【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
55 / 75
本編

53

しおりを挟む
⭐︎須凰視点の話⭐︎ 


 倭の国で出会ったその人族は『恭介』と名乗った。

 天界の住人を見て少しは驚いていたが、元々子供の頃から、他人には見えない人が見えていたそうで、俺を見ても幽霊その類だろうと思ったらしい。

 人族に自分の姿が見えていると察して逃げ出そうとしたけど、呼び止められて咄嗟に立ち止まってしまった。

「君のその耳と尻尾は本物なの?」

 見た目よりも少し高い声と、優しい喋り方につい返事をしてしまった。

「そうだけど」

「わっ!! 喋ってくれた!! 僕ね、昔から君のような人が見えていたけど、喋ったのは初めてだよ」

 自分よりも背が高く大人びた顔をしているのに、無邪気に笑う恭介に親しみを覚えた。

「僕はこの辺によく来ているけど、君のような人を見るのは初めてだ。いつからここに住んでいるんだい?」

「……今日、だけ」

「そうなんだ!! 何をしに来たの?」

「……木の実、採りに」

「じゃあ、一緒に拾うよ!」

 もしかして捕まえられるんじゃないかという恐怖心はあったものの、人懐っこい(?)恭介と打ち解けるまでに、時間はかからなかった。

「お狐様は須凰って名前なんだね。カッコイイ!」

「俺はただの巫子だ。狼神様にお仕えしている」

「それだって凄いよ!! 僕にとては未知の世界だ。神様って本当にいるって知れただけでも嬉しいよ!」

 須凰と恭介はいろんな話をした。地上界のことも恭介はたくさん教えてくれ、益々地上界への興味が湧いてきた。

「じゃあ、須凰は神様の運命の番じゃなかったら地上界へ来るんだ?」

「うん、そうだよ」

「場所は選べるの?」

「確か、大体の場所とか環境は意見を聞いてもらえる」

「もし、そうなったら……。あのさ!! もちろん、その神様と須凰が運命の番であってほしいけど、万が一そうじゃなかったら……。お狐様と人間は番になれる?」

「へ? そんな……。そんなの、分からない……」

「そう……だよね……。ごめんね! 今の、忘れて!!」

「っ!!」

 ……もし天界の住人と人族が番になれたら……。

 恭介は俺を選ぶのか?


「おーーーーい!! 須凰ーー!!」

 向こうのほうから朱邑の声が聞こえた。

 合流できて嬉しいはずなのに、恭介との時間が終わってしまう。

「友達だね。僕もそろそろ帰るよ」

「うん……」

 朱邑達の姿も見えてるし、声も聞こえてる。

 恭介は嘘なんかじゃなく、俺達が見えているんだ。

「今行くーー!!」

 大声で返事をし、恭介と別れる時を迎えた。

 本当は、もう少し話をしていたかった。

 でも人族と一緒にいたなど、朱邑にバレるのも良くないと思い、足早に立ち去ろうとした。その時……。

 後ろ手にぐいっと腕を引かれた。

「ねえ、須凰。また、会えるよね?」

「え? 会えるかは……分からないけど……」

 だって、今日は狼神様の祀りごとがあったから来たんだ。今後も来られるとは限らない。

 下手に『会えるよ』なんて言えなかった。その時の寂しそうな恭介の顔が心に焼き付いた。

「あ……会えたら、いいね」

「須凰!! また絶対会おう!! 僕はこの山に住んでいるから!! いつまでも待ってる」

 はら、早く行って。と、朱邑を指差す。

 ペコリとお辞儀をして、恭介と別れた。

 振り返りたかったけど、できなかった。

 朱邑と秦羽とはずっと一緒にいたことにしようと話し合い、八乙女の元へと帰っていった。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。  オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。  そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。 アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。  そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。 二人の想いは無事通じ合うのか。 現在、スピンオフ作品の ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...