【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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本編

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 三十日ほど朝拝に来なかった蘭恋も、ようやく大神殿に顔を見せ始めた。

煬源ようげん様がね、心配し過ぎてるだけなの」
 なんて蘭恋は笑っていたけれど、火の神の神殿にこもっている間、煬源様が不在の間は鳥居に結界を張り、誰かが潜ろうものなら燃えてしまうところだったのだ。

 僕が蘭恋にお花のお茶を届けに行った時は、たまたま輝惺様と一緒だったから結界に気付いてくれたけど……。あの時一人で行っていれば、僕は確実に跡形もなく燃え尽きていた。

 蘭恋が目を覚ました時、煬源様は襲われた記憶も消してもらってはどうか? と蘭恋に持ちかけたらしい。でもそれは蘭恋から断った。「忘れてはいけない記憶なので……」と言う理由だった。

「普段、煬源様がどんなに危険な任務をされているか、忘れたくはありません」
 面と向かって言った蘭恋を、煬源様は力の限り抱きしめたそうだ。

 僕なら、怖くてトラウマになってしまう。と言ってしまった。

「私ね、あの時、煬源様のためならって思って咄嗟に体が動いたの。でも、その一瞬に見えた煬源様の顔がとても悲しんでいるようだった。血まみれになって痛かったし怖かったけど……。でも、それよりも煬源様の為に生きられないことの方が、ずっと怖いって気づいてしまったのよ」

「蘭恋……。それはきっと煬源様も同じ気持ちじゃないのかな?」

「ふふ。まさしく、そう言われたわ。『君を失う恐怖に比べれば、罪人に襲われるなど僅かにも怖くない』って」

 この三十日に渡る二人きりの日々は、お互いの存在を確かめ合うのに必要だったと蘭恋は言った。

 どんなに楽しくても分かち合っていても、『運命の番』でなければ一年という期間しか一緒にいられない。僕たちにはずっとその条件が付きまとっている。

 煬源様と蘭恋は相思相愛だけど、だからと言って一緒にいられる保証はない。

 みんな怖いのだ。

 だから一時も無駄な時間を作りたくはない。こんなにも愛し合っている二人なら尚のこと。

「煬源様は、自分が地上界へ私を連れて行ったことを後悔していたんだけど、そんなことはないわ。地上界はとても綺麗で楽しかった。また連れて行ってほしいって頼んだのよ。煬源様となら、どこに行っても楽しいに決まってるもの」

「そうだね。僕も輝惺様となら、どこにだって行ける気がする」

 今度こそ、大地神の神殿へ行こうね。と話し合った。

 蘭恋は煬源様も連れて行くわと言った。

 花畑に佇む蘭恋を想像してみる。

 とても絵になりそうだ。
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