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プロローグ
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しおりを挟む巫子である僕の一日は大神殿での朝拝から始まる。
夜明けと共に目を覚ますと、目の前には愛おしい方の姿がある。
光の神・輝惺様だ。
「輝惺様、おはようございます」
体をゆるりと揺らすと、僕を引き寄せ懐に収めた。
「……おはよう、如月」
まだ眠いフリをしているけれど、輝惺様は大体いつも僕よりも先に目覚めて、寝顔を眺めている。
「起きていたの、知っていますよ」
ふふ……っと笑いながら言ってみる。
「バレていたか。如月の寝顔があまりにも可愛くて、どんなに眺めていても飽きないものだ」
「じゃあ、なぜ今は寝たフリなど?」
「いつも私から起こしているから、起こされる側の気持ちが知りたかったのだ」
ムキュっ!! 狼神様にこんな可愛らしいことを言われるなんて!!
気恥ずかしくて、輝惺様の胸に顔を押し付ける。
「それで、どんなお気持ちでしたか?」
そのままの体勢で尋ねると、「とても幸せだ」なんて、恥ずかしい素振りも見せずに伝えてくれた。
(ムキュキュっ!!)
嬉しすぎて、庭に飛び出して走り回りたくなってしまう。
「ちょ、朝拝へ行かねばなりません」
「まだ大丈夫だ。もう少しだけ、こうしていてくれ」
輝惺様が一度僕の体を離すと、真っ直ぐに見つめてきた。
ドキリッ! 透き通る瞳が僕を捉えている。この瞳で見つめられれば、もう何も考えられなくなる。
ゆっくりと近づく輝惺様の顔に、思わずギュッと目を閉じた。
数秒後、柔らかく唇を吸われる。
「如月、息をして」
そんなことを言われても、まだ一緒に寝るのさえ慣れていない。
こんな朝になれる日など来るのだろうか。
輝惺様は何度も唇を重ねてくる。それを受け止めるだけで、精一杯だ。
「ふふ……まだ緊張してるの?」
「あっ、当たり前です!! だって輝惺様が……輝惺様が……」
「私が、何か?」
体を起こして胡座をかくと、その上に僕を座らせた。
向かい合わせになると、視界が輝惺様で埋め尽くされる。恥ずかしくて視線を外すと、手で顎を支え再び口付けた。
輝惺様の手が僕の肩を滑り、背中へとまわる。腰まで降りたところで尻尾をスルリと撫でられた。
「んっ! そこは……くすぐったい……」
自分から甘い声が漏れるのも恥ずかしくて本当は聞かれたくない。
でも輝惺様はこんな僕の声まで愛おしいと言ってくれる。
「如月からも甘えて欲しいものだ」
などと耳元で言われてしまい、おずおずと輝惺様の首に腕を回した。
二人の体が密着すると、お互いの体温が伝わってくる。
「幸せだ」
そう囁かれ、「僕もです」となんとか返したところでまたキスをした。
「今日もいい一日になりそうだ」
輝惺様が輝かしい笑顔を僕に向けた。
いよいよ朝拝へと向かう。
朝からあんなにも甘い時間を過ごしてしまったものだから、常に輝惺様で頭がいっぱいの僕なのに、さらに輝惺様で溢れかえる。
大神殿に向かいながら、フッと輝惺様との出会いから今日に至るまでを振り返ってみた。
そして、今こうして傍でいられる喜びを噛み締めながら……。
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