【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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本編

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 なんとか亜玖瑠様の黒曜石を見つけ出した時、既に日が沈みかけていた。

「やっぱり時間がかかったな」

 朔怜ざれい様がため息混じりに呟く。

「一日で見つかったのだから、運が良かったと思ったほうがいい」

 麿衣まえ様がホッとしたように言った。

「さあ、今日のところは帰るしかない。また明日降りてこよう」

 依咲那様が声を掛けると、神界へと飛び立った。

 落ちていくのも怖かったけど、猛スピードで登っていくのも、これはこれでけっこう怖い。

 また僕だけが叫びながら神界を目指す。

 帰った頃にはくたくたになっていた。

 その夜は布団に吸い込まれるように潜り込む。朝になるまでが一瞬だった。

 まだ疲れが残る体で、目を擦りながら朝拝へと向かう。

 朝拝が終われば直ぐに地上界へ出発だ。昨日同様、僕だけ叫び声を響かせながら降りていった。

(朱邑と秦羽はなんであんなに楽しそうにいられるのか……。僕は何度地上界へ降りても慣れないだろう)


 麿衣様の案内で昨日とはまた別の地へ向かう。

 空から見る地上界は目に映るもの全てが新鮮だ。

 数人の人族が歩いているのも見ることができた。

(本当に人族には尻尾が生えていない。動物じゃないのかな?)

 地上界へ降りてからは、三人とものんびりと飛んでくれたので、多少は楽しむことができた。

 そのうち秘境へと入っていく。

 たどり着いた先は、大小様々な石が敷き詰められた荒地だった。

「こんな所に輝惺様の石が……」

 もっと神秘的で綺麗な場所にあるのかと思っていたから内心ショックだった。

 麿衣様が口を開く。

「この埋め尽くされた石、全てが日長石だよ」

「これ、全部!?」

 一つ適当な石を取ると、割って見せてくれた。昨日と同様、中は光り輝いている。

「わぁ……綺麗……」
 輝惺様にぴったりの石だと改めて感じた。

「さあ、如月。君が輝惺にピッタリの石を探すんだ」

 麿衣様に言われて「よし!」と気合を入れる。

 選びきれないほどの石が転がっているが、確かに狼神様の勾玉を作れそうなほど大きなのは、なかなか見つけられない。

 夢中になって荒地を歩き回る。ごろごろと転がっている日長石で足場が悪く、歩きにくい。でも、絶対に僕が探し出したかった。

 石を退けたりしながらの作業で手は汚れているが、そんなのも気にならないくらい集中した。

「……これは?」

 一つ、これまでにない大きな日長石に目が止まる。

 不思議と吸い寄せられるように、手を伸ばす。それは僕の片手では持ち上げられないくらい大きい。

 さすがに大きすぎるか……と思ったが、確認にきた朔怜様が感動して「これに決めた!」と叫び即決した。

「こんな大きいの、大丈夫ですか?」

「問題ない。俺が運ぶ」

 朔怜様はその石を軽々と片手に納めた。僕が持つより随分小さく感じる。狼神様の中で一番筋肉ムキムキの朔怜様だから、問題なく持って帰れそうだ。

「さあ、仕事はこれで終わりじゃないよ。帰って作業開始だ!」

 依咲那様が言うと、またそれぞれの狼神様に抱えられ、神界へと飛び立った。

 もう叫びすぎて喉が痛い。

 神界へ帰ると、目眩を起こして倒れそうになっていた。

「よーし! 早速、天袮様のところに行こうぜ!」

「え? 休憩しないの?」

 全く疲れを見せない朱邑と秦羽に息切れしながら話しかける。

「そんな時間ないから! それに、もう他のみんなも水神様の神殿に集まってるはずだからな」

 そりゃ、時間は待ってはくれないし、急がなきゃいけないのは分かってるんだけど……。

(もう足がガクガクでまともに歩きもできないよ)

 朱邑と秦羽、朔怜様と依咲那様は振り向きもせずに行ってしまった。

「ま、待ってよぉ……」

 半泣きで訴えても、既に僕の声など届かない所まで行ってしまっている。

「くすくす……。私が抱えて行くしかないようだね」

 残った麿衣様が軽々と抱き上げて走り出した。

「わっ! こんな、帰ってきてまで……申し訳ないです」

「大丈夫だよ。初めて凪を地上界へ連れて行った後も、やはり如月と同じように歩けなかったからね。あの二人はもう慣れているから。如月もそのうち平気になるよ」

 麿衣様が優しく微笑んでくれた。
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