【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
17 / 75
本編

15

しおりを挟む
 お茶を淹れ、居間に集まったは良いけれど、誰からも話そうとはしない。

 今、狼神様達がどんな話し合いをしているかは分からない。

 重い気持ちのまま時間だけが過ぎていく。

「如月ー!!」

 外から僕を呼ぶ声が聞こえた。この声は……。

朱邑あけさと!?」

 急いで外に飛び出すと、朱邑と月詠、秦羽だった。

「月詠を迎えに行ってたんだ」

「狼神様は?」

「今、神殿で集まってる」

 三人も居間へと案内した。

「地上界のことなら、麿衣まえ様がよく知ってるだろうけど。その麿衣様が石を探すのは難しいって言ってたんだ」

 後から来た三人もあからさまに不安そうな表情を見せた。

「じゃあ、輝惺様と亜玖瑠様は……」

 嫌な予感が漂う。

 それを遮るように言い放った。

「狼神様は死んだりしないよ!! そのために今みんなが集まっているんだもの!!」

「如月……。うん、そうね! 如月の言う通りだわ」

 僕の後に蘭恋も続く。

「ああ、その通りだ」

 いきなり居間の襖が開いた。

朔怜ざれい様に、依咲那いざな様!!」

「直ぐに地上界へ出発するぞ」

 二人の狼神様の言葉に、全員の表情が明るくなった。

「「はいっ!!」」

 朔怜様と依咲那様に仕えている朱邑と秦羽が元気に返事をする。

「おい、如月! お前もだ」

 朔怜様が大きな声でいきなり話しかけてきた。

「僕も……ですか?」

 突然名前を呼ばれて戸惑った。それでも咲怜様と依咲那様は堂々とした笑顔を崩さない。

「行きたくないのかい?」

「依咲那様、そりゃ行きたいですが……。僕も行っても良いのでしょうか?」

「今、亜玖瑠の中にいる輝惺に仕える巫子は君だ。君が一番輝惺に合うと思う石を選ぶのだ」

 そんな大事な役目を僕が担うのか……。でも、やりたい! 輝惺様のために……。

「ご一緒させてください!!」

「さあ、急げ。如月には麿衣が付いてくれる。その間、大地の神殿をしっかり守るんだぞ、凪」

「はい!」

 凪が返事をすると、巫子と狼神様はここで一先ず解散となった。

 そして風神・依咲那様、雷神・朔怜様、大地神・麿衣様と、巫子である秦羽、朱邑、そして僕は、大神殿から飛び立ち地上界へと降りていく。

「飛ばされないように、力尽くで耐えろよ!!」

 朔怜様が叫ぶと、ものすごい勢いで神界から天界を突き抜けるように落ちていく。

 もうスピードが早すぎて落ちているのか浮いているのか分からないほどだ。

「キャッホーーー!!」

 こんな高速で落ちているのに、秦羽も朱邑も楽しそうだ。

 両手を上げて風を全身で受けてる。

 そんな二人をもっと楽しませようと、依咲那様も朔怜様も一回転したり、より高速で落下したりしている。

 もう何回か一緒に巡礼しているみたいだから、慣れているのかも知れない。

 …………でも、僕は……僕は……!!!

「ギャァァァアアアアア!!!!!」

 あまりの恐怖にひたすら悲鳴を轟かせた。

 尻尾も何もかもが緊張と恐怖で硬直している。

 狼神様が、少しでも僕達を元気付けようとしてくれているのだろう。

 麿衣様にしっかりと抱えられているから安心だとは分かっているが、それでこの高速落下が楽しめるとは限らない。

 麿衣様は至って安全第一で落下してくれているのが少し……ほんの少しだけ心が救われる。

(僕はあんな飛び方されれば意識を失ってしまう……)

「さあ、もうすぐ見えてくるぜ!! 地上界が!!」

 朔怜様が叫んだ。

しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...