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本編
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「朝から浮かない顔をしているね」
僕の顔を見るなり、水神・天袮様は開口一番ズバリと言い当てた。
一目で見抜かれるほど、自分が感情的になっているのだと実感し、恥ずかしい。
「申し訳ありません! 一人だと思い、気を抜いていました」
「そう? 何か輝惺には言えない悩みでもあるのかと思った」
「えっ!?」
なんで分かるの? 僕、顔に何か書いてあるだろうか……。
気持ちを見事に読まれ、急に焦り出した僕を見て、天袮様はクスクスと笑っている。
「君は反応が分かりやすいね」
「は? え? あっ!!」
見透かされていたのではなくカマをかけられていたのだと、ようやく気がついた。
青ざめた顔が一気に熱くなる。
「天袮様ぁ!!」
力が抜けて、顔を隠して蹲った。
天袮様もしゃがみ込み、僕を覗き込む。
「すまない。浮かない顔をしていると思ったのは本当なんだ。私でよければ話を聞こうか?」
「そんな……。烏滸がましいですので……」
「しかし、そんな顔で輝惺の元には帰れないだろう?」
隠していた顔を上げると、天袮様が優しく微笑んでくれている。
確かに、他の狼神様が見て一目で分かるくらいなのだから、輝惺様には一瞬で見抜かれるだろう。
「あの、やっぱり聞いてもらってもいいですか?」
「ああ、少し大神殿を散歩しようか」
並んで参道へと入って行った。
「で? 何を悩んでいるのかな? かわいいリスちゃんは」
流し目が妖艶で、ドキリとしてしまう。
咄嗟に視線を逸らし、話し始めた。
「あの……。他の巫子はすっかりこの神界にも慣れていて、狼神様とも仲良くなっていて……。僕だけが遅れているような気持ちになってしまっているんです。今も大地神・麿衣様の神殿へ行っていたのですが、二人の距離が近くて。喜ばしいことなのに、焦って嫉妬して……。こんな自分にも嫌気がさしてます」
僕の悩みを天袮様は頷きながら聞いてくれた。
「今朝、輝惺様に『僕と番になりたいって思いますか?』とお聞きしたら『気が早いね』って言われました。なんだか誤魔化されたみたいで……」
そこまで言うと、天袮様は突然声を出して笑った。
「随分と大胆な質問をしたものだ」
「はっ、話の流れだったんです!! いくら僕がせっかちでも、いきなりは聞きません!!」
「ああ、すまない。こんな可愛い巫子にそんなことを言われて、照れてるのかもしれないね」
「本当にそうでしょうか……」
狼神様から見れば、僕なんてまだまだ頼りない子供みたいに見えるだろう。(成人しているんだけどな)
でも、それでも他の八乙女を見ていると、誰も狼神様から子供扱いなんてされていない。
輝惺様はとても優しいけれど、他のみんなと比べれば、僕を番の相手として見ていないのは確実だ。
それが分かるから、悲しいんだ。
「如月、君たちはまだ神界へ来て一ヶ月も経っていない。狼神は巫子に早く馴染んでほしくてそうしているんだよ」
「でも、輝惺様は……」
「ふふ……。こんなにも想ってもらえて、輝惺は幸せ者だ。きっと、元の体に戻ったばかりだし、今は如月といろんな経験をしたいんじゃないかな?」
「そう……でしょうか……」
俯くと、天袮様が頭を撫でてくれた。
「焦らず、もっと『今』を楽しみなさい」
「……はい」
無理矢理納得させ、返事をした。
「じゃあ、またいつでも話しにおいで。その顔じゃ、まだまだ納得していないのだろう?」
天袮様はすぐに僕の気持ちを察してくれる。
本当に優しいな。
きっと須凰も大切にされているだろう。
「えへへ……。ありがとうございます。もう少し考え方を変えられるよう頑張ってみます」
天袮様に話しただけで、気持ちはさっきよりも軽くなっている。
(今を楽しむか……)
大地神様の神殿をもっと楽しんでくればよかったと、少し後悔した。
そしたら、帰って楽しい話を聞かせられたのに……。
麿衣様と凪にも悪いことしちゃった。
天袮様と別れると、今度こそ光の神殿へと向かう。
ちゃんと笑顔で帰ろう。と自分に言い聞かせた。
僕の顔を見るなり、水神・天袮様は開口一番ズバリと言い当てた。
一目で見抜かれるほど、自分が感情的になっているのだと実感し、恥ずかしい。
「申し訳ありません! 一人だと思い、気を抜いていました」
「そう? 何か輝惺には言えない悩みでもあるのかと思った」
「えっ!?」
なんで分かるの? 僕、顔に何か書いてあるだろうか……。
気持ちを見事に読まれ、急に焦り出した僕を見て、天袮様はクスクスと笑っている。
「君は反応が分かりやすいね」
「は? え? あっ!!」
見透かされていたのではなくカマをかけられていたのだと、ようやく気がついた。
青ざめた顔が一気に熱くなる。
「天袮様ぁ!!」
力が抜けて、顔を隠して蹲った。
天袮様もしゃがみ込み、僕を覗き込む。
「すまない。浮かない顔をしていると思ったのは本当なんだ。私でよければ話を聞こうか?」
「そんな……。烏滸がましいですので……」
「しかし、そんな顔で輝惺の元には帰れないだろう?」
隠していた顔を上げると、天袮様が優しく微笑んでくれている。
確かに、他の狼神様が見て一目で分かるくらいなのだから、輝惺様には一瞬で見抜かれるだろう。
「あの、やっぱり聞いてもらってもいいですか?」
「ああ、少し大神殿を散歩しようか」
並んで参道へと入って行った。
「で? 何を悩んでいるのかな? かわいいリスちゃんは」
流し目が妖艶で、ドキリとしてしまう。
咄嗟に視線を逸らし、話し始めた。
「あの……。他の巫子はすっかりこの神界にも慣れていて、狼神様とも仲良くなっていて……。僕だけが遅れているような気持ちになってしまっているんです。今も大地神・麿衣様の神殿へ行っていたのですが、二人の距離が近くて。喜ばしいことなのに、焦って嫉妬して……。こんな自分にも嫌気がさしてます」
僕の悩みを天袮様は頷きながら聞いてくれた。
「今朝、輝惺様に『僕と番になりたいって思いますか?』とお聞きしたら『気が早いね』って言われました。なんだか誤魔化されたみたいで……」
そこまで言うと、天袮様は突然声を出して笑った。
「随分と大胆な質問をしたものだ」
「はっ、話の流れだったんです!! いくら僕がせっかちでも、いきなりは聞きません!!」
「ああ、すまない。こんな可愛い巫子にそんなことを言われて、照れてるのかもしれないね」
「本当にそうでしょうか……」
狼神様から見れば、僕なんてまだまだ頼りない子供みたいに見えるだろう。(成人しているんだけどな)
でも、それでも他の八乙女を見ていると、誰も狼神様から子供扱いなんてされていない。
輝惺様はとても優しいけれど、他のみんなと比べれば、僕を番の相手として見ていないのは確実だ。
それが分かるから、悲しいんだ。
「如月、君たちはまだ神界へ来て一ヶ月も経っていない。狼神は巫子に早く馴染んでほしくてそうしているんだよ」
「でも、輝惺様は……」
「ふふ……。こんなにも想ってもらえて、輝惺は幸せ者だ。きっと、元の体に戻ったばかりだし、今は如月といろんな経験をしたいんじゃないかな?」
「そう……でしょうか……」
俯くと、天袮様が頭を撫でてくれた。
「焦らず、もっと『今』を楽しみなさい」
「……はい」
無理矢理納得させ、返事をした。
「じゃあ、またいつでも話しにおいで。その顔じゃ、まだまだ納得していないのだろう?」
天袮様はすぐに僕の気持ちを察してくれる。
本当に優しいな。
きっと須凰も大切にされているだろう。
「えへへ……。ありがとうございます。もう少し考え方を変えられるよう頑張ってみます」
天袮様に話しただけで、気持ちはさっきよりも軽くなっている。
(今を楽しむか……)
大地神様の神殿をもっと楽しんでくればよかったと、少し後悔した。
そしたら、帰って楽しい話を聞かせられたのに……。
麿衣様と凪にも悪いことしちゃった。
天袮様と別れると、今度こそ光の神殿へと向かう。
ちゃんと笑顔で帰ろう。と自分に言い聞かせた。
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