27 / 75
本編
25
しおりを挟む
光の神の神殿へ帰ると、輝惺様が先に庭の掃除を始めていた。
今日は蘭恋と話し込んでしまったから、いつもより帰るのが遅かったのだ。
「申し訳ありません! すぐにお手伝いします!」
急いでホウキを取りに走る。
輝惺様は慌てなくてもいいよ。と笑っていた。
「八乙女と話が弾んでしまいました」
「そうか、それは良い」
遅くなった理由を正直に話すと、輝惺様は笑ってくれた。
なんでも、昔には狼神様の取り合いを始める巫子もいたそうだ。
「八乙女の人数が多い時は、一人の狼神に二人の巫子が仕える。しかし、身を捧げるのはどちらか一人なのだ」
「そうなんですね……。でも、それじゃあ万が一選ばれなかった方が運命の番だった……なんてことに、なったりしないんですか?」
「もしそうだったとしても、狼神にその巫子とは番になる気がないということになる。だから、それを避けるためにも番いたい巫子を選ぶ」
なるほど……。巫子は毎年来るから、そんなに焦って番を見つけようとは思わないのかもしれない。
狼神様も、慎重に番を探しているのだ。
今年は狼神様に対して丁度巫子も七人だから良かったと少し安堵した。
「あの、輝惺様は僕とその……番になってもいいと……思いますか?」
勇気を出して聞いてみた。頷いてくれれば……頷いて欲しい……。
「ふふ……。気が早い巫子だね。ほら、手が止まっているよ」
「あっ。御免なさい」
誤魔化された気がした。
照れている訳ではない気がする。
今はまだ、僕をそういう対象として見ていないのかもしれない。
また頭の中で嫌な方に考えてしまう。
僕ってこんなにも心配性だったかな。
輝惺様のことになると、途端に弱気になってしまう。
「向こうの方、履いてきますね」
なんだか、今は輝惺様といるのが苦しくて離れた。
暗い表情は見せなくない。
輝惺様に背を向けて、表情を読み取られないようにした。
本当は頷いて欲しかった。
でも、そんなのは僕のワガママで、ただの理想だ。
他のみんなだって、もしかすると何か悩んでいることがあるかもしれないし……。蘭恋を除いては……。
「如月?」
「ひゃいっ!」
考え込みすぎて、輝惺様が近寄っているのに気付かなかった。
「体調でも悪いかい? 疲れが取れないなら、今日は一日ゆっくり過ごすといい」
「いえ! 大丈夫です!! ほら、元気いっぱい!!」
ワザと明るくジャンプして見せる。
「今日もお仕事頑張りますよ」と、なるべく不自然にならないように笑った。
バレるかもしれないと焦ったが、なんとか切り抜けた。
「それでは朝食の後、大地神の神殿まで行ってもらおうかな?」
「麿衣様のですか!? 行きたいです!!」
まだ麿衣様の神殿へは行ったことがない。それに凪にも会える。
自分でも現金だとは思うが、急に元気になった。
もしかすると、僕を元気づけようとしてくれたのかもしれない。
どうであれ、いい気分転換になりそうだ。
朝食の後片付けを済ませると、早速光の神の神殿を出発した。
教えられた通り、大神殿から西へ進む。
しばらく歩くと、花のいい香りが漂ってきた。
「わぁ……。これはもしかして大地神様の神殿から?」
自然と走り出していた。
向こうのほうに鮮やかな花が咲き誇っているのが見えてきた。
大地神様の神殿は花畑の中にあるようだ。
今日は蘭恋と話し込んでしまったから、いつもより帰るのが遅かったのだ。
「申し訳ありません! すぐにお手伝いします!」
急いでホウキを取りに走る。
輝惺様は慌てなくてもいいよ。と笑っていた。
「八乙女と話が弾んでしまいました」
「そうか、それは良い」
遅くなった理由を正直に話すと、輝惺様は笑ってくれた。
なんでも、昔には狼神様の取り合いを始める巫子もいたそうだ。
「八乙女の人数が多い時は、一人の狼神に二人の巫子が仕える。しかし、身を捧げるのはどちらか一人なのだ」
「そうなんですね……。でも、それじゃあ万が一選ばれなかった方が運命の番だった……なんてことに、なったりしないんですか?」
「もしそうだったとしても、狼神にその巫子とは番になる気がないということになる。だから、それを避けるためにも番いたい巫子を選ぶ」
なるほど……。巫子は毎年来るから、そんなに焦って番を見つけようとは思わないのかもしれない。
狼神様も、慎重に番を探しているのだ。
今年は狼神様に対して丁度巫子も七人だから良かったと少し安堵した。
「あの、輝惺様は僕とその……番になってもいいと……思いますか?」
勇気を出して聞いてみた。頷いてくれれば……頷いて欲しい……。
「ふふ……。気が早い巫子だね。ほら、手が止まっているよ」
「あっ。御免なさい」
誤魔化された気がした。
照れている訳ではない気がする。
今はまだ、僕をそういう対象として見ていないのかもしれない。
また頭の中で嫌な方に考えてしまう。
僕ってこんなにも心配性だったかな。
輝惺様のことになると、途端に弱気になってしまう。
「向こうの方、履いてきますね」
なんだか、今は輝惺様といるのが苦しくて離れた。
暗い表情は見せなくない。
輝惺様に背を向けて、表情を読み取られないようにした。
本当は頷いて欲しかった。
でも、そんなのは僕のワガママで、ただの理想だ。
他のみんなだって、もしかすると何か悩んでいることがあるかもしれないし……。蘭恋を除いては……。
「如月?」
「ひゃいっ!」
考え込みすぎて、輝惺様が近寄っているのに気付かなかった。
「体調でも悪いかい? 疲れが取れないなら、今日は一日ゆっくり過ごすといい」
「いえ! 大丈夫です!! ほら、元気いっぱい!!」
ワザと明るくジャンプして見せる。
「今日もお仕事頑張りますよ」と、なるべく不自然にならないように笑った。
バレるかもしれないと焦ったが、なんとか切り抜けた。
「それでは朝食の後、大地神の神殿まで行ってもらおうかな?」
「麿衣様のですか!? 行きたいです!!」
まだ麿衣様の神殿へは行ったことがない。それに凪にも会える。
自分でも現金だとは思うが、急に元気になった。
もしかすると、僕を元気づけようとしてくれたのかもしれない。
どうであれ、いい気分転換になりそうだ。
朝食の後片付けを済ませると、早速光の神の神殿を出発した。
教えられた通り、大神殿から西へ進む。
しばらく歩くと、花のいい香りが漂ってきた。
「わぁ……。これはもしかして大地神様の神殿から?」
自然と走り出していた。
向こうのほうに鮮やかな花が咲き誇っているのが見えてきた。
大地神様の神殿は花畑の中にあるようだ。
1
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】
きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。
オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。
そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。
アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。
そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。
二人の想いは無事通じ合うのか。
現在、スピンオフ作品の
ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?
人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途なαが婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。
・五話完結予定です。
※オメガバースでαが受けっぽいです。

ベータですが、運命の番だと迫られています
モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。
運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。
執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか?
ベータがオメガになることはありません。
“運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり
※ムーンライトノベルズでも投稿しております
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる