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本編
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「ケジメとは、どういうことですか」
訳が分からず輝惺様に訪ねた。
「前の巫子には本当に世話になった。それなのに自分の都合で見送りも出来なかったのが心残りだったのだ」
「じゃあ、やはり先日の麿衣様のお花は……」
「え? なぜそれを知って……」
あっ……、と思った時にはもう遅い。箱の中を見たのを自分から暴露してしまった。
素直に謝罪したら、構わないと言ってくれた。
「麿衣に沢山の花を分けてほしいと頼んでいた。何も理由を聞かずに準備してくれて感謝している。気持ちの整理ができたら、改めて麿衣へ報告も兼ねて全て言うつもりでいた」
「麿衣様、分かってらっしゃると思いますよ」
「そうか……」
輝惺様が柔らかく微笑んだ。
「花は確かに前の巫子のために準備してもらったものだ」
「先日は地上界へ行ってらしたのですね」
「そうだ。それが私のケジメだから」
「巫子には、会えましたか?」
輝惺様は首を静かに横に振る。
「会いはしない。『ありがとう』と『さようなら』の気持ちを込めて、花を植えてきたのだ。麿衣の花畑へ遊びに行くのが好きだったからな」
確かに、麿衣様の花畑はとても綺麗だ。僕もまた行きたいと思っている。
「私からできる、せめてもの餞だ。これで、やっと気持ちの整理ができたのだ」
改めて僕と向き合う。
慌てて起きあがろうとしたけど、制止された。「そのままでいいから聞いてくれ」と言って、再び僕の手を取った。
「如月、まだ君の気持ちが変わっていないなら、今後も私の巫子としてここにいて欲しい」
「……いても、良いんですか?」
気持ちが込み上げてきて上手く喋れない。
まさか、輝惺様からこんなことを言われるなんて、思ってもいなかった。
「如月にここにいて欲しいのだ。私のわがままで、辛い思いをさせてしまった。嫌いになったなら、構わず断ってくれ」
「そんなわけ……。僕はずっと輝惺様にお仕えしたくて……念願かなってここへ参りました。番になる夢など持ってはいけないと、己に言い聞かせていました。でも、他の八乙女を見ていると欲が出てしまい、輝惺様を困らせるようなことを聞いて、申し訳ありませんでした」
「如月は何も悪くない。私と亜玖留を助けるために一生懸命になってくれた。そして、私が君と向き合う決意ができるまで待ってくれた。感謝してもしきれない」
「じゃあ、輝惺様は番う相手として僕を見てくれるというのですか?」
「当たり前だ。こんなにも毎日如月の頑張る姿を見ていて、番たいと思わない訳がない。これは私だけの問題だと思っていたのだが、天袮と話してやっと勇気が出た。前の巫子の話など、聞きたくないと思って隠していたのが裏目に出てしまった。許してくれ」
輝惺様が深々を頭を下げるものだから、飛び起きて頭を上げてもらった。
誤解が解けて良かった。
あと少しで諦めるところだった。
頭を上げた輝惺様の懐にすっぽりと包み込まれた。
「ここから改めて始めさせてくれ。如月」
「僕こそ、どうぞよろしくお願いします」
輝惺様の胴に腕を回す。
細いのに、しっかりと鍛え上げられた逞しさを目の当たりにして、心臓が落ち着かなかった。
訳が分からず輝惺様に訪ねた。
「前の巫子には本当に世話になった。それなのに自分の都合で見送りも出来なかったのが心残りだったのだ」
「じゃあ、やはり先日の麿衣様のお花は……」
「え? なぜそれを知って……」
あっ……、と思った時にはもう遅い。箱の中を見たのを自分から暴露してしまった。
素直に謝罪したら、構わないと言ってくれた。
「麿衣に沢山の花を分けてほしいと頼んでいた。何も理由を聞かずに準備してくれて感謝している。気持ちの整理ができたら、改めて麿衣へ報告も兼ねて全て言うつもりでいた」
「麿衣様、分かってらっしゃると思いますよ」
「そうか……」
輝惺様が柔らかく微笑んだ。
「花は確かに前の巫子のために準備してもらったものだ」
「先日は地上界へ行ってらしたのですね」
「そうだ。それが私のケジメだから」
「巫子には、会えましたか?」
輝惺様は首を静かに横に振る。
「会いはしない。『ありがとう』と『さようなら』の気持ちを込めて、花を植えてきたのだ。麿衣の花畑へ遊びに行くのが好きだったからな」
確かに、麿衣様の花畑はとても綺麗だ。僕もまた行きたいと思っている。
「私からできる、せめてもの餞だ。これで、やっと気持ちの整理ができたのだ」
改めて僕と向き合う。
慌てて起きあがろうとしたけど、制止された。「そのままでいいから聞いてくれ」と言って、再び僕の手を取った。
「如月、まだ君の気持ちが変わっていないなら、今後も私の巫子としてここにいて欲しい」
「……いても、良いんですか?」
気持ちが込み上げてきて上手く喋れない。
まさか、輝惺様からこんなことを言われるなんて、思ってもいなかった。
「如月にここにいて欲しいのだ。私のわがままで、辛い思いをさせてしまった。嫌いになったなら、構わず断ってくれ」
「そんなわけ……。僕はずっと輝惺様にお仕えしたくて……念願かなってここへ参りました。番になる夢など持ってはいけないと、己に言い聞かせていました。でも、他の八乙女を見ていると欲が出てしまい、輝惺様を困らせるようなことを聞いて、申し訳ありませんでした」
「如月は何も悪くない。私と亜玖留を助けるために一生懸命になってくれた。そして、私が君と向き合う決意ができるまで待ってくれた。感謝してもしきれない」
「じゃあ、輝惺様は番う相手として僕を見てくれるというのですか?」
「当たり前だ。こんなにも毎日如月の頑張る姿を見ていて、番たいと思わない訳がない。これは私だけの問題だと思っていたのだが、天袮と話してやっと勇気が出た。前の巫子の話など、聞きたくないと思って隠していたのが裏目に出てしまった。許してくれ」
輝惺様が深々を頭を下げるものだから、飛び起きて頭を上げてもらった。
誤解が解けて良かった。
あと少しで諦めるところだった。
頭を上げた輝惺様の懐にすっぽりと包み込まれた。
「ここから改めて始めさせてくれ。如月」
「僕こそ、どうぞよろしくお願いします」
輝惺様の胴に腕を回す。
細いのに、しっかりと鍛え上げられた逞しさを目の当たりにして、心臓が落ち着かなかった。
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