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本編
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穏やかな表情で朝食を召し上がる亜玖瑠様をコッソリと見つめていた。
亜玖瑠様は品よく少しずつ口に運んで食べている。
これはきっと輝惺様の食べ方なんだろう。
僕は口いっぱいに詰め込むのが癖だから、こんな品の良い食べ方に憧れてしまう。
……とか思いながら、今日も僕の頬には沢山のご飯が詰め込まれてパンパンだ。
亜玖瑠様が見つめられているのに気づいて箸を置いた。
「……喉に詰まらないのかい?」
コクコクと頷く。
亜玖瑠様がまだ半量も食べていないのに、僕の皿はすでに空っぽだ。
口の中で少しずつ頬から食べ物を出しながら飲み込んでいる。
見た目には童顔だけど、立派な成人だ。それなのに、未だにこんな子供みたいな食べ方がやめられない。
なんとか口の中のご飯を全て飲み込み終えると、ようやく本題に入れた。
「あの、お聞きしたいのですが宜しいでしょうか?」
「闇の神のことか?」
「はい……。あの、輝惺様の体に入ってる亜玖瑠様もやはり同様に苦しんでおられるようです。何か、解決策を知っていれば教えていただけませんか?」
輝惺様は考え込むように目を伏せた。
「勾玉を……」
「え?」
輝惺様が手を顔の高さに上げると、狼神様がみんな付けている筈の大きな勾玉の付いた手結がなかった。
「勾玉を盗まれたのだ」
「誰にですか?」
「亜玖瑠だ」
亜玖瑠様が、輝惺様の勾玉を盗んだ?
「一体、どうしてそんなことを……」
「私と亜玖瑠は本来殆ど顔を合わせない。私は闇に耐性がないし、亜玖瑠も光に耐性がない。なのだが……。ある時とんでもない事件が起きた。私が願いを叶えた人族がその力を悪用し、地上界を支配しようとしたのだ」
その人の願いとは自分のように身分の低い人が、今後苦しまなくていいように、権力を握りたい。そういうものだった。
しかし、いざ権力を握ると欲が暴走した。
その所為で多くの命が奪われ、亜玖瑠様は輝惺様が願いを叶えたばかりに起こした事態だと怒りをぶつけてきた。
「それで、その人はどうなったのですか?」
「火の神である煬源が制裁を与え、亜玖瑠が黄泉の国へ送った」
「私は確かにどんな願いでも叶えてあげられる。しかし、それをどう活かすかはその人次第なのだ。願いを叶えた後、どうなるかまでは私の力では変えられない。それを神の所為だというのも責任転嫁でしかない」
それはそうだ。何もかもを神が与えるわけはない。
亜玖瑠様が輝惺様に対して怒っているのも理解できないわけではないが……。でもそれで勾玉を盗むのは理解ができない。
「勾玉には狼神の力が宿っている。あれがないと、私達はどうすることもできないのだ」
「では、亜玖瑠様が両方持っているのですか?」
「そうじゃないから互いに苦しんでいるのだ」
「それは、どういう……」
「亜玖瑠は私への戒めだと言って勾玉を無理矢理奪った。しかし……」
光と闇がぶつかり、勾玉が割れてしまった。と言う。
そしてその反動で、輝惺様と亜玖瑠様が入れ替わってしまったのだと。
「その、勾玉を直す方法はないのですか?」
「今までどうにか出来ないかと方法を探していた。幸いこの亜玖瑠の神殿の書物で有益な記述を見つけることができた」
「じゃあ!!」
「……地上界へ行かねばならないのだ」
「地上界へ……?」
亜玖瑠様は品よく少しずつ口に運んで食べている。
これはきっと輝惺様の食べ方なんだろう。
僕は口いっぱいに詰め込むのが癖だから、こんな品の良い食べ方に憧れてしまう。
……とか思いながら、今日も僕の頬には沢山のご飯が詰め込まれてパンパンだ。
亜玖瑠様が見つめられているのに気づいて箸を置いた。
「……喉に詰まらないのかい?」
コクコクと頷く。
亜玖瑠様がまだ半量も食べていないのに、僕の皿はすでに空っぽだ。
口の中で少しずつ頬から食べ物を出しながら飲み込んでいる。
見た目には童顔だけど、立派な成人だ。それなのに、未だにこんな子供みたいな食べ方がやめられない。
なんとか口の中のご飯を全て飲み込み終えると、ようやく本題に入れた。
「あの、お聞きしたいのですが宜しいでしょうか?」
「闇の神のことか?」
「はい……。あの、輝惺様の体に入ってる亜玖瑠様もやはり同様に苦しんでおられるようです。何か、解決策を知っていれば教えていただけませんか?」
輝惺様は考え込むように目を伏せた。
「勾玉を……」
「え?」
輝惺様が手を顔の高さに上げると、狼神様がみんな付けている筈の大きな勾玉の付いた手結がなかった。
「勾玉を盗まれたのだ」
「誰にですか?」
「亜玖瑠だ」
亜玖瑠様が、輝惺様の勾玉を盗んだ?
「一体、どうしてそんなことを……」
「私と亜玖瑠は本来殆ど顔を合わせない。私は闇に耐性がないし、亜玖瑠も光に耐性がない。なのだが……。ある時とんでもない事件が起きた。私が願いを叶えた人族がその力を悪用し、地上界を支配しようとしたのだ」
その人の願いとは自分のように身分の低い人が、今後苦しまなくていいように、権力を握りたい。そういうものだった。
しかし、いざ権力を握ると欲が暴走した。
その所為で多くの命が奪われ、亜玖瑠様は輝惺様が願いを叶えたばかりに起こした事態だと怒りをぶつけてきた。
「それで、その人はどうなったのですか?」
「火の神である煬源が制裁を与え、亜玖瑠が黄泉の国へ送った」
「私は確かにどんな願いでも叶えてあげられる。しかし、それをどう活かすかはその人次第なのだ。願いを叶えた後、どうなるかまでは私の力では変えられない。それを神の所為だというのも責任転嫁でしかない」
それはそうだ。何もかもを神が与えるわけはない。
亜玖瑠様が輝惺様に対して怒っているのも理解できないわけではないが……。でもそれで勾玉を盗むのは理解ができない。
「勾玉には狼神の力が宿っている。あれがないと、私達はどうすることもできないのだ」
「では、亜玖瑠様が両方持っているのですか?」
「そうじゃないから互いに苦しんでいるのだ」
「それは、どういう……」
「亜玖瑠は私への戒めだと言って勾玉を無理矢理奪った。しかし……」
光と闇がぶつかり、勾玉が割れてしまった。と言う。
そしてその反動で、輝惺様と亜玖瑠様が入れ替わってしまったのだと。
「その、勾玉を直す方法はないのですか?」
「今までどうにか出来ないかと方法を探していた。幸いこの亜玖瑠の神殿の書物で有益な記述を見つけることができた」
「じゃあ!!」
「……地上界へ行かねばならないのだ」
「地上界へ……?」
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