【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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本編

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 それぞれの神殿へと帰っていく。

 月詠は迷うことなく亜玖瑠様に付き添っていた。

「輝惺のところに行かなくていいのか?」

 亜玖瑠様が聞いても、「自分は亜玖瑠様の巫子ですから」と言って、その手を離さなかった。

 もう、ここに来た時の月詠はいない。

 小柄な体が頼もしく感じる。

 そして亜玖留様もまた、月詠の手をしっかりと握っていた。


「よし! 解散だ!!」

 朔怜様が言うと、大神殿を後にする。

 狼神様の手首には、それぞれの勾玉が光り輝いている。

 外に出ると、すっかり夜になっていた。すごく目まぐるしい時間を過ごしたと、振り返ってみて実感した。

 でも、どれも貴重な経験ばかりだ。

 無事、輝惺様と亜玖瑠様も助けられた。

 充実した気持ちと同時に、狼神様の凄さを思い知ったような気がする。

(狼神様の揃った祓詞、本当にすごかったな。また何かの機会に聞けるだろうか……)

 参道をみんなで歩きながら、それぞれが談笑している。

 張り詰めていた糸が切れ、清らかな風が吹き抜けた。

 今回のことで、みんなの間に絆が生まれたように感じた。勿論、狼神様と巫子、という立場は変わらない。でも、こんなにも狼神様が僕達巫子を頼ってくれるとは思ってもみなかった。

 石を探しに行く時も、勾玉を磨く時も、狼神様がやった方が早いに決まっている。それを僕にやらせてもらえるなんて、信頼してくれているようで嬉しい。

 狼神様の指示で、他の巫子も手分けして準備に取り掛かっていた。

 まさに全員で困難を乗り越えたのだ。しかもそれが成功した。こんなに喜ばしいことはない。

 自分を誇らしく思っているのは、僕だけではないはずだ。

 フツフツと喜びが込み上げ、走り出したい衝動に駆られる。足がふわふわと落ち着かない。

 軽くスキップをする。

 フッと欄恋がグッタリなっているのが目に入る。

「あれ? 蘭恋、どうしたんですか?」

 煬源様に抱えられている蘭恋を心配して聞いてみた。

「ああ、気が抜けたら眠くなったらしい。もう、意識が遠のいている」

 煬源様の腕の中で、うつらうつらと寝落ちしかけている蘭恋を、微笑ましく煬源様が見つめている。

 その光景にドキリとしてしまう。まるで恋人を見る目だ。

 蘭恋はかわいい。

 もしかすると、煬源様は蘭恋を……。

 なんて、密かに思ってしまった。

 大鳥居のところで、挨拶を交わし、それぞれの神殿へと帰っていった。


 僕は輝惺様と二人で歩き始める。

 ここからが、本来の巫子としての生活が始まる。

 目の前に、光の神の神殿が見えてきた。

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