【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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本編

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 光の神の神殿へ帰ると、輝惺様が先に庭の掃除を始めていた。

 今日は蘭恋と話し込んでしまったから、いつもより帰るのが遅かったのだ。

「申し訳ありません! すぐにお手伝いします!」

 急いでホウキを取りに走る。

 輝惺様は慌てなくてもいいよ。と笑っていた。

「八乙女と話が弾んでしまいました」

「そうか、それは良い」

 遅くなった理由を正直に話すと、輝惺様は笑ってくれた。

 なんでも、昔には狼神様の取り合いを始める巫子もいたそうだ。

「八乙女の人数が多い時は、一人の狼神に二人の巫子が仕える。しかし、身を捧げるのはどちらか一人なのだ」

「そうなんですね……。でも、それじゃあ万が一選ばれなかった方が運命の番だった……なんてことに、なったりしないんですか?」

「もしそうだったとしても、狼神にその巫子とは番になる気がないということになる。だから、それを避けるためにも番いたい巫子を選ぶ」

 なるほど……。巫子は毎年来るから、そんなに焦って番を見つけようとは思わないのかもしれない。

 狼神様も、慎重に番を探しているのだ。

 今年は狼神様に対して丁度巫子も七人だから良かったと少し安堵した。

「あの、輝惺様は僕とその……番になってもいいと……思いますか?」

 勇気を出して聞いてみた。頷いてくれれば……頷いて欲しい……。

「ふふ……。気が早い巫子だね。ほら、手が止まっているよ」

「あっ。御免なさい」

 誤魔化された気がした。

 照れている訳ではない気がする。

 今はまだ、僕をそういう対象として見ていないのかもしれない。

 また頭の中で嫌な方に考えてしまう。

 僕ってこんなにも心配性だったかな。

 輝惺様のことになると、途端に弱気になってしまう。

「向こうの方、履いてきますね」

 なんだか、今は輝惺様といるのが苦しくて離れた。

 暗い表情は見せなくない。

 輝惺様に背を向けて、表情を読み取られないようにした。

 本当は頷いて欲しかった。

 でも、そんなのは僕のワガママで、ただの理想だ。

 他のみんなだって、もしかすると何か悩んでいることがあるかもしれないし……。蘭恋を除いては……。

「如月?」

「ひゃいっ!」

 考え込みすぎて、輝惺様が近寄っているのに気付かなかった。

「体調でも悪いかい? 疲れが取れないなら、今日は一日ゆっくり過ごすといい」

「いえ! 大丈夫です!! ほら、元気いっぱい!!」

 ワザと明るくジャンプして見せる。

「今日もお仕事頑張りますよ」と、なるべく不自然にならないように笑った。

 バレるかもしれないと焦ったが、なんとか切り抜けた。

「それでは朝食の後、大地神の神殿まで行ってもらおうかな?」

「麿衣様のですか!? 行きたいです!!」

 まだ麿衣様の神殿へは行ったことがない。それに凪にも会える。

 自分でも現金だとは思うが、急に元気になった。

 もしかすると、僕を元気づけようとしてくれたのかもしれない。

 どうであれ、いい気分転換になりそうだ。

 朝食の後片付けを済ませると、早速光の神の神殿を出発した。

 教えられた通り、大神殿から西へ進む。

 しばらく歩くと、花のいい香りが漂ってきた。

「わぁ……。これはもしかして大地神様の神殿から?」

 自然と走り出していた。

 向こうのほうに鮮やかな花が咲き誇っているのが見えてきた。

 大地神様の神殿は花畑の中にあるようだ。
 
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