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本編

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 大地神の神殿は一面色とりどりの花で埋め尽くされていた。

「綺麗ーー!!」

 少し中に進み見渡してみると、全方位に咲き誇る花で包み込まれたような気持ちになった。

 さっきまでの暗い気持ちも吹き飛ばされる。

 思い切り深呼吸をしていると、神殿の方から凪がやって来た。

「如月!」

「凪! こんな綺麗なところに住んでるんだね!」

「そうなんだ。癒されるだろう? 花は年中咲いてるんだって。麿衣様が言ってた」

「ずっとこんな綺麗は花が見られるの? すごい……」

 こんな広い敷地に咲き誇る花は、一体どこまで続いているのか分からないほどだ。

 神殿は真正面に見えているから、迷うことはないだろうけど。流石、大地神様の神殿ってだけのことはある。

「輝惺様に、ここに行って来てって頼まれたんだ」

「うんうん、麿衣様から聞いてるよ。神殿へ案内するからどうぞ」

 花の中を歩いているだけで、仕事で来たことすら忘れそうになる。

 キョロキョロと花を楽しんでいると、麿衣様まで出てきてくれた。

「ああ、如月。もう来てくれたんだね。お茶を淹れようと思って花を取りに来たんだ」

「それなら、僕も手伝いますよ」

 お花のお茶なんて飲んだことがない!

「いつもこうやってお花を摘んでお茶にしているんですか?」

「ああ、そうだよ。摘んだばかりの花はやはり香りが違うからね」

「今日はどの花にしようかと考えるのも、楽しいですよね」

 ゆったりとした時間が流れる。

 せっかちな僕と、この二人に流れる時間が同じだなんて、とても考えられない。

 凪が摘んだ花を麿衣様に手渡す。それを麿衣様はカゴに入れていく。

 微笑ましく顔を合わせる二人は、とても気が合うのだろうなぁ。と思う。

 二人ともおおらかな性格だし、こうしてただのんびりと過ごしいても、お互いの存在を感じられる。

「さあ、このくらい摘めば良いだろう」

 カゴいっぱいに花を摘み入れると、神殿へと入った。

 大地神の神殿は中も至る所に花が生けられている。

 それぞれの神様でこんなにも違うのかと、アチコチに視線を向けてしまう。

 麿衣様と凪はお茶を淹れるのも、食事の準備も全て二人でやっていると言った。

 その日に食べたいものを二人で話し合うそうだ。

 今朝は蘭恋が煬源様の部屋で寝ていたと聞いてびっくりしたが、凪と麿衣様は普通に布団を並べて寝ているのだと言った。

「巫子が狼神様の部屋で寝ても大丈夫なんですか?」

「別に、特に決まりはないよ。眠る直前まで話をしたいんだ。だから毎日どちらかが寝るまで話しているよ」

 麿衣様が、地上界で見せた顔を思い出した。

 そうだ。麿衣様も凪が好きなのかもしない。

 凪も好きに決まっている。だって、麿衣様は優しくて頼り甲斐があって物知りで、力持ちで……。

 いつもなら素直に祝福できるのに、今朝自分が輝惺様に誤魔化されたばかりで、素直に祝福できない。こんな自分が嫌だ。

 お茶を飲み終わると、早々に頼まれていたものを受け取り神殿を後にした。

 この悲観的な気持ちをなんとかしたい。

 大神殿まで帰ってきた時、丁度仕事から帰った狼神様と遭遇した。

「天袮様!」


 
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