【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
64 / 75
本編

62

しおりを挟む
 儀式を三日後に控えた頃から、ソワソワしているのはむしろ狼神様の方だった。

 毎年こうなのかもしれない。

 朝拝に行ってきます。と挨拶をすると、輝惺様がついて行くと言い出したのだ。

 それは流石に恥ずかしいと思い、断ったのだけど、どうしても行くと言う。

 過保護と思われるかもしれないと思いつつ、つっぱねたりも出来ないので一緒に大神殿へと向かった。

 いつまで経っても手を繋ぐのさえ慣れない僕の肩を抱いて歩く。本当にどうしたのだ。甘やかされ過ぎてどんな態度でいればいいのか分からない。

 しかし、大神殿について更に驚きの光景を目の当たりにした。

 なんと、それぞれの狼神様が全員付き添ってきていたのだ。

 こういう仕来しきたりなのか??

 それならばそうと、言ってくれれば良かったのに……。

「如月、おはよう」
「おはよう、凪。今日は全員集合なんだね」

 すると凪はクスクスと笑い始めた。

「毎年こうなんだって。儀式まであと三日しかないから、狼神様が巫子から離れなくなるらしいよ」
「そうなの!? そういう決まり事なのかと思ってた」
「狼神様の優しさかもしれないね。番じゃなければ、もうお別れだもの」

 凪は至って穏やかな口調で喋っている。

 もう誰も番かどうかという話を切り出さなくなった。

 怖いのだ。

 万が一、自分だけが番になれなかったら……とか、色々考えてしまう。

「今年は、亜玖留様まで来てるって狼神様達が驚いてるわよ」

 蘭恋が僕達の会話に入ってきた。そう言えば、殆ど顔を見せない亜玖留様の姿がある。相当、月詠が気に入ったんだ。

 亜玖留様だけは狼神様の中でも浮いた存在なのかと思っていたけど、そんなことはないようだ。

 朔怜様や依咲那様とも親しそうに喋っている。時折、朔怜様が豪快に笑ってる。

 こんな亜玖留様を見れただけでも少し得した気持ちになる。

「あれ? 天袮様も来てるんだね」
「そうそう。天袮様はきっとみんな集まるって知ってて来たんだよ」
「輝惺様と並んでるの絵になるわね」

 蘭恋がうっとりとした視線を送る。
 二人は雰囲気が似ているから並んでると兄弟みたいだ。

「あ、蘭恋。余所見してると、煬源様がヤキモチやいちゃうよ?」
「そうかしら? そうだと嬉しいけど」

 ……蘭恋みたいにはなれないな。なんて密かに感心してしまった。

 僕はヤキモチ妬いてほしいなんて言えないや。

「如月、今日から儀式までは狼神様が付きっきりになるらしいから、気合い入れてね!!」
「頑張りましょう!!」

 凪と蘭恋に謎の気合いを貰い、朝拝を終えた。

 今日から3日間付きっきり……。

 輝惺様が僕の隣でずっといるのか……。

(ム……ムムム……ムキュっ!!)

 儀式まで心臓が持たないよぉぉお!!!
 
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。  オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。  そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。 アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。  そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。 二人の想いは無事通じ合うのか。 現在、スピンオフ作品の ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...