【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
2 / 75
プロローグ

0

しおりを挟む
 
 巫子である僕の一日は大神殿での朝拝から始まる。

 夜明けと共に目を覚ますと、目の前には愛おしい方の姿がある。

 光の神・輝惺きせい様だ。

「輝惺様、おはようございます」

 体をゆるりと揺らすと、僕を引き寄せ懐に収めた。

「……おはよう、如月きさら

 まだ眠いフリをしているけれど、輝惺様は大体いつも僕よりも先に目覚めて、寝顔を眺めている。

「起きていたの、知っていますよ」

 ふふ……っと笑いながら言ってみる。

「バレていたか。如月の寝顔があまりにも可愛くて、どんなに眺めていても飽きないものだ」

「じゃあ、なぜ今は寝たフリなど?」

「いつも私から起こしているから、起こされる側の気持ちが知りたかったのだ」

 ムキュっ!! 狼神オオカミ様にこんな可愛らしいことを言われるなんて!!

 気恥ずかしくて、輝惺様の胸に顔を押し付ける。

「それで、どんなお気持ちでしたか?」

 そのままの体勢で尋ねると、「とても幸せだ」なんて、恥ずかしい素振りも見せずに伝えてくれた。

(ムキュキュっ!!)

 嬉しすぎて、庭に飛び出して走り回りたくなってしまう。

「ちょ、朝拝へ行かねばなりません」

「まだ大丈夫だ。もう少しだけ、こうしていてくれ」

 輝惺様が一度僕の体を離すと、真っ直ぐに見つめてきた。

 ドキリッ! 透き通る瞳が僕を捉えている。この瞳で見つめられれば、もう何も考えられなくなる。

 ゆっくりと近づく輝惺様の顔に、思わずギュッと目を閉じた。

 数秒後、柔らかく唇を吸われる。

「如月、息をして」

 そんなことを言われても、まだ一緒に寝るのさえ慣れていない。

 こんな朝になれる日など来るのだろうか。

 輝惺様は何度も唇を重ねてくる。それを受け止めるだけで、精一杯だ。

「ふふ……まだ緊張してるの?」

「あっ、当たり前です!! だって輝惺様が……輝惺様が……」

「私が、何か?」

 体を起こして胡座をかくと、その上に僕を座らせた。

 向かい合わせになると、視界が輝惺様で埋め尽くされる。恥ずかしくて視線を外すと、手で顎を支え再び口付けた。

 輝惺様の手が僕の肩を滑り、背中へとまわる。腰まで降りたところで尻尾をスルリと撫でられた。

「んっ! そこは……くすぐったい……」

 自分から甘い声が漏れるのも恥ずかしくて本当は聞かれたくない。

 でも輝惺様はこんな僕の声まで愛おしいと言ってくれる。

「如月からも甘えて欲しいものだ」

 などと耳元で言われてしまい、おずおずと輝惺様の首に腕を回した。

 二人の体が密着すると、お互いの体温が伝わってくる。

「幸せだ」

 そう囁かれ、「僕もです」となんとか返したところでまたキスをした。

「今日もいい一日になりそうだ」

 輝惺様が輝かしい笑顔を僕に向けた。

 
 いよいよ朝拝へと向かう。

 朝からあんなにも甘い時間を過ごしてしまったものだから、常に輝惺様で頭がいっぱいの僕なのに、さらに輝惺様で溢れかえる。

 大神殿に向かいながら、フッと輝惺様との出会いから今日に至るまでを振り返ってみた。

 そして、今こうして傍でいられる喜びを噛み締めながら……。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...