【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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本編

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 昨日、天袮あまね様に話を聞いてもらったばかりなのに、また相談に乗ってほしい。

 流石に図々しいとは分かっている。

 それでも、このモヤモヤを消し去るのがどうしても困難なのだ。

 午前中のうちはまだ良かった。広い庭を一人で掃除するのは時間がかかる。

 その後は一人で遅めの朝食を摂った。

 また、闇の神の神殿にいた頃と同じになってしまった。

 一人でいると、どうしても卑屈になってしまう。

(そうだ、大神殿へ行ってみよう!)

 誰かに会えばラッキーくらいの気持ちだった。もし誰もいなくても、昨日みたいに散歩をするだけでも気持ちが晴れるかもしれない。

 早足で出発した。なるべく考え込む時間を無くそうと努力した。

 そして、輝惺様が帰ってきたら、今日の仕事の話を聞こう。

 僕も今日話すネタを探すんだ。

 せっかく二人で過ごす時間を楽しみたい。

(笑顔、笑顔……)

 頬の筋肉を両手でマッサージしながら歩いた。


「あれ? 大地神。麿衣まえ様と凪だ」

 大神殿から二人が飛び立とうとしている。ここから出発すると言うことは、地上界へ行くのだろうか。

「麿衣様、凪、どこかへ行かれるんですか?」

「ああ、如月。そうなんだ今から地上界へ行くんだよ」

「二人で?」

「そうだよ。麿衣様がいいものを見せてくれるって言うからね」

「いいものって何?」

「それはまだ秘密なんだ。驚いてほしいからね」

 麿衣様が会話を遮る。

「今日は輝惺様も朝からいないんだ」

 ほんの一瞬、麿衣様の表情が強張った気がした。

 気のせい? それとも、輝惺様の行き先を知っている?

 あの綺麗な花を麿衣様に頼んでいたのだ。知っていても不思議ではない。

 また、余計な詮索をしそうになっていた。

 そのタイミングで凪が喋ってくれて助かった。

「ねえ、また輝惺様も一緒にウチの神殿へ遊びに来てよ。ねぇ? 麿衣様」

「そうだねぇ。是非来てほしいな」

 もういつもの穏やかな表情に戻っている。
 
 ここは何も言っちゃいけない。

「昨日、輝惺様も麿衣様の淹れたお茶が飲みたいと仰っていたんですよ。是非、一緒にお邪魔させてください。僕も、またお花を摘みたいです」

 是非是非。と麿衣様が笑って言うと、凪に「さあ、行こうか」と言って抱き上げた。

「今日のことはまた明日話すね」

 凪が言うと、麿衣様が大神殿から飛び立った。

 二人を見送ると、また虚しさが込み上げてくる。

 また、天袮様に会えないかな……。なんて思っていると、まさにそのタイミングで天袮様が帰って来たのだ!

「如月! 奇遇だね」

「天袮様!!」

 こんなに嬉しいことはない。天袮様の姿を見るや否や抱きついてしまった。

「おやおや、また今日はどうしたの?」

「一人が寂しくて、どうしようもないんです」

「ウチの神殿に遊びにくるかい? 須凰もいるはずだよ」

「いいんですか? 行きたいです!!」

 昨日から、困った時の天袮様状態だ。

 でも頼れる人がいるのは、心が救われる。

 遠慮なく水神の神殿へお邪魔することにした。

 移動しながら、今日は朝から輝惺様がいない旨を聞いてもらった。

「昨日、僕が麿衣様から預かってきた箱の中には、溢れるほどの花が入っていました。神殿に置いてあったはずのその箱がなかったんです。きっとそれをどうにかしようと持って行ったのだと思います。でも、僕には何も言ってくれなくて……」

 天袮様には抱えている気持ちを正直に言える。

 だから気持ちが晴れるんだ。

 輝惺様に対してもこうでありたい。

(それができていれば、今頃こんなに苦しんでないんだけどね)

 天袮様は花のくだりから少し考え込んでいた。

「輝惺が黙っていることを私が言うべきではないのだけれど……」

 天袮様が静かに話し始めた。



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