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本編
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輝惺様はずっと手を握ってくれていた。
僕の手はいつも少し冷たい。だから余計に輝惺様の温かさが伝わってくる。
「如月、私と亜玖留を助けてくれて、本当にありがとう。今こうして自分の体に戻れたのは、如月のお蔭だ」
「僕だけではありません。狼神様や八乙女がすぐに力を貸してくれたから成し遂げることができました」
あの時はみんなが一つの目標に向かって進んでいた。
大変だったけど、とても充実した時間だった。夢中だった。
「あれから直ぐに回復できたのも、如月が私を支えてくれているからだ」
突然、どうしたのだろう。
僕が弱っているから気を遣わせているのだろうか。
感謝してもらえて嬉しいはずなのに、素直に喜べない。
そうか、きっと輝惺様の後ろに前の巫子を思い浮かべているからだ。
「僕にできることがあれば、何でもやらせてください。一年間、悔いのないようにお仕えしたいのです」
僕の言葉に、輝惺様はピクリと眉を上げた。
「なぜ、そうのような申し方をするのだ」
「だって、巫子は一年しか狼神様にお仕えすることはできません。その間、しっかりと役に立っているという実感が欲しいのです」
「……如月は、その後のことは望んでいないと言いたいのか?」
「その後とは……」
まさか、番になるとでも言うのか? そんなはずはない。期待するようなことは言わないでほしい。
昨日、僕に気が早いと言ったばかりじゃないか。
また僕だけが勘違いして勝手に浮かれて、その後落ち込むだけなのに。
「……すまない。今日、天袮が訪ねてきたのだ」
「天袮様が?」
「前の巫子の話を聞いたのだのろう? それを天袮も気にしていた。今朝、須凰から如月の体調が悪いと聞いて、もしかすると……と言って様子を伺いに来ていた」
天袮様、僕を心配してくれていたなんて……。
気にかけてもらえたのが嬉しくて、心が温かくなる。
「輝惺様は、やっぱり前の巫子が良かったですか?」
「今年の巫子と番いたいとは、毎年狼神は思っている。そのくらい巫子を大切にしている。それは今年も同じだ」
「でも、僕にはまだ気が早いって……。天袮様も、輝惺様は前の巫子を忘れられないって仰っていました。お別れにも来なかったって……」
「それは……行かなかったのではない。行けなかったのだ」
「どういうことですか?」
亜玖留様は黄泉の国へ行っていたと聞いている。
でも、輝惺様は何か問題でも起こっていたのか?
それにしても、万が一問題が起きていたとして、他の狼神様が誰も事情を知らないなんて不自然だ。
「今日は、全てを如月に話したいと思っていた。もし疲れているなら休んだあとでも構わない。でも、なるべく早く聞いてほしい」
輝惺様の真剣な眼差しに目が逸らせなくなる。
握った手に力が込められた。
こんなにも真剣なのだ。どんな内容であったとしても、ちゃんと向き合わなければいけないと思った。
「今、聞いてもいいですか?」
ゆっくりと起き上がり、向き合いになるように正座をする。
手櫛で髪をサッと直した。
輝惺様は寝たままでいいと言ってくれたけど、何となくそれではいけない気がした。
僕の手はいつも少し冷たい。だから余計に輝惺様の温かさが伝わってくる。
「如月、私と亜玖留を助けてくれて、本当にありがとう。今こうして自分の体に戻れたのは、如月のお蔭だ」
「僕だけではありません。狼神様や八乙女がすぐに力を貸してくれたから成し遂げることができました」
あの時はみんなが一つの目標に向かって進んでいた。
大変だったけど、とても充実した時間だった。夢中だった。
「あれから直ぐに回復できたのも、如月が私を支えてくれているからだ」
突然、どうしたのだろう。
僕が弱っているから気を遣わせているのだろうか。
感謝してもらえて嬉しいはずなのに、素直に喜べない。
そうか、きっと輝惺様の後ろに前の巫子を思い浮かべているからだ。
「僕にできることがあれば、何でもやらせてください。一年間、悔いのないようにお仕えしたいのです」
僕の言葉に、輝惺様はピクリと眉を上げた。
「なぜ、そうのような申し方をするのだ」
「だって、巫子は一年しか狼神様にお仕えすることはできません。その間、しっかりと役に立っているという実感が欲しいのです」
「……如月は、その後のことは望んでいないと言いたいのか?」
「その後とは……」
まさか、番になるとでも言うのか? そんなはずはない。期待するようなことは言わないでほしい。
昨日、僕に気が早いと言ったばかりじゃないか。
また僕だけが勘違いして勝手に浮かれて、その後落ち込むだけなのに。
「……すまない。今日、天袮が訪ねてきたのだ」
「天袮様が?」
「前の巫子の話を聞いたのだのろう? それを天袮も気にしていた。今朝、須凰から如月の体調が悪いと聞いて、もしかすると……と言って様子を伺いに来ていた」
天袮様、僕を心配してくれていたなんて……。
気にかけてもらえたのが嬉しくて、心が温かくなる。
「輝惺様は、やっぱり前の巫子が良かったですか?」
「今年の巫子と番いたいとは、毎年狼神は思っている。そのくらい巫子を大切にしている。それは今年も同じだ」
「でも、僕にはまだ気が早いって……。天袮様も、輝惺様は前の巫子を忘れられないって仰っていました。お別れにも来なかったって……」
「それは……行かなかったのではない。行けなかったのだ」
「どういうことですか?」
亜玖留様は黄泉の国へ行っていたと聞いている。
でも、輝惺様は何か問題でも起こっていたのか?
それにしても、万が一問題が起きていたとして、他の狼神様が誰も事情を知らないなんて不自然だ。
「今日は、全てを如月に話したいと思っていた。もし疲れているなら休んだあとでも構わない。でも、なるべく早く聞いてほしい」
輝惺様の真剣な眼差しに目が逸らせなくなる。
握った手に力が込められた。
こんなにも真剣なのだ。どんな内容であったとしても、ちゃんと向き合わなければいけないと思った。
「今、聞いてもいいですか?」
ゆっくりと起き上がり、向き合いになるように正座をする。
手櫛で髪をサッと直した。
輝惺様は寝たままでいいと言ってくれたけど、何となくそれではいけない気がした。
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