【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
13 / 75
本編

11

しおりを挟む
 穏やかな表情で朝食を召し上がる亜玖瑠あくる様をコッソリと見つめていた。

 亜玖瑠様は品よく少しずつ口に運んで食べている。

 これはきっと輝惺きせい様の食べ方なんだろう。

 僕は口いっぱいに詰め込むのが癖だから、こんな品の良い食べ方に憧れてしまう。

 ……とか思いながら、今日も僕の頬には沢山のご飯が詰め込まれてパンパンだ。

 亜玖瑠様が見つめられているのに気づいて箸を置いた。

「……喉に詰まらないのかい?」

 コクコクと頷く。

 亜玖瑠様がまだ半量も食べていないのに、僕の皿はすでに空っぽだ。

 口の中で少しずつ頬から食べ物を出しながら飲み込んでいる。

 見た目には童顔だけど、立派な成人だ。それなのに、未だにこんな子供みたいな食べ方がやめられない。

 なんとか口の中のご飯を全て飲み込み終えると、ようやく本題に入れた。

「あの、お聞きしたいのですが宜しいでしょうか?」

「闇の神のことか?」

「はい……。あの、輝惺様の体に入ってる亜玖瑠様もやはり同様に苦しんでおられるようです。何か、解決策を知っていれば教えていただけませんか?」

 輝惺様は考え込むように目を伏せた。

「勾玉を……」

「え?」

 輝惺様が手を顔の高さに上げると、狼神様がみんな付けている筈の大きな勾玉の付いた手結がなかった。

「勾玉を盗まれたのだ」

「誰にですか?」

「亜玖瑠だ」

 亜玖瑠様が、輝惺様の勾玉を盗んだ?

「一体、どうしてそんなことを……」

「私と亜玖瑠は本来殆ど顔を合わせない。私は闇に耐性がないし、亜玖瑠も光に耐性がない。なのだが……。ある時とんでもない事件が起きた。私が願いを叶えた人族がその力を悪用し、地上界を支配しようとしたのだ」

 その人の願いとは自分のように身分の低い人が、今後苦しまなくていいように、権力を握りたい。そういうものだった。

 しかし、いざ権力を握ると欲が暴走した。

 その所為で多くの命が奪われ、亜玖瑠様は輝惺様が願いを叶えたばかりに起こした事態だと怒りをぶつけてきた。

「それで、その人はどうなったのですか?」

「火の神である煬源ようげんが制裁を与え、亜玖瑠が黄泉の国へ送った」

「私は確かにどんな願いでも叶えてあげられる。しかし、それをどう活かすかはその人次第なのだ。願いを叶えた後、どうなるかまでは私の力では変えられない。それを神の所為だというのも責任転嫁でしかない」

 それはそうだ。何もかもを神が与えるわけはない。

 亜玖瑠様が輝惺様に対して怒っているのも理解できないわけではないが……。でもそれで勾玉を盗むのは理解ができない。

「勾玉には狼神オオカミの力が宿っている。あれがないと、私達はどうすることもできないのだ」

「では、亜玖瑠様が両方持っているのですか?」

「そうじゃないから互いに苦しんでいるのだ」

「それは、どういう……」

「亜玖瑠は私への戒めだと言って勾玉を無理矢理奪った。しかし……」

 光と闇がぶつかり、勾玉が割れてしまった。と言う。

 そしてその反動で、輝惺様と亜玖瑠様が入れ替わってしまったのだと。

「その、勾玉を直す方法はないのですか?」

「今までどうにか出来ないかと方法を探していた。幸いこの亜玖瑠の神殿の書物で有益な記述を見つけることができた」

「じゃあ!!」

「……地上界へ行かねばならないのだ」

「地上界へ……?」
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。  オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。  そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。 アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。  そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。 二人の想いは無事通じ合うのか。 現在、スピンオフ作品の ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...