52 / 75
本編
50
しおりを挟む
勘違いだと思いたかった須凰の違和感は、残念なことにあれから如実に現れ始めた。
まず、少しずつ朝拝を休むようになってきた。水神の神殿は滝の麓にあるため、いつも大神殿まで送ってもらっている。
初めは天袮様の都合で来られなかったのかと思っていた。それにしても以前はこんな頻繁には休まなかった。
流石の八乙女も須凰の様子に目を背けられない状況だ。
何か思うところがあるなら須凰から言ってほしいが、それどころか『触れて欲しくない』と、全身で訴えているように感じ、成す術なく誰もが気づかないフリに徹していた。
それでもワザと明るく接するにも限界がある。
ついに須凰に次こそ理由を聞こう! となった時から、ついに一日も朝拝に出てこなくなってしまった。
どうしたのだろう。全てが謎に包まれている。天袮様と喧嘩でもしたか?
いや、喧嘩はあり得ない。
いつも気持ちに余裕のある天袮様が、八乙女と喧嘩なんてあり得ないことだ。
輝惺様は天袮様と会ったりしていないのだろうか。
僕が輝惺様との関係に悩んでいる時、天袮様が凄く力になってくれた。
もし、須凰との間に何かあるなら力になりたい。
でも輝惺様からも、最近は天袮様とは会っていないと言われてしまった。
こんな時に限って誰もあの二人に会っていないなんて……。
「……不自然だな」
フッと気づいたのは輝惺様だった。
「水神の神殿へ行こう、如月」
「はい!」
思い立って直ぐに行動に移した。
今日の水神の神殿はえらく冷たく感じた。それを感じ取った輝惺様は「やはりな……」と呟くと、滝の下へ飛び降りた。
「天袮様? 須凰?」
呼びかけても返事はない。
須凰もいない? 二人で出かけているのなら良いのだけれど……。
でも二人の状況は、そんな簡単なものではなかった。
喧嘩なら仲直りをすればいい話。でもこの後、天袮様と須凰の関係がもっと深刻なことになっていようなど、誰が考えただろうか……。
水神の神殿の前でしばらく待っていると、中から須凰が出てきた。
「須凰? 一体、どうしたの? 何があったの?」
身なりも整えず、ふらふらの足取りで出てきた須凰に駆け寄った。
「うん、大丈夫。朝拝に行けてなくてごめんね」
力無く喋る須凰。朝拝など、今はそんなのどうだっていい。
それよりも、目の前の須凰の方が心配だ。
「天袮様はいないの?」
「いるのはいるんだけど……。今日は寝込んでしまってて出て来られないんだ」
「なんだって!?」
あの、いつも冷静で感情のコントロールも上手な天袮様が寝込むなんて……。
「須凰、ここで何があったのか、教えてくれないかな?」
須凰は何もしたくなさそうだった。何もせずに、この神殿に座っていたい。
そんな態度を示したが、自分自身、これではいけないと分かっているのだろう。
目は合さないまま、少しずつ話し始めた。
まず、少しずつ朝拝を休むようになってきた。水神の神殿は滝の麓にあるため、いつも大神殿まで送ってもらっている。
初めは天袮様の都合で来られなかったのかと思っていた。それにしても以前はこんな頻繁には休まなかった。
流石の八乙女も須凰の様子に目を背けられない状況だ。
何か思うところがあるなら須凰から言ってほしいが、それどころか『触れて欲しくない』と、全身で訴えているように感じ、成す術なく誰もが気づかないフリに徹していた。
それでもワザと明るく接するにも限界がある。
ついに須凰に次こそ理由を聞こう! となった時から、ついに一日も朝拝に出てこなくなってしまった。
どうしたのだろう。全てが謎に包まれている。天袮様と喧嘩でもしたか?
いや、喧嘩はあり得ない。
いつも気持ちに余裕のある天袮様が、八乙女と喧嘩なんてあり得ないことだ。
輝惺様は天袮様と会ったりしていないのだろうか。
僕が輝惺様との関係に悩んでいる時、天袮様が凄く力になってくれた。
もし、須凰との間に何かあるなら力になりたい。
でも輝惺様からも、最近は天袮様とは会っていないと言われてしまった。
こんな時に限って誰もあの二人に会っていないなんて……。
「……不自然だな」
フッと気づいたのは輝惺様だった。
「水神の神殿へ行こう、如月」
「はい!」
思い立って直ぐに行動に移した。
今日の水神の神殿はえらく冷たく感じた。それを感じ取った輝惺様は「やはりな……」と呟くと、滝の下へ飛び降りた。
「天袮様? 須凰?」
呼びかけても返事はない。
須凰もいない? 二人で出かけているのなら良いのだけれど……。
でも二人の状況は、そんな簡単なものではなかった。
喧嘩なら仲直りをすればいい話。でもこの後、天袮様と須凰の関係がもっと深刻なことになっていようなど、誰が考えただろうか……。
水神の神殿の前でしばらく待っていると、中から須凰が出てきた。
「須凰? 一体、どうしたの? 何があったの?」
身なりも整えず、ふらふらの足取りで出てきた須凰に駆け寄った。
「うん、大丈夫。朝拝に行けてなくてごめんね」
力無く喋る須凰。朝拝など、今はそんなのどうだっていい。
それよりも、目の前の須凰の方が心配だ。
「天袮様はいないの?」
「いるのはいるんだけど……。今日は寝込んでしまってて出て来られないんだ」
「なんだって!?」
あの、いつも冷静で感情のコントロールも上手な天袮様が寝込むなんて……。
「須凰、ここで何があったのか、教えてくれないかな?」
須凰は何もしたくなさそうだった。何もせずに、この神殿に座っていたい。
そんな態度を示したが、自分自身、これではいけないと分かっているのだろう。
目は合さないまま、少しずつ話し始めた。
1
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる