【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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本編

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 今日の朝拝はまるで集中できなかった。

 煬源様と蘭恋のことばかり考えてしまう。帰りも蘭恋と肩を並べて参道を歩く。

 こんな短期間で、二人は確実に距離を縮めていた。

 それはきっと蘭恋からではなく、煬源様から寄せられた好意だろうと予想した。

 昨日の大神殿からの帰り、蘭恋をあんなにも愛おしい目で見るなんて……、あれで恋じゃないなら説明がつかない。

 このことを本人に話そうかとも思ったが、さっきまで顔を真っ赤にして照れていた。今は何も言わない方がいいと思ってやめておいた。

「でも、みんな狼神様と仲が良くて羨ましいよ」

 ため息混じりに本音を呟く。

 蘭恋がチラリと僕を見た。

「なぜ? 輝惺様も優しいでしょう?」

「うん、とても。でも、僕はまだみんなほどは仲良くなれていない気がする」

 そんなことないわよ。と蘭恋は言ったが、狼神様と巫子の壁をヒシヒシと感じている。

 亜玖留様と入れ替わって大変だったから、『仲良く』なんて状況ではなかった。それが仕方ないといえばそうなのだけど……。

 でも月詠だって、輝惺様の体に入った亜玖留様と信頼関係を結んでいた。

 意識が戻った時の亜玖留様からの視線だって、どこか輝惺様とは違って感じた。

 それだけではない。地上界へ行った時もそうだ。

 仲睦まじく石を探す朱邑や秦羽には、狼神様と巫子の壁は微塵にも感じられなかった。

 考えれば考えるほど自信がなくなり、不安になる。

 落ち込む僕を見て、蘭恋が肩に手をやった。

「あなたは輝惺様のために地上界まで行ったのよ? そんな人に心惹かれないなんて、あるはずがないわ」

「ありがとう、蘭恋。僕から、もっと歩み寄ってもいいのかなぁ」

「そりゃ、いいに決まってるじゃない!! あの二人なんて、しょっちゅう仕事に行く狼神様について行ってるし。如月のワガママなんて、きっとワガママのうちにも入らないわ」

 肩をすくめて、前を歩く朱邑と秦羽に視線を送る蘭恋。

 朱邑と秦羽は今日も賑やかだ。帰った後、二人で仕事をこなすらしく、どっちの神殿へ行くかを話し合っている。

 楽しそうな二人を見ていると、なんだか少し勇気が湧いてきた。

「蘭恋に話を聞いてもらえて良かったよ。僕が考えすぎてるのかもしれないし、少し頑張ってみる。本当にありがとね」

「そんなの、私達は八乙女の絆で結ばれているのよ。話くらい、いつだって聞くわ」

 さっきまで頬を染めていた蘭恋が急に逞しくなった。

 大鳥居の前では天袮あまね様が須凰を迎えに来ていた。

 天袮様の姿を見つけるや否や走り出した須凰は、その勢いのまま抱きついた。

 須凰に向かって、朱邑たちが茶化してヤジを飛ばしている。

 それでも須凰は見せつけるように天袮様に頬を寄せる。

 いつもは元気ハツラツな須凰でも、天袮様にはこんなにも甘えているのか。

(僕も早くあんな関係になりたいな)

 期待と焦りと不安が入り混じったまま、光の神の神殿へと帰っていった。
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