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本編
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輝惺様との誤解が解けてからはまさに順風満帆!
目覚めもいいし、これまでの蟠りもすっかり消え去った。
(もし、一緒に寝よう。なんて言われちゃったらどうしよう)
なんて思っていたけど、そんなことはなく健全な『狼神様と巫子』の関係を続けている。
凪が麿衣様と毎日布団を並べて一緒に寝ていると言っていたから少し期待しただけで……。
でも本当に一緒に寝るなんて事態になれば、絶対に眠れないのも目に見えているのでこれで良いのだ。
(輝惺様の寝顔はちょっと見てみたい気もするけど)
今となっては、あれだけ悩んでいた日々が嘘のように穏やかで、何も疑わずに向き合えるのがこんなにも幸せなのだとヒシヒシ感じている。
あれからは大地神の神殿へ二人でお邪魔したり、水神の神殿にも行ったり、問題が全て解決したと報告できたのも良かった。
僕と輝惺様二人で神殿を訪れたのを、麿衣様も天袮様もとても喜んでくれた。
二人とも、輝惺様の前の巫子とのことを心配していたと言っていた。
麿衣様は、輝惺様から『花を分けてほしい』と言われた時点で大体の察しはついていたようだけど……。ただ確信ではなかったため、僕には言えなかったと話してくれた。
「ごめんね、如月が大地神の神殿に来てくれた時、本当は元気がないのに気づいていたんだけど……」
麿衣様が申し訳なさそうに言う。
でもそれは麿衣様が悪いわけではない。僕は「とんでもないです」と返しておいた。
すると麿衣様が、地上界に咲いている淡い桃色の花を見ておいでと切り出した。
今がちょうど見頃なのだそうだ。
「そうだね、そういえば私と一緒に地上界へ行ったことがなかった。明日にでも見に行こうか」
「輝惺様……いいのですか!?」
輝惺様と地上界へ行ける!! 麿衣様の粋な計らいに感謝した。
そして、実際に見たその花はとても綺麗だった。
「麿衣様は、こんなに綺麗な花を咲かせているのですね」
「如月にも良く似合っている」
人族が足を踏み入れていない山奥を手を繋いで歩いた。
「こんな風に、色んな思い出をたくさん作りたいです」
「私もだ」
今度こそ、悲観的でもなく本音として言えた。
自然に目が合う。
輝惺様が僕の頭についていた桃色の花びらを摘みとった。
花びらを眺めながら輝惺様が呟く。
「……来年も、一緒に見たいな」
フッと息を吹きかけて花びらを飛ばした。
他の花びらに混ざって舞い落ちた桃色は、僕の心に降り積もる。
「僕も、また一緒に来たいです」
———来年。
番でなければ叶わない夢。
微笑みながら景色を眺める輝惺様の横顔から、視線を逸らせないでいた。
ずっと、この笑顔が見られますように……。
目覚めもいいし、これまでの蟠りもすっかり消え去った。
(もし、一緒に寝よう。なんて言われちゃったらどうしよう)
なんて思っていたけど、そんなことはなく健全な『狼神様と巫子』の関係を続けている。
凪が麿衣様と毎日布団を並べて一緒に寝ていると言っていたから少し期待しただけで……。
でも本当に一緒に寝るなんて事態になれば、絶対に眠れないのも目に見えているのでこれで良いのだ。
(輝惺様の寝顔はちょっと見てみたい気もするけど)
今となっては、あれだけ悩んでいた日々が嘘のように穏やかで、何も疑わずに向き合えるのがこんなにも幸せなのだとヒシヒシ感じている。
あれからは大地神の神殿へ二人でお邪魔したり、水神の神殿にも行ったり、問題が全て解決したと報告できたのも良かった。
僕と輝惺様二人で神殿を訪れたのを、麿衣様も天袮様もとても喜んでくれた。
二人とも、輝惺様の前の巫子とのことを心配していたと言っていた。
麿衣様は、輝惺様から『花を分けてほしい』と言われた時点で大体の察しはついていたようだけど……。ただ確信ではなかったため、僕には言えなかったと話してくれた。
「ごめんね、如月が大地神の神殿に来てくれた時、本当は元気がないのに気づいていたんだけど……」
麿衣様が申し訳なさそうに言う。
でもそれは麿衣様が悪いわけではない。僕は「とんでもないです」と返しておいた。
すると麿衣様が、地上界に咲いている淡い桃色の花を見ておいでと切り出した。
今がちょうど見頃なのだそうだ。
「そうだね、そういえば私と一緒に地上界へ行ったことがなかった。明日にでも見に行こうか」
「輝惺様……いいのですか!?」
輝惺様と地上界へ行ける!! 麿衣様の粋な計らいに感謝した。
そして、実際に見たその花はとても綺麗だった。
「麿衣様は、こんなに綺麗な花を咲かせているのですね」
「如月にも良く似合っている」
人族が足を踏み入れていない山奥を手を繋いで歩いた。
「こんな風に、色んな思い出をたくさん作りたいです」
「私もだ」
今度こそ、悲観的でもなく本音として言えた。
自然に目が合う。
輝惺様が僕の頭についていた桃色の花びらを摘みとった。
花びらを眺めながら輝惺様が呟く。
「……来年も、一緒に見たいな」
フッと息を吹きかけて花びらを飛ばした。
他の花びらに混ざって舞い落ちた桃色は、僕の心に降り積もる。
「僕も、また一緒に来たいです」
———来年。
番でなければ叶わない夢。
微笑みながら景色を眺める輝惺様の横顔から、視線を逸らせないでいた。
ずっと、この笑顔が見られますように……。
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