【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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本編

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 次の日の朝拝にも、須凰は結局来なかった。

 水神の神殿からは天袮様がいなければ来られない。

 輝惺様は天袮様の様子を一切喋らなかった。それは僕が信用ならないとかではない。きっと狼神様同士の絆からくるものだと思っている。

 須凰の許可は出そうですか? と聞いてみると、前例がないから憶測も立てられないと輝惺様が言った。

「須凰の気持ちは汲んであげたいと私は思っている。しかし、八乙女としての務めを他の狼神がどう思うか……」

 論点はそこに絞られそうだと、輝惺様は考えているようだ。


 もう、判断下されるまで須凰は朝拝に来ない気がする。

 なので他の八乙女にも須凰の現状を話しておくことにした。

「須凰が!? ……でも確かに、あの時一人で行動していた割には木の実も大量に採っていたし、なんだか楽しそうだったんだ」

 朱邑が当日を振り返って妙に納得して言う。

 その意見には秦羽も共感していた。

「須凰の様子がおかしくなった時期も被ってるし、朱邑達が感じた違和感は間違いなかったんだよ」

 凪が言う。

「それで、狼神様の会議はいつ開かれるんだ?」

「急だけど、今日の午後からやるって」

 月詠が、「そんなに天袮様の容体が悪いの?」と尋ねた。

「分からないけど、昨日水神の神殿へ行った時は寝込んでた」

 みんなの表情がどんどん曇っていく。

「もし、本当に須凰が先に地上界へ行ってしまえば、天袮様はどうなるのかしら」

「そりゃ、今年度は一人なんじゃないかな?」

「そんな……」

 蘭恋は天袮様も心配な様子だ。

「でも、そんなの狼神様が許すかな?」

「僕は……許可されない気がする」

「凪がそうんな風に言うのは意外だ」

 秦羽が答えた。

「運命の番かどうかは置いておいて、僕たちは狼神様に仕えるために神界へ来たんだ。それを途中で放り投げるなんて……」

「まあ、それはそうだけど……」

 あんなにも壊れてしまいそうな須凰を目の当たりにしてしまっている。

 僕だけがあの状態の須凰を見てしまったのは、良かったのか悪かったのか……。

 散々みんなで話あった結論、どんな結果だったとしても全てを受け入れると言うこととなった。当事者は須凰なのだ。

(それなら須凰の夢を叶えてあげて欲しい。お別れは辛いけど)

 恭介さん……見てみたかったな。
 きっと素敵な人族なのだろう。
 須凰が来てくれたら、恭介さんは喜んでくれるのかな。


 輝惺様は夜になっても帰って来ない。
 会議が長引いている。
 今日は話せそうにないな……。やはり意見が一致しないのだろう。

 自室に入ってすぐ、布団に入ったが寝られるはずはない。

 いつもなら、輝惺様が毛繕いに来るはずだが、襖が開く気配は一向にない。

 無理矢理でも寝るしかないようだ。
 
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