【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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 勘違いだと思いたかった須凰の違和感は、残念なことにあれから如実に現れ始めた。

 まず、少しずつ朝拝を休むようになってきた。水神の神殿は滝の麓にあるため、いつも大神殿まで送ってもらっている。
 初めは天袮あまね様の都合で来られなかったのかと思っていた。それにしても以前はこんな頻繁には休まなかった。

 流石の八乙女も須凰の様子に目を背けられない状況だ。

 何か思うところがあるなら須凰から言ってほしいが、それどころか『触れて欲しくない』と、全身で訴えているように感じ、成す術なく誰もが気づかないフリに徹していた。

 それでもワザと明るく接するにも限界がある。

 ついに須凰に次こそ理由を聞こう! となった時から、ついに一日も朝拝に出てこなくなってしまった。

 どうしたのだろう。全てが謎に包まれている。天袮様と喧嘩でもしたか?

 いや、喧嘩はあり得ない。

 いつも気持ちに余裕のある天袮様が、八乙女と喧嘩なんてあり得ないことだ。

 輝惺様は天袮様と会ったりしていないのだろうか。

 僕が輝惺様との関係に悩んでいる時、天袮様が凄く力になってくれた。

 もし、須凰との間に何かあるなら力になりたい。

 でも輝惺様からも、最近は天袮様とは会っていないと言われてしまった。

 こんな時に限って誰もあの二人に会っていないなんて……。

「……不自然だな」

 フッと気づいたのは輝惺様だった。

「水神の神殿へ行こう、如月」

「はい!」

 思い立って直ぐに行動に移した。


 今日の水神の神殿はえらく冷たく感じた。それを感じ取った輝惺様は「やはりな……」と呟くと、滝の下へ飛び降りた。

「天袮様? 須凰?」

 呼びかけても返事はない。

 須凰もいない? 二人で出かけているのなら良いのだけれど……。


 でも二人の状況は、そんな簡単なものではなかった。

 喧嘩なら仲直りをすればいい話。でもこの後、天袮様と須凰の関係がもっと深刻なことになっていようなど、誰が考えただろうか……。

 水神の神殿の前でしばらく待っていると、中から須凰が出てきた。

「須凰? 一体、どうしたの? 何があったの?」

 身なりも整えず、ふらふらの足取りで出てきた須凰に駆け寄った。

「うん、大丈夫。朝拝に行けてなくてごめんね」
 
 力無く喋る須凰。朝拝など、今はそんなのどうだっていい。

 それよりも、目の前の須凰の方が心配だ。

「天袮様はいないの?」

「いるのはいるんだけど……。今日は寝込んでしまってて出て来られないんだ」

「なんだって!?」

 あの、いつも冷静で感情のコントロールも上手な天袮様が寝込むなんて……。

「須凰、ここで何があったのか、教えてくれないかな?」

 須凰は何もしたくなさそうだった。何もせずに、この神殿に座っていたい。

 そんな態度を示したが、自分自身、これではいけないと分かっているのだろう。

 目は合さないまま、少しずつ話し始めた。
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