15 / 75
本編
13
しおりを挟む
一度帰るしかなった。
偶然にでも天袮様に会えないかと期待したが、それも叶わなかった。
みんなが揃うのは朝拝の時間のみ。明日の朝まで待ちたくない。それでも無力な僕たちでは、これ以上はどうしようもない。
「月詠、せっかく光の神に仕えたのにね」
「ううん。どの道、ボクは亜玖瑠様に選ばれる運命だったんだ。あの時……初めてボク達が神界へ来た時、期待に満ちた八乙女の眩ゆいオーラが放たれている中、ボクだけは暗いオーラが出てたんだって。だから亜玖瑠様は少しでも光から逃れられるかもしれないと思って、ボクを引き抜いたって。あのあとすぐに言われちゃったんだ」
月詠の担当が闇の神と決まり、悲嘆していたのが伝わってしまったのか。
じゃあ、月詠はどうであれ亜玖留様の巫子になるべくしてなったというわけだ。
それでも今は悲しんでいるようには見えない。
でも……と月詠は続けたので耳を傾けた。
「結局は、落ち込んでただけのボクのオーラよりも、輝惺様の光のほうが強かったんだけどね。毎日毎日、悶え苦しむ亜玖留様が今は心配なんだ」
「月詠……」
「亜玖瑠様に元気になってほしい」
そう言った月詠の横顔が、頼もしく思えた。
「ね、月詠。絶対に狼神様を助けようね」
「うん!」
明日の朝拝でみんなに助けを求めるとして、一先ず今日はそれぞれの仕事に専念することにした。
闇の神の神殿へ戻ると、輝惺様に亜玖瑠様の様子を伝えておいた。
心配そうな表情を見せた輝惺様。
「亜玖瑠は悪くないのだ。分かってやってくれ。亜玖瑠じゃなければ黄泉の国は崩壊してしまう。罪人を常に相手にしているからこそ、私を叱ったのも解るのだ」
「承知しております。亜玖瑠様に仕えている月詠も助けたいと申しております。必ず力になって見せます」
「今年の八乙女は、今までで一番頼もしいかも知れぬな」
輝惺様が微笑んでくれたのが嬉しかった。
体はしんどいハズなのに……。
「明日の朝拝で八乙女に伝えます。狼神様に伝われば、すぐに対応してくれるでしょうから……。今日はゆっくり休んでください」
「ああ、悪いがそうさせてもらうよ」
輝惺様を部屋まで送り届けると、仕事へと移った。
何も教えてはもらえないため、帳簿の付け方なんかは見よう見まねで書き込んだ。
後は他の神様がどんなふうに過ごしているのかを朝拝の時に聞いておいたから、ここで僕一人でもできそうな雑務は熟しておく。
次の朝、僕はいつもより早く大神殿へと向かった。
居ても立ってもいられない状態なのだ。
逸る気持ちを抑え、走って行った。
大神殿には一番に着いたが、そのとすぐに月詠が。それに続いて朱邑や凪も到着した。
今日に限って他の八乙女がなかなか来なくて、気持ちが落ち着かない。
「如月、何か急いでるのかい?」
朱邑がすぐに察したようだ。
もう、ここにいるメンバーに先に話しても良いだろう。
「実は、亜玖瑠様と輝惺様が入れ替わってるって分かったんだ」
「それ、どういうこと!?」
いつもはおっとりしている凪でさえ声を荒げて驚いた。
そりゃそうだ。神様が入れ替わっているなんて、そんな事態誰が想像するものか。
「それ、いつ分かったんだ?」
朱邑が身を乗り出してグイッと僕に顔を寄せる。
「それが、昨日なんだ」
「ボクは昨日すぐに如月が伝えにきてくれたんだけど……」
「じゃあ、今の時点でそれを知ってるのはこの四人だけってことか」
朱邑が考え込んだ。
「昨日、輝惺様が元に戻る方法が分かったって言って、教えてくれたんだけどね」
僕に続いて月詠が言う。
「そのためには、地上界へ行かなきゃいけないんだって」
「「地上界……」」
凪も朱邑も立ち尽くしてしまった。
偶然にでも天袮様に会えないかと期待したが、それも叶わなかった。
みんなが揃うのは朝拝の時間のみ。明日の朝まで待ちたくない。それでも無力な僕たちでは、これ以上はどうしようもない。
「月詠、せっかく光の神に仕えたのにね」
「ううん。どの道、ボクは亜玖瑠様に選ばれる運命だったんだ。あの時……初めてボク達が神界へ来た時、期待に満ちた八乙女の眩ゆいオーラが放たれている中、ボクだけは暗いオーラが出てたんだって。だから亜玖瑠様は少しでも光から逃れられるかもしれないと思って、ボクを引き抜いたって。あのあとすぐに言われちゃったんだ」
月詠の担当が闇の神と決まり、悲嘆していたのが伝わってしまったのか。
じゃあ、月詠はどうであれ亜玖留様の巫子になるべくしてなったというわけだ。
それでも今は悲しんでいるようには見えない。
でも……と月詠は続けたので耳を傾けた。
「結局は、落ち込んでただけのボクのオーラよりも、輝惺様の光のほうが強かったんだけどね。毎日毎日、悶え苦しむ亜玖留様が今は心配なんだ」
「月詠……」
「亜玖瑠様に元気になってほしい」
そう言った月詠の横顔が、頼もしく思えた。
「ね、月詠。絶対に狼神様を助けようね」
「うん!」
明日の朝拝でみんなに助けを求めるとして、一先ず今日はそれぞれの仕事に専念することにした。
闇の神の神殿へ戻ると、輝惺様に亜玖瑠様の様子を伝えておいた。
心配そうな表情を見せた輝惺様。
「亜玖瑠は悪くないのだ。分かってやってくれ。亜玖瑠じゃなければ黄泉の国は崩壊してしまう。罪人を常に相手にしているからこそ、私を叱ったのも解るのだ」
「承知しております。亜玖瑠様に仕えている月詠も助けたいと申しております。必ず力になって見せます」
「今年の八乙女は、今までで一番頼もしいかも知れぬな」
輝惺様が微笑んでくれたのが嬉しかった。
体はしんどいハズなのに……。
「明日の朝拝で八乙女に伝えます。狼神様に伝われば、すぐに対応してくれるでしょうから……。今日はゆっくり休んでください」
「ああ、悪いがそうさせてもらうよ」
輝惺様を部屋まで送り届けると、仕事へと移った。
何も教えてはもらえないため、帳簿の付け方なんかは見よう見まねで書き込んだ。
後は他の神様がどんなふうに過ごしているのかを朝拝の時に聞いておいたから、ここで僕一人でもできそうな雑務は熟しておく。
次の朝、僕はいつもより早く大神殿へと向かった。
居ても立ってもいられない状態なのだ。
逸る気持ちを抑え、走って行った。
大神殿には一番に着いたが、そのとすぐに月詠が。それに続いて朱邑や凪も到着した。
今日に限って他の八乙女がなかなか来なくて、気持ちが落ち着かない。
「如月、何か急いでるのかい?」
朱邑がすぐに察したようだ。
もう、ここにいるメンバーに先に話しても良いだろう。
「実は、亜玖瑠様と輝惺様が入れ替わってるって分かったんだ」
「それ、どういうこと!?」
いつもはおっとりしている凪でさえ声を荒げて驚いた。
そりゃそうだ。神様が入れ替わっているなんて、そんな事態誰が想像するものか。
「それ、いつ分かったんだ?」
朱邑が身を乗り出してグイッと僕に顔を寄せる。
「それが、昨日なんだ」
「ボクは昨日すぐに如月が伝えにきてくれたんだけど……」
「じゃあ、今の時点でそれを知ってるのはこの四人だけってことか」
朱邑が考え込んだ。
「昨日、輝惺様が元に戻る方法が分かったって言って、教えてくれたんだけどね」
僕に続いて月詠が言う。
「そのためには、地上界へ行かなきゃいけないんだって」
「「地上界……」」
凪も朱邑も立ち尽くしてしまった。
2
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】
きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。
オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。
そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。
アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。
そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。
二人の想いは無事通じ合うのか。
現在、スピンオフ作品の
ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?
人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途なαが婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。
・五話完結予定です。
※オメガバースでαが受けっぽいです。

ベータですが、運命の番だと迫られています
モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。
運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。
執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか?
ベータがオメガになることはありません。
“運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり
※ムーンライトノベルズでも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる