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本編
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火の神の神殿では、蘭恋の毛繕いから一日がスタートするようになっていた。そのためか、朝拝に来た蘭恋はいつも頬を赤らめている……ように感じる。
他の八乙女は何も言わないから、僕の思い込みかもしれないけど。
毎日毛繕いされても、くすぐったいような何だか変な気分になるのは変わらない。そのうち慣れるだろうと思っていたけど、一向に慣れる気配はなかった。
最近の蘭恋との会話は、もっぱら狼神様の話題ばかりだ。
「ごめんね、輝惺様が煬源様に教えてたなんて知らなくて……」
「如月は悪くないわ。別に髪を触られるのは嬉しいのよ。煬源様、とっても優しいし。だからもう、そこは煬源様がやりたいようにやってくれればいいかなって思ってるの」
「蘭恋は大人だね。僕は尻尾を触られるから、体が反応しないように耐えるのに必死だよ」
「如月……それは絶対ダメよ?」
「分かってるから我慢してるんだよぅ!!」
僕の嘆きを理解してくれるのもまた、蘭恋だけだ。「確かに、尻尾ってくすぐったいのよね」なんて同情の声を掛けてくれる。
毛繕いを断って、折角縮まった距離がまた開くのも、それはそれで嫌だ。
(今日も部屋に来てくれるかな)なんて期待も毎日してしまう。
それを思えば、凪は良くもあんなにリラックス出来るものだと感心してしまう。
今にも寝てしまいそうなほど、ウットリと頭を委ねていた。一度、どんな風にされているのか凪に聞く必要がありそうだ。
「如月ー!! 蘭恋ー!! 早く、朝拝始めるぞー!!」
考え込んでしまって肝心の朝拝を忘れてしまっていた。
朱邑に呼ばれて我に返った。
「ごめん、今行く!!」
蘭恋と並んで走り出す。
「如月達、最近何を話し込んでるんだ?」
「い、いや……そんな大したことはないんだけどね……ははっ……」
狼神様に毛繕いされてます。なんて言ったらどんな反応が返ってくるだろうか……。
というか、朱邑に知られれば朔怜様に言われてしまう恐れもある。
これは僕と蘭恋だけの秘密にしておこう。蘭恋も同じように考えたようで、同調して話を逸らせた。
その帰り道、朱邑に再び声を掛けられる。
「なあ、最近、須凰ちょっと変じゃないか?」
突然言われても、僕は何も感じていなかった。しっかり者の蘭恋も同じように返事をした。
「朱邑の気のせいじゃなくて?」
「いや、俺も初めはそう思ってたんだけど、秦羽も言い出したからさ。みんなはどう思ってるのかなって」
「いつからそう感じているの?」
「そうだな……地上界から帰って……少し経ったころから?」
そんな前から気付いてたなんて! 僕は須凰の異変なんて微塵も感じていなかった。
朱邑と秦羽は特に須凰と仲が良いから……という理由もあるだろうが、それにしてもそんな長い期間気付かなかった自分にショックを受けた。
蘭恋はしばらく火の神の神殿から出てこなかったから仕方ないとして、僕は毎日顔を合わせていたのに……。
「本人には何か聞いてみた?」
「ああ、聞いたって言うか……元気ないなって声を掛けたりもしたんだけどな。そんなことないよって言って終わっちゃってさ」
「ふーん……。確かに、いつもの須凰ならもっと違う反応を見せる気がするね」
「でも、問い詰めるのも良くないし、しばらくは様子を見ましょう」
「そうだな……」
須凰……、天袮様と喧嘩でもしたのかな? 今日は大神殿まで迎えに来てないし……。
前を歩く須凰は普通に凪と楽しそうに話している。
僕達の勘違いであって欲しいと願いながら、光の神の神殿へと向かった。
他の八乙女は何も言わないから、僕の思い込みかもしれないけど。
毎日毛繕いされても、くすぐったいような何だか変な気分になるのは変わらない。そのうち慣れるだろうと思っていたけど、一向に慣れる気配はなかった。
最近の蘭恋との会話は、もっぱら狼神様の話題ばかりだ。
「ごめんね、輝惺様が煬源様に教えてたなんて知らなくて……」
「如月は悪くないわ。別に髪を触られるのは嬉しいのよ。煬源様、とっても優しいし。だからもう、そこは煬源様がやりたいようにやってくれればいいかなって思ってるの」
「蘭恋は大人だね。僕は尻尾を触られるから、体が反応しないように耐えるのに必死だよ」
「如月……それは絶対ダメよ?」
「分かってるから我慢してるんだよぅ!!」
僕の嘆きを理解してくれるのもまた、蘭恋だけだ。「確かに、尻尾ってくすぐったいのよね」なんて同情の声を掛けてくれる。
毛繕いを断って、折角縮まった距離がまた開くのも、それはそれで嫌だ。
(今日も部屋に来てくれるかな)なんて期待も毎日してしまう。
それを思えば、凪は良くもあんなにリラックス出来るものだと感心してしまう。
今にも寝てしまいそうなほど、ウットリと頭を委ねていた。一度、どんな風にされているのか凪に聞く必要がありそうだ。
「如月ー!! 蘭恋ー!! 早く、朝拝始めるぞー!!」
考え込んでしまって肝心の朝拝を忘れてしまっていた。
朱邑に呼ばれて我に返った。
「ごめん、今行く!!」
蘭恋と並んで走り出す。
「如月達、最近何を話し込んでるんだ?」
「い、いや……そんな大したことはないんだけどね……ははっ……」
狼神様に毛繕いされてます。なんて言ったらどんな反応が返ってくるだろうか……。
というか、朱邑に知られれば朔怜様に言われてしまう恐れもある。
これは僕と蘭恋だけの秘密にしておこう。蘭恋も同じように考えたようで、同調して話を逸らせた。
その帰り道、朱邑に再び声を掛けられる。
「なあ、最近、須凰ちょっと変じゃないか?」
突然言われても、僕は何も感じていなかった。しっかり者の蘭恋も同じように返事をした。
「朱邑の気のせいじゃなくて?」
「いや、俺も初めはそう思ってたんだけど、秦羽も言い出したからさ。みんなはどう思ってるのかなって」
「いつからそう感じているの?」
「そうだな……地上界から帰って……少し経ったころから?」
そんな前から気付いてたなんて! 僕は須凰の異変なんて微塵も感じていなかった。
朱邑と秦羽は特に須凰と仲が良いから……という理由もあるだろうが、それにしてもそんな長い期間気付かなかった自分にショックを受けた。
蘭恋はしばらく火の神の神殿から出てこなかったから仕方ないとして、僕は毎日顔を合わせていたのに……。
「本人には何か聞いてみた?」
「ああ、聞いたって言うか……元気ないなって声を掛けたりもしたんだけどな。そんなことないよって言って終わっちゃってさ」
「ふーん……。確かに、いつもの須凰ならもっと違う反応を見せる気がするね」
「でも、問い詰めるのも良くないし、しばらくは様子を見ましょう」
「そうだな……」
須凰……、天袮様と喧嘩でもしたのかな? 今日は大神殿まで迎えに来てないし……。
前を歩く須凰は普通に凪と楽しそうに話している。
僕達の勘違いであって欲しいと願いながら、光の神の神殿へと向かった。
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