【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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本編

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 神殿へ帰るのが、こんなにも憂鬱に感じたことはない。

 参道を歩くスピードが自然と落ちていく。

 なんとなく胃が痛い気がする。

 この後、輝惺きせい様と二人きりになるのが怖い。

「はぁ……」

 盛大にため息を零してしまった。

「如月? どうかした?」

 凪に聞こえてしまったらしい。「なんでもないよ」と返したのだけど、顔色が良くないと言われてしまった。

「実は、ちょっとお腹が痛いかも」

「それは大変だ、帰ったら直ぐに休んだほうがいいよ」

「うん、そうする。ありがとう」

 とは言ったものの、輝惺様にこれ以上心配をかけるわけにはいかない。

 バレないように合間で休めば大丈夫だろう。

 やっぱりさっき須凰の誘いを断わらなきゃ良かったな。

 そしたら、水神の神殿へ行く口実ができたのに……。

 朱邑あけさと秦羽しんばが今日も地上界へ行くと騒いでいる。

「今日は何をしに行くの?」

「蘭恋、聞いてくれよー!! 今さ、地上界に春の嵐を送ってるんだぜ!!」

 朱邑が興奮して言うと、隣から秦羽も同じくらいの熱量ではしゃいでいる。

「風神・依咲那いざな様が、あの風袋ふうたいから突風を吹かせてから」

「雷神・朔怜ざれい様が、あの連鼓でデッッッカイ雷を落とすんだ!!」

「うわーー!! それはすごい迫力だろうね!! ドキドキしちゃうよ!」

 須凰も地上界を想像して盛り上がってる。

 蘭恋は怖そうに両手に頬を当てている。

「みんなにも朔怜様のあのカッコイイ雷を聞かせてあげたいよ!!」

「それなら、依咲那様の風だってスゴい! 竜巻なんて空まで巻き込むほどなんだ」

「それはもう俺の想像の域を超えているよ」

 須凰はすごく興味があるようで、朱邑と秦羽の話に夢中になってる。

「朔怜様と依咲那様が嵐を吹かせた後、僕と麿衣様が花を咲かせに行ってるんだよ」

「なるほど!! そうだったのか!!」

 昨日麿衣様と地上界へ行ったのもそういう流れだったのか。

「今日は嵐を送る最後の日なんだ」

 朱邑たちが言うと、凪も明日最後の地域に花を咲かせに行くと言っている。


 僕はみんなの話題をぼんやりと聞いていた。

 みんなそれぞれ日々の楽しみがある。

 地上界へ行けない蘭恋も月詠も、夕刻の禊を手伝うのが楽しみだと言っていた。

 僕だけ地上界へ行けないわけじゃないと分かって、嬉しいと思ったはずなのに、何も楽しみを見出せていない自分が情けなくなってきた。

 胃の痛みが増してくる。

 これは本当にヤバい。とにかく早く帰らないと、途中で倒れてしまいそうだ。

 大鳥居の前でみんなと別れると、帰り道を急いだ。

「早く帰りたい、帰りたくない、帰りたい、帰りたくない……」

 頭の中が目まぐるしい。

 お腹が痛い。

 意識が朦朧としてきた。

 足元が覚束おぼつかない。

(ダメ、しっかりしなきゃ……ダメ……イタイ……)
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