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本編
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⭐︎須凰視点の話⭐︎
倭の国で出会ったその人族は『恭介』と名乗った。
天界の住人を見て少しは驚いていたが、元々子供の頃から、他人には見えない人が見えていたそうで、俺を見ても幽霊だろうと思ったらしい。
人族に自分の姿が見えていると察して逃げ出そうとしたけど、呼び止められて咄嗟に立ち止まってしまった。
「君のその耳と尻尾は本物なの?」
見た目よりも少し高い声と、優しい喋り方につい返事をしてしまった。
「そうだけど」
「わっ!! 喋ってくれた!! 僕ね、昔から君のような人が見えていたけど、喋ったのは初めてだよ」
自分よりも背が高く大人びた顔をしているのに、無邪気に笑う恭介に親しみを覚えた。
「僕はこの辺によく来ているけど、君のような人を見るのは初めてだ。いつからここに住んでいるんだい?」
「……今日、だけ」
「そうなんだ!! 何をしに来たの?」
「……木の実、採りに」
「じゃあ、一緒に拾うよ!」
もしかして捕まえられるんじゃないかという恐怖心はあったものの、人懐っこい(?)恭介と打ち解けるまでに、時間はかからなかった。
「お狐様は須凰って名前なんだね。カッコイイ!」
「俺はただの巫子だ。狼神様にお仕えしている」
「それだって凄いよ!! 僕にとては未知の世界だ。神様って本当にいるって知れただけでも嬉しいよ!」
須凰と恭介はいろんな話をした。地上界のことも恭介はたくさん教えてくれ、益々地上界への興味が湧いてきた。
「じゃあ、須凰は神様の運命の番じゃなかったら地上界へ来るんだ?」
「うん、そうだよ」
「場所は選べるの?」
「確か、大体の場所とか環境は意見を聞いてもらえる」
「もし、そうなったら……。あのさ!! もちろん、その神様と須凰が運命の番であってほしいけど、万が一そうじゃなかったら……。お狐様と人間は番になれる?」
「へ? そんな……。そんなの、分からない……」
「そう……だよね……。ごめんね! 今の、忘れて!!」
「っ!!」
……もし天界の住人と人族が番になれたら……。
恭介は俺を選ぶのか?
「おーーーーい!! 須凰ーー!!」
向こうのほうから朱邑の声が聞こえた。
合流できて嬉しいはずなのに、恭介との時間が終わってしまう。
「友達だね。僕もそろそろ帰るよ」
「うん……」
朱邑達の姿も見えてるし、声も聞こえてる。
恭介は嘘なんかじゃなく、俺達が見えているんだ。
「今行くーー!!」
大声で返事をし、恭介と別れる時を迎えた。
本当は、もう少し話をしていたかった。
でも人族と一緒にいたなど、朱邑にバレるのも良くないと思い、足早に立ち去ろうとした。その時……。
後ろ手にぐいっと腕を引かれた。
「ねえ、須凰。また、会えるよね?」
「え? 会えるかは……分からないけど……」
だって、今日は狼神様の祀りごとがあったから来たんだ。今後も来られるとは限らない。
下手に『会えるよ』なんて言えなかった。その時の寂しそうな恭介の顔が心に焼き付いた。
「あ……会えたら、いいね」
「須凰!! また絶対会おう!! 僕はこの山に住んでいるから!! いつまでも待ってる」
はら、早く行って。と、朱邑を指差す。
ペコリとお辞儀をして、恭介と別れた。
振り返りたかったけど、できなかった。
朱邑と秦羽とはずっと一緒にいたことにしようと話し合い、八乙女の元へと帰っていった。
倭の国で出会ったその人族は『恭介』と名乗った。
天界の住人を見て少しは驚いていたが、元々子供の頃から、他人には見えない人が見えていたそうで、俺を見ても幽霊だろうと思ったらしい。
人族に自分の姿が見えていると察して逃げ出そうとしたけど、呼び止められて咄嗟に立ち止まってしまった。
「君のその耳と尻尾は本物なの?」
見た目よりも少し高い声と、優しい喋り方につい返事をしてしまった。
「そうだけど」
「わっ!! 喋ってくれた!! 僕ね、昔から君のような人が見えていたけど、喋ったのは初めてだよ」
自分よりも背が高く大人びた顔をしているのに、無邪気に笑う恭介に親しみを覚えた。
「僕はこの辺によく来ているけど、君のような人を見るのは初めてだ。いつからここに住んでいるんだい?」
「……今日、だけ」
「そうなんだ!! 何をしに来たの?」
「……木の実、採りに」
「じゃあ、一緒に拾うよ!」
もしかして捕まえられるんじゃないかという恐怖心はあったものの、人懐っこい(?)恭介と打ち解けるまでに、時間はかからなかった。
「お狐様は須凰って名前なんだね。カッコイイ!」
「俺はただの巫子だ。狼神様にお仕えしている」
「それだって凄いよ!! 僕にとては未知の世界だ。神様って本当にいるって知れただけでも嬉しいよ!」
須凰と恭介はいろんな話をした。地上界のことも恭介はたくさん教えてくれ、益々地上界への興味が湧いてきた。
「じゃあ、須凰は神様の運命の番じゃなかったら地上界へ来るんだ?」
「うん、そうだよ」
「場所は選べるの?」
「確か、大体の場所とか環境は意見を聞いてもらえる」
「もし、そうなったら……。あのさ!! もちろん、その神様と須凰が運命の番であってほしいけど、万が一そうじゃなかったら……。お狐様と人間は番になれる?」
「へ? そんな……。そんなの、分からない……」
「そう……だよね……。ごめんね! 今の、忘れて!!」
「っ!!」
……もし天界の住人と人族が番になれたら……。
恭介は俺を選ぶのか?
「おーーーーい!! 須凰ーー!!」
向こうのほうから朱邑の声が聞こえた。
合流できて嬉しいはずなのに、恭介との時間が終わってしまう。
「友達だね。僕もそろそろ帰るよ」
「うん……」
朱邑達の姿も見えてるし、声も聞こえてる。
恭介は嘘なんかじゃなく、俺達が見えているんだ。
「今行くーー!!」
大声で返事をし、恭介と別れる時を迎えた。
本当は、もう少し話をしていたかった。
でも人族と一緒にいたなど、朱邑にバレるのも良くないと思い、足早に立ち去ろうとした。その時……。
後ろ手にぐいっと腕を引かれた。
「ねえ、須凰。また、会えるよね?」
「え? 会えるかは……分からないけど……」
だって、今日は狼神様の祀りごとがあったから来たんだ。今後も来られるとは限らない。
下手に『会えるよ』なんて言えなかった。その時の寂しそうな恭介の顔が心に焼き付いた。
「あ……会えたら、いいね」
「須凰!! また絶対会おう!! 僕はこの山に住んでいるから!! いつまでも待ってる」
はら、早く行って。と、朱邑を指差す。
ペコリとお辞儀をして、恭介と別れた。
振り返りたかったけど、できなかった。
朱邑と秦羽とはずっと一緒にいたことにしようと話し合い、八乙女の元へと帰っていった。
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