【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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本編

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 須凰は誰にも言わず、自分の中で気持ちを消化しようとしていた。

 自分は天袮様の巫女だし、もし運命の番であれば神子となり、ずっと神界で暮らせる。

 それを目標として天界でも頑張ってきた。八乙女にだってなかなかなれないのに、もし途中で投げ出して地上界へ行きたいなんて言えば、狼神様はどう思うだろう。

 天界の巫覡ふげき学校だって、狼神様からの信用をなくすかもしれない。

 でもどうしても忘れられない恭介の存在……。

 考えるほどに苦しくて、ゴールのない迷路をずっと彷徨っているような気持ちで今日までの日々を過ごしてきたのだろう。

「天袮様に話たんだ?」

 無言で頷く須凰。

「何か、言ってた?」

「………………」

 黙り込んでしまった。天袮様も寝込んでいるということは、須凰の告白に相当なダメージを受けてるということだ。

 巫子を大切にしている狼神様だからこそ、気持ちを向けられなかった自分に不甲斐なさを感じているかもしれない。
 いや、天袮様ならもっと強い責任を感じているような気がする。

 これについて天袮様だけの一存で答えが出されるのか、それとも銀狼七柱大神α全員で決めるのか。それすらも僕は分からない。


「如月、須凰」

 天袮様のところに行っていた輝惺様が帰ってきた。

「今日のところは帰ろう。早急に狼神を集めて最終決断を下す」

 輝惺様は須凰に向かい合わせで座った。

「今はお互い辛いし気まずいだろうが、なるべく天袮と一緒にいてやってくれないか? 天袮はなんでも一人でできてしまうが、それ故、あまり他人を頼らないところがある。でも須凰から世話をされるのは喜んでいたのだ」

「輝惺様……。俺は、こんなにも自分勝手な行動や言動をしておいて、天袮様に合わせる顔などありません」

「そんな風に言わないでくれ。別に無理に笑っていろなんて言わない。ただ傍にいてくれるだけで、安心できることだってある。私からは二人の関係に口出しはできないが、神界での時間は、どうか天袮だけをみてやってほしいのだ。これは天袮の意見ではなく、私からの勝手なお願いだ」

「……はい……」

「いい子だ。君は優しいな、須凰。また明日も来る」

 そういうと、輝惺様は立ち上がり神殿を出た。

「須凰、無理にとは言わないけど、気分転換にでも朝拝に来てよ。みんな須凰に会いたがってる」

「如月、輝惺様、ありがとう。話せただけでも少し気持ちが楽になった。それに……」

「それに?」

「やっと自分の気持ちが固まったように思う」

「須凰……」

「とにかく、今は天袮様の部屋へ行くよ。輝惺様と約束したから」

 また明日。そう言って半ば無理矢理、僕を神殿から帰らせた。



 
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