。昨日までは儀式を意識すらしてない素振りを見せていた、朱邑と秦羽も流石に落ち着きがない。
明日の朝拝には、番になった者しか来ない。
番になれなかった者は、五日後に地上界へと旅立つ。
それぞれの神殿へ帰る道中、八乙女全員で励ましあった。
「みんな番になれるって信じよう!!」
「どうなるか分からないけど、今だけは番になれるって思っていいわよね」
「明日、また会えるよな!!」
一人一人と抱きしめ合う。
「じゃあ、きっとまた此処で」
大鳥居を潜り、みんな神殿へと帰って行った。
僕も光の神殿へと向かう。
輝惺様の準備は整っているだろうか。
神殿が近づくにつれ、心臓の動きが激しさを増す。
この緊張から、一刻も早く逃れたい。でも始まってほしくないような……早く終わってほしいような……。不安と希望、どちらが大きいか? と聞かれれば、間違いなく不安のほうが大きい。
「如月、朝拝お疲れ様」
真っ白の着物に着替えた輝惺様が出迎えてくれた。
「おはようございます」
緊張する……。どんな顔で向き合えばいいのか分からない。
「湯浴みが終わったら、私の部屋へ来るように」
「は、はい!!」
自分で思っているよりもずっと大きな声で返事をしてしまった。
お辞儀をし、一旦部屋へ戻ると気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
(全く落ち着かなかった)
出来ればもう少し落ち着くまで部屋でいたい。でも待たせるわけにはいかないし……。
「ふぅっ!! よし!!」
自分に気合を入れ、湯浴みへと向かう。
隅々まで念入りに洗うと、輝惺様の部屋へと向かった。
「失礼します」
何気にここに入るのは初めてだ。中からの返事を確認すると、静かに襖を開けた。
輝惺様は微笑むと「こちらへ」と室内へ促した。
部屋に入ると、輝惺様は一組だけ敷かれた布団の上で正座をしていて、僕はそこに向き合って座った。
「緊張しているか?」
声も出ず、首を縦に振ると、「私もだ」と笑う。
「何回しても、この儀式の時は心臓が五月蝿い」
輝惺様でも緊張すんだ……。と思うとほんの少しだけ気持ちが落ち着いた。
「では、これから私が如月のオメガの性を解放すると同時に、アルファの性でフェロモンを誘導させる。それで如月が『運命の番』なら、発情する。そうでなければ何も起こらない。儀式は終わりだ」
「……承知しました。よろしくお願いします」
三つ指をつき一礼をすると、一瞬で空気が変わった。
輝惺様のアルファの性と、僕のオメガの性が解放された瞬間だった。
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