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本編
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「天袮様は、悪くないんだ」
空気を吐き出すくらいの小さな声で、須凰が話し始めた。
神殿の前に、蹲り膝を抱えている。
こんなにも覇気のない須凰は、天界でいた頃から考えても初めて見る。いつだって楽しい事が大好きで、好奇心旺盛で……。
それなのに、こんなにまで衰弱している原因を、何一つ仮定すら出来ない。
一人でずっと考え込んできたというのか。誰にも相談せずに……。たった一人で。
それで、こんなにも弱ってしまうなんて余程の理由なのだろう。
「須凰が、天袮さまに何かしたの?」
黙ったまま首を横に振る。
「じゃあ、一体何が原因でこんなことに……」
須凰の髪を撫でて整えた。
いつもはハリのある髪の毛が、パサついている。顔色も良くない。見れば見るほど、普段の須凰からはかけ離れていた。
「……俺が、辞めたいなんて言ったから」
「えっ? 辞めるって、何を?」
突然、想像もできない言葉が耳に入ってきた。辞める? 須凰が?
「……八乙女を」
「っ!!! どうして!? 今まで頑張ってきたじゃないか!! 何で? あと半年も残ってないんだよ?」
こんな風に詰め寄りたいんじゃない。でもあまりにも突拍子のないことを言い出すから、責めるような言い方をしてしまった。
須凰はそんなのは十分承知の上だと言う。
「分かってる。俺も、八乙女を最後まで務めるのも大事な仕事任期の最後までは全うしようと思ってた。でも、それでは辛過ぎたんだ」
須凰の目には、既に溢れそうなほどの涙を浮かべている。
そこまで追い詰めた理由はなんなのか?
「天袮様を裏切るようなことを、言ってしまった」
「それは辞めないといけない理由なの?」
須凰はコクリと頷いた。
僕の隣で聞いていた輝惺様が立ち上がり、「天袮のところへ行ってくる」と言って神殿から出ていった。
もしかすると、須凰が少しでも喋りやすいように、気を使ってくれたのかもしれない。
須凰はそんな輝惺様の背中に、体が震え始めた。
「どうしたの? 話してくれないと分からないじゃないか」
「ごめん。ちゃんと言う」
実は……と、話し始めた須凰の話は、みんなで地上界へ行ったところまで遡る。
空気を吐き出すくらいの小さな声で、須凰が話し始めた。
神殿の前に、蹲り膝を抱えている。
こんなにも覇気のない須凰は、天界でいた頃から考えても初めて見る。いつだって楽しい事が大好きで、好奇心旺盛で……。
それなのに、こんなにまで衰弱している原因を、何一つ仮定すら出来ない。
一人でずっと考え込んできたというのか。誰にも相談せずに……。たった一人で。
それで、こんなにも弱ってしまうなんて余程の理由なのだろう。
「須凰が、天袮さまに何かしたの?」
黙ったまま首を横に振る。
「じゃあ、一体何が原因でこんなことに……」
須凰の髪を撫でて整えた。
いつもはハリのある髪の毛が、パサついている。顔色も良くない。見れば見るほど、普段の須凰からはかけ離れていた。
「……俺が、辞めたいなんて言ったから」
「えっ? 辞めるって、何を?」
突然、想像もできない言葉が耳に入ってきた。辞める? 須凰が?
「……八乙女を」
「っ!!! どうして!? 今まで頑張ってきたじゃないか!! 何で? あと半年も残ってないんだよ?」
こんな風に詰め寄りたいんじゃない。でもあまりにも突拍子のないことを言い出すから、責めるような言い方をしてしまった。
須凰はそんなのは十分承知の上だと言う。
「分かってる。俺も、八乙女を最後まで務めるのも大事な仕事任期の最後までは全うしようと思ってた。でも、それでは辛過ぎたんだ」
須凰の目には、既に溢れそうなほどの涙を浮かべている。
そこまで追い詰めた理由はなんなのか?
「天袮様を裏切るようなことを、言ってしまった」
「それは辞めないといけない理由なの?」
須凰はコクリと頷いた。
僕の隣で聞いていた輝惺様が立ち上がり、「天袮のところへ行ってくる」と言って神殿から出ていった。
もしかすると、須凰が少しでも喋りやすいように、気を使ってくれたのかもしれない。
須凰はそんな輝惺様の背中に、体が震え始めた。
「どうしたの? 話してくれないと分からないじゃないか」
「ごめん。ちゃんと言う」
実は……と、話し始めた須凰の話は、みんなで地上界へ行ったところまで遡る。
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