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本編
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しおりを挟むそこからの三日間など、一瞬と思うほど早かった。
須凰は朝拝に来ないままだったから、水神の神殿まで出向いたが、それでも僕たちに会うのを頑なに拒否した。
蘭恋なんかはこの三日間、泣き通した。
僕は自分で思ってる以上に平常心を失っていて、同じ所を何度も掃除をする……という謎行動を取ったりしていた。
この三日間で輝惺様が教えてくれたのは、須凰の地上界行きを反対したのは、朔怜様、依咲那様、煬源様だった。
理由は三人とも同じで「八乙女としての責務を全うするべき」というもの。
任務も残すところ数ヶ月。
それから降りても問題ないだろうと……。
それでも天袮様は直ぐに行かせてあげたいと、みんなを説得した。
自分は須凰としっかり話しができて納得しているということ、そして何よりも須凰の意志を尊重したいという想い。
それを全て話し、可決に持ち込んだと。
天袮様は、昨日、恭介を見に行っていたらしい。
自分は須凰を地上界へ送る覚悟はできた。しかし恭介が万が一悪いやつなら話は変わってくると……。
「でも、決まったということは……」
「ああ、天袮が認めた人だ。間違いないよ」
僕は神殿にいる間、殆どの時間を輝惺様に抱きついている。輝惺様も僕の不安を振り解くように、ずっと一緒にいてくれた。
狼神様はいつも寛大で、一緒にいるだけで安心できる。
もし僕が輝惺様と離れたら……なんて考えると、それだけで不安になってしまう。
須凰はこんなにも守られた世界を捨てでも、恭介の元へ行きたいと言ったのだ。天袮様が後押しする理由も分かる気がする。
それでも、こんな時になって、まさか八乙女が一人いなくなるなんて、誰が想像しただろうか。
輝惺様が突然、僕を強く抱きしめた。
「震えている」
僕は無意識のうちに、震えていた。
「怖いです。八乙女の旅立ちが……」
「みんな、初めての時は怖いものだ。結局狼神が最終的に許可した理由は、須凰は前例もない旅立ちを、自分で決めたというところだ。なかなかできることじゃない。応援してあげるのが、狼神としての役割じゃないかと」
「須凰を、応援してあげる?」
「そうだ。それが狼神の意見として行き着いた、一番納得出来る答えだったのだ」
僕は自分達が寂しくなることばかりを考えていた。
須凰は一人で悩んで一人で決めた。
それを応援しないで仲間だと言えるのか?
「僕も須凰を応援します」
「ああ、須凰もきっと喜ぶ」
大神殿に全員が集まった。
あの日以来に会う須凰は痩せてはいるものの、スッキリとした顔をしている。
泣きじゃくる蘭恋を、須凰が慰めていたほどだ。
そして、こういう結果になってしまったことを謝罪した。
「謝るなよ!」
朱邑の言葉に全員が頷く。
「応援してる」
月詠からもエールを送る。
「会いに行くから」
凪と秦羽、須凰が抱きしめ合った。
「如月、あの時話しを聞いてくれてありがとう。如月のお蔭で決意が固まった」
「そう言われると、複雑だよ」
「そりゃ、そうか」須凰が笑った。
「じゃあ、行くよ? 須凰、コチラへ……」
天袮様にうながされ、大神殿の神棚の前で、狼神様に囲まれた。
「ありがとうございます」
神界での、須凰の最後の言葉だった。
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