【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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本編

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 翌朝、あまり寝付けず、眠気を引きずったまま朝拝へと向かう。

(輝惺様、帰ってなかったな……)

 狼神様の会議はまだ終わらないのだろうか……。またぐるぐると堂々巡りな思考を巡らせていると、惺様が帰ってきた。

 須凰の事が決まったのか、会議持ち越しか……。胃がキュッと縮こまる。

 走り寄ることもできず、立ち尽くしていると、輝惺様からきてくれた。

「あまり眠れなかったか?」

 優しい笑顔に、思わず僕から抱きしめた。

「おやおや、これは珍しいね」

「…………」

 何か喋りたいのに言葉がでない。ただ輝惺様に顔を埋め、泣かないように耐えていた。

「須凰の最終決断を、朝拝の後に発表する」

「えっ?」

 そんなに早く……?いきなり緊張感が襲う。

 一晩で決まったのか。須凰の一生が。

 不安が頭を支配する。

 そんな僕に輝惺様は「いってらっしゃい」と頭を撫でながら朝拝へ行くよう促した。

 きっとほかの八乙女も今頃同じように言われたはずだ。

(みんなの所へ行かなくちゃ)

 自分の顔色が失われていると自覚できるほど、感情が混乱している。

 ふらふらの足取りで大神殿へと向かうと、やはり全員が同じ感情であると理解した。

 須凰は当然ことながら来ていない。

 今日の朝拝は、気持ちがバラバラで祓詞まるで合っていなかった。これが終わるとすぐに狼神様が集まってくる。みんなその重圧と闘っていた。


「全員揃っているか?」

 終わると同時に朔怜様の声に振り返った。

 既に狼神様、全員が並んでいる。天袮様も……。

 須凰は……いない。

 連れてくるかと思っていたが、そうはならなかった。

「さっそくだが、須凰が八乙女を辞め、地上界へ降りたいという申し出があった。それは前例がなく、ハッキリ言って狼神もどうするべきか悩んだ」
 朔怜様がここまで話すと、天袮様に交代した。

「私の意見を尊重してもらった。須凰を、地上界へ送ります」

「「えっ、、!!?」」

 あまりにもスッパリと言い切られ、八乙女は全員固まってしまった。

 須凰が八乙女を辞める……。

 天袮様は、本当にそれで良いのか?

 しかし、今朝の天袮さまはいつも通り天袮様だ。昨日まで寝込んでいた人とは思えない。

 あれから、もう一度須凰と話したのだろう。

 決意を固めたと言っていた須凰は、天袮様に何と言ったのだろう。

 二人の間に起きたことは誰にも話される事なく、三日後には地上界へ送る儀式が執り行なわれると発表された。
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