19 / 75
本編
17
しおりを挟む
なんとか亜玖瑠様の黒曜石を見つけ出した時、既に日が沈みかけていた。
「やっぱり時間がかかったな」
朔怜様がため息混じりに呟く。
「一日で見つかったのだから、運が良かったと思ったほうがいい」
麿衣様がホッとしたように言った。
「さあ、今日のところは帰るしかない。また明日降りてこよう」
依咲那様が声を掛けると、神界へと飛び立った。
落ちていくのも怖かったけど、猛スピードで登っていくのも、これはこれでけっこう怖い。
また僕だけが叫びながら神界を目指す。
帰った頃にはくたくたになっていた。
その夜は布団に吸い込まれるように潜り込む。朝になるまでが一瞬だった。
まだ疲れが残る体で、目を擦りながら朝拝へと向かう。
朝拝が終われば直ぐに地上界へ出発だ。昨日同様、僕だけ叫び声を響かせながら降りていった。
(朱邑と秦羽はなんであんなに楽しそうにいられるのか……。僕は何度地上界へ降りても慣れないだろう)
麿衣様の案内で昨日とはまた別の地へ向かう。
空から見る地上界は目に映るもの全てが新鮮だ。
数人の人族が歩いているのも見ることができた。
(本当に人族には尻尾が生えていない。動物じゃないのかな?)
地上界へ降りてからは、三人とものんびりと飛んでくれたので、多少は楽しむことができた。
そのうち秘境へと入っていく。
たどり着いた先は、大小様々な石が敷き詰められた荒地だった。
「こんな所に輝惺様の石が……」
もっと神秘的で綺麗な場所にあるのかと思っていたから内心ショックだった。
麿衣様が口を開く。
「この埋め尽くされた石、全てが日長石だよ」
「これ、全部!?」
一つ適当な石を取ると、割って見せてくれた。昨日と同様、中は光り輝いている。
「わぁ……綺麗……」
輝惺様にぴったりの石だと改めて感じた。
「さあ、如月。君が輝惺にピッタリの石を探すんだ」
麿衣様に言われて「よし!」と気合を入れる。
選びきれないほどの石が転がっているが、確かに狼神様の勾玉を作れそうなほど大きなのは、なかなか見つけられない。
夢中になって荒地を歩き回る。ごろごろと転がっている日長石で足場が悪く、歩きにくい。でも、絶対に僕が探し出したかった。
石を退けたりしながらの作業で手は汚れているが、そんなのも気にならないくらい集中した。
「……これは?」
一つ、これまでにない大きな日長石に目が止まる。
不思議と吸い寄せられるように、手を伸ばす。それは僕の片手では持ち上げられないくらい大きい。
さすがに大きすぎるか……と思ったが、確認にきた朔怜様が感動して「これに決めた!」と叫び即決した。
「こんな大きいの、大丈夫ですか?」
「問題ない。俺が運ぶ」
朔怜様はその石を軽々と片手に納めた。僕が持つより随分小さく感じる。狼神様の中で一番筋肉ムキムキの朔怜様だから、問題なく持って帰れそうだ。
「さあ、仕事はこれで終わりじゃないよ。帰って作業開始だ!」
依咲那様が言うと、またそれぞれの狼神様に抱えられ、神界へと飛び立った。
もう叫びすぎて喉が痛い。
神界へ帰ると、目眩を起こして倒れそうになっていた。
「よーし! 早速、天袮様のところに行こうぜ!」
「え? 休憩しないの?」
全く疲れを見せない朱邑と秦羽に息切れしながら話しかける。
「そんな時間ないから! それに、もう他のみんなも水神様の神殿に集まってるはずだからな」
そりゃ、時間は待ってはくれないし、急がなきゃいけないのは分かってるんだけど……。
(もう足がガクガクでまともに歩きもできないよ)
朱邑と秦羽、朔怜様と依咲那様は振り向きもせずに行ってしまった。
「ま、待ってよぉ……」
半泣きで訴えても、既に僕の声など届かない所まで行ってしまっている。
「くすくす……。私が抱えて行くしかないようだね」
残った麿衣様が軽々と抱き上げて走り出した。
「わっ! こんな、帰ってきてまで……申し訳ないです」
「大丈夫だよ。初めて凪を地上界へ連れて行った後も、やはり如月と同じように歩けなかったからね。あの二人はもう慣れているから。如月もそのうち平気になるよ」
麿衣様が優しく微笑んでくれた。
「やっぱり時間がかかったな」
朔怜様がため息混じりに呟く。
「一日で見つかったのだから、運が良かったと思ったほうがいい」
麿衣様がホッとしたように言った。
「さあ、今日のところは帰るしかない。また明日降りてこよう」
依咲那様が声を掛けると、神界へと飛び立った。
落ちていくのも怖かったけど、猛スピードで登っていくのも、これはこれでけっこう怖い。
また僕だけが叫びながら神界を目指す。
帰った頃にはくたくたになっていた。
その夜は布団に吸い込まれるように潜り込む。朝になるまでが一瞬だった。
まだ疲れが残る体で、目を擦りながら朝拝へと向かう。
朝拝が終われば直ぐに地上界へ出発だ。昨日同様、僕だけ叫び声を響かせながら降りていった。
(朱邑と秦羽はなんであんなに楽しそうにいられるのか……。僕は何度地上界へ降りても慣れないだろう)
麿衣様の案内で昨日とはまた別の地へ向かう。
空から見る地上界は目に映るもの全てが新鮮だ。
数人の人族が歩いているのも見ることができた。
(本当に人族には尻尾が生えていない。動物じゃないのかな?)
地上界へ降りてからは、三人とものんびりと飛んでくれたので、多少は楽しむことができた。
そのうち秘境へと入っていく。
たどり着いた先は、大小様々な石が敷き詰められた荒地だった。
「こんな所に輝惺様の石が……」
もっと神秘的で綺麗な場所にあるのかと思っていたから内心ショックだった。
麿衣様が口を開く。
「この埋め尽くされた石、全てが日長石だよ」
「これ、全部!?」
一つ適当な石を取ると、割って見せてくれた。昨日と同様、中は光り輝いている。
「わぁ……綺麗……」
輝惺様にぴったりの石だと改めて感じた。
「さあ、如月。君が輝惺にピッタリの石を探すんだ」
麿衣様に言われて「よし!」と気合を入れる。
選びきれないほどの石が転がっているが、確かに狼神様の勾玉を作れそうなほど大きなのは、なかなか見つけられない。
夢中になって荒地を歩き回る。ごろごろと転がっている日長石で足場が悪く、歩きにくい。でも、絶対に僕が探し出したかった。
石を退けたりしながらの作業で手は汚れているが、そんなのも気にならないくらい集中した。
「……これは?」
一つ、これまでにない大きな日長石に目が止まる。
不思議と吸い寄せられるように、手を伸ばす。それは僕の片手では持ち上げられないくらい大きい。
さすがに大きすぎるか……と思ったが、確認にきた朔怜様が感動して「これに決めた!」と叫び即決した。
「こんな大きいの、大丈夫ですか?」
「問題ない。俺が運ぶ」
朔怜様はその石を軽々と片手に納めた。僕が持つより随分小さく感じる。狼神様の中で一番筋肉ムキムキの朔怜様だから、問題なく持って帰れそうだ。
「さあ、仕事はこれで終わりじゃないよ。帰って作業開始だ!」
依咲那様が言うと、またそれぞれの狼神様に抱えられ、神界へと飛び立った。
もう叫びすぎて喉が痛い。
神界へ帰ると、目眩を起こして倒れそうになっていた。
「よーし! 早速、天袮様のところに行こうぜ!」
「え? 休憩しないの?」
全く疲れを見せない朱邑と秦羽に息切れしながら話しかける。
「そんな時間ないから! それに、もう他のみんなも水神様の神殿に集まってるはずだからな」
そりゃ、時間は待ってはくれないし、急がなきゃいけないのは分かってるんだけど……。
(もう足がガクガクでまともに歩きもできないよ)
朱邑と秦羽、朔怜様と依咲那様は振り向きもせずに行ってしまった。
「ま、待ってよぉ……」
半泣きで訴えても、既に僕の声など届かない所まで行ってしまっている。
「くすくす……。私が抱えて行くしかないようだね」
残った麿衣様が軽々と抱き上げて走り出した。
「わっ! こんな、帰ってきてまで……申し訳ないです」
「大丈夫だよ。初めて凪を地上界へ連れて行った後も、やはり如月と同じように歩けなかったからね。あの二人はもう慣れているから。如月もそのうち平気になるよ」
麿衣様が優しく微笑んでくれた。
1
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる