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本編
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一度帰るしかなった。
偶然にでも天袮様に会えないかと期待したが、それも叶わなかった。
みんなが揃うのは朝拝の時間のみ。明日の朝まで待ちたくない。それでも無力な僕たちでは、これ以上はどうしようもない。
「月詠、せっかく光の神に仕えたのにね」
「ううん。どの道、ボクは亜玖瑠様に選ばれる運命だったんだ。あの時……初めてボク達が神界へ来た時、期待に満ちた八乙女の眩ゆいオーラが放たれている中、ボクだけは暗いオーラが出てたんだって。だから亜玖瑠様は少しでも光から逃れられるかもしれないと思って、ボクを引き抜いたって。あのあとすぐに言われちゃったんだ」
月詠の担当が闇の神と決まり、悲嘆していたのが伝わってしまったのか。
じゃあ、月詠はどうであれ亜玖留様の巫子になるべくしてなったというわけだ。
それでも今は悲しんでいるようには見えない。
でも……と月詠は続けたので耳を傾けた。
「結局は、落ち込んでただけのボクのオーラよりも、輝惺様の光のほうが強かったんだけどね。毎日毎日、悶え苦しむ亜玖留様が今は心配なんだ」
「月詠……」
「亜玖瑠様に元気になってほしい」
そう言った月詠の横顔が、頼もしく思えた。
「ね、月詠。絶対に狼神様を助けようね」
「うん!」
明日の朝拝でみんなに助けを求めるとして、一先ず今日はそれぞれの仕事に専念することにした。
闇の神の神殿へ戻ると、輝惺様に亜玖瑠様の様子を伝えておいた。
心配そうな表情を見せた輝惺様。
「亜玖瑠は悪くないのだ。分かってやってくれ。亜玖瑠じゃなければ黄泉の国は崩壊してしまう。罪人を常に相手にしているからこそ、私を叱ったのも解るのだ」
「承知しております。亜玖瑠様に仕えている月詠も助けたいと申しております。必ず力になって見せます」
「今年の八乙女は、今までで一番頼もしいかも知れぬな」
輝惺様が微笑んでくれたのが嬉しかった。
体はしんどいハズなのに……。
「明日の朝拝で八乙女に伝えます。狼神様に伝われば、すぐに対応してくれるでしょうから……。今日はゆっくり休んでください」
「ああ、悪いがそうさせてもらうよ」
輝惺様を部屋まで送り届けると、仕事へと移った。
何も教えてはもらえないため、帳簿の付け方なんかは見よう見まねで書き込んだ。
後は他の神様がどんなふうに過ごしているのかを朝拝の時に聞いておいたから、ここで僕一人でもできそうな雑務は熟しておく。
次の朝、僕はいつもより早く大神殿へと向かった。
居ても立ってもいられない状態なのだ。
逸る気持ちを抑え、走って行った。
大神殿には一番に着いたが、そのとすぐに月詠が。それに続いて朱邑や凪も到着した。
今日に限って他の八乙女がなかなか来なくて、気持ちが落ち着かない。
「如月、何か急いでるのかい?」
朱邑がすぐに察したようだ。
もう、ここにいるメンバーに先に話しても良いだろう。
「実は、亜玖瑠様と輝惺様が入れ替わってるって分かったんだ」
「それ、どういうこと!?」
いつもはおっとりしている凪でさえ声を荒げて驚いた。
そりゃそうだ。神様が入れ替わっているなんて、そんな事態誰が想像するものか。
「それ、いつ分かったんだ?」
朱邑が身を乗り出してグイッと僕に顔を寄せる。
「それが、昨日なんだ」
「ボクは昨日すぐに如月が伝えにきてくれたんだけど……」
「じゃあ、今の時点でそれを知ってるのはこの四人だけってことか」
朱邑が考え込んだ。
「昨日、輝惺様が元に戻る方法が分かったって言って、教えてくれたんだけどね」
僕に続いて月詠が言う。
「そのためには、地上界へ行かなきゃいけないんだって」
「「地上界……」」
凪も朱邑も立ち尽くしてしまった。
偶然にでも天袮様に会えないかと期待したが、それも叶わなかった。
みんなが揃うのは朝拝の時間のみ。明日の朝まで待ちたくない。それでも無力な僕たちでは、これ以上はどうしようもない。
「月詠、せっかく光の神に仕えたのにね」
「ううん。どの道、ボクは亜玖瑠様に選ばれる運命だったんだ。あの時……初めてボク達が神界へ来た時、期待に満ちた八乙女の眩ゆいオーラが放たれている中、ボクだけは暗いオーラが出てたんだって。だから亜玖瑠様は少しでも光から逃れられるかもしれないと思って、ボクを引き抜いたって。あのあとすぐに言われちゃったんだ」
月詠の担当が闇の神と決まり、悲嘆していたのが伝わってしまったのか。
じゃあ、月詠はどうであれ亜玖留様の巫子になるべくしてなったというわけだ。
それでも今は悲しんでいるようには見えない。
でも……と月詠は続けたので耳を傾けた。
「結局は、落ち込んでただけのボクのオーラよりも、輝惺様の光のほうが強かったんだけどね。毎日毎日、悶え苦しむ亜玖留様が今は心配なんだ」
「月詠……」
「亜玖瑠様に元気になってほしい」
そう言った月詠の横顔が、頼もしく思えた。
「ね、月詠。絶対に狼神様を助けようね」
「うん!」
明日の朝拝でみんなに助けを求めるとして、一先ず今日はそれぞれの仕事に専念することにした。
闇の神の神殿へ戻ると、輝惺様に亜玖瑠様の様子を伝えておいた。
心配そうな表情を見せた輝惺様。
「亜玖瑠は悪くないのだ。分かってやってくれ。亜玖瑠じゃなければ黄泉の国は崩壊してしまう。罪人を常に相手にしているからこそ、私を叱ったのも解るのだ」
「承知しております。亜玖瑠様に仕えている月詠も助けたいと申しております。必ず力になって見せます」
「今年の八乙女は、今までで一番頼もしいかも知れぬな」
輝惺様が微笑んでくれたのが嬉しかった。
体はしんどいハズなのに……。
「明日の朝拝で八乙女に伝えます。狼神様に伝われば、すぐに対応してくれるでしょうから……。今日はゆっくり休んでください」
「ああ、悪いがそうさせてもらうよ」
輝惺様を部屋まで送り届けると、仕事へと移った。
何も教えてはもらえないため、帳簿の付け方なんかは見よう見まねで書き込んだ。
後は他の神様がどんなふうに過ごしているのかを朝拝の時に聞いておいたから、ここで僕一人でもできそうな雑務は熟しておく。
次の朝、僕はいつもより早く大神殿へと向かった。
居ても立ってもいられない状態なのだ。
逸る気持ちを抑え、走って行った。
大神殿には一番に着いたが、そのとすぐに月詠が。それに続いて朱邑や凪も到着した。
今日に限って他の八乙女がなかなか来なくて、気持ちが落ち着かない。
「如月、何か急いでるのかい?」
朱邑がすぐに察したようだ。
もう、ここにいるメンバーに先に話しても良いだろう。
「実は、亜玖瑠様と輝惺様が入れ替わってるって分かったんだ」
「それ、どういうこと!?」
いつもはおっとりしている凪でさえ声を荒げて驚いた。
そりゃそうだ。神様が入れ替わっているなんて、そんな事態誰が想像するものか。
「それ、いつ分かったんだ?」
朱邑が身を乗り出してグイッと僕に顔を寄せる。
「それが、昨日なんだ」
「ボクは昨日すぐに如月が伝えにきてくれたんだけど……」
「じゃあ、今の時点でそれを知ってるのはこの四人だけってことか」
朱邑が考え込んだ。
「昨日、輝惺様が元に戻る方法が分かったって言って、教えてくれたんだけどね」
僕に続いて月詠が言う。
「そのためには、地上界へ行かなきゃいけないんだって」
「「地上界……」」
凪も朱邑も立ち尽くしてしまった。
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