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「八乙女が来たことがない……のですか?」
これには相当驚いた。
銀狼七柱大神α様に対して、八乙女は毎年七~十名ほど送られる。
人数が足りないはずはなのに……。
「なぜ、八乙女は亜玖瑠様のところには来なかったのですか?」
亜玖瑠様はまた黙り込んでしまった。
言うべきか否かを見定めているようだ。
また明日には喋らない亜玖瑠様に戻ってしまうかもしれない。
今日喋ってくれるのであれば、聞けることは聞いておきたいと思った。
「私の仕事柄、いない方が良いのだ」
闇の神は黄泉の国を治めている。神様の中でも明るい仕事内容ではないのは理解できる。
「だから八乙女を来させなかった……?」
「そうではない。大抵の者は逃げ出した……と言った方が正しい。皆、初日に逃げ出していなくなった。だから、こんなにも長くここにいてくれたのは、初めてだ」
たった数日でこんなにも心を開いてくれたのはそういうワケだったのか……。
一度正座を直して真剣に向き合った。
今日亜玖瑠様が話してくれたのは、全て初めて知ったことだ。
いままで仕事の指示を一切出されなかったのは、前例がないから出しようがなかったということか。
「亜玖瑠様はずっとお一人で過ごされて、寂しくないのですか?」
「……分からない。それが常だったから、今のほうが不思議な感覚だろうな」
「え?」
「……何だ?」
「だって、他人事みたいに仰るので……」
亜玖瑠様が口を押さえて黙り込んでしまった。
何か隠しているような気がした。そこを僕が問いただしても良いのかも分からない。
でもこのまま見過ごすのはいけないような気がしたのだ。
巫子がこんなこと、差し出がましいのは分かっている。それでも無視をしたまま一年を共に過ごすのは無理だ。
「あの! ここに来た時からずっと違和感を感じておりました。何かあるなら申してください!!」
でも亜玖瑠様は何も言ってはくれない。
自室へ戻ろうと、立ち上がってしまった。
「亜玖瑠様!! 僕にできることがあれば些細なことでも致したいのです! あの……輝惺様と関係ありますか?」
口から偶然出た言葉だった。
月詠から聞いた話にも違和感しかなかった。
もしかするとこの二人の間に何か問題でも起きたのかと、喋ったことで繋がった。
これがどうやら当たっていたらしく、亜玖瑠様は真っ黒の襖に手を掛けたまま、その場にへたり込んでしまった。
「亜玖瑠様!!」
慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか? お部屋まで支えます」
「いや……大丈夫だ……」
ふらふらの体で起きあがろうとしたが、再びへたり込む。
「やはり、何かありますね?」
このまま問題を放置するのは危険なような気がした。
すると、亜玖瑠様はようやく事実を話してくれた。
「輝惺は……私だ……」
「えっ!? 闇の神様が、輝惺様……?」
わけが分からない。闇の神が輝惺様なはずがない。
「輝惺様は、光の神様ですよね?」
「そうだ。でも今は亜玖瑠の体の中に、私、輝惺が閉じ込められているのだ」
これには相当驚いた。
銀狼七柱大神α様に対して、八乙女は毎年七~十名ほど送られる。
人数が足りないはずはなのに……。
「なぜ、八乙女は亜玖瑠様のところには来なかったのですか?」
亜玖瑠様はまた黙り込んでしまった。
言うべきか否かを見定めているようだ。
また明日には喋らない亜玖瑠様に戻ってしまうかもしれない。
今日喋ってくれるのであれば、聞けることは聞いておきたいと思った。
「私の仕事柄、いない方が良いのだ」
闇の神は黄泉の国を治めている。神様の中でも明るい仕事内容ではないのは理解できる。
「だから八乙女を来させなかった……?」
「そうではない。大抵の者は逃げ出した……と言った方が正しい。皆、初日に逃げ出していなくなった。だから、こんなにも長くここにいてくれたのは、初めてだ」
たった数日でこんなにも心を開いてくれたのはそういうワケだったのか……。
一度正座を直して真剣に向き合った。
今日亜玖瑠様が話してくれたのは、全て初めて知ったことだ。
いままで仕事の指示を一切出されなかったのは、前例がないから出しようがなかったということか。
「亜玖瑠様はずっとお一人で過ごされて、寂しくないのですか?」
「……分からない。それが常だったから、今のほうが不思議な感覚だろうな」
「え?」
「……何だ?」
「だって、他人事みたいに仰るので……」
亜玖瑠様が口を押さえて黙り込んでしまった。
何か隠しているような気がした。そこを僕が問いただしても良いのかも分からない。
でもこのまま見過ごすのはいけないような気がしたのだ。
巫子がこんなこと、差し出がましいのは分かっている。それでも無視をしたまま一年を共に過ごすのは無理だ。
「あの! ここに来た時からずっと違和感を感じておりました。何かあるなら申してください!!」
でも亜玖瑠様は何も言ってはくれない。
自室へ戻ろうと、立ち上がってしまった。
「亜玖瑠様!! 僕にできることがあれば些細なことでも致したいのです! あの……輝惺様と関係ありますか?」
口から偶然出た言葉だった。
月詠から聞いた話にも違和感しかなかった。
もしかするとこの二人の間に何か問題でも起きたのかと、喋ったことで繋がった。
これがどうやら当たっていたらしく、亜玖瑠様は真っ黒の襖に手を掛けたまま、その場にへたり込んでしまった。
「亜玖瑠様!!」
慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか? お部屋まで支えます」
「いや……大丈夫だ……」
ふらふらの体で起きあがろうとしたが、再びへたり込む。
「やはり、何かありますね?」
このまま問題を放置するのは危険なような気がした。
すると、亜玖瑠様はようやく事実を話してくれた。
「輝惺は……私だ……」
「えっ!? 闇の神様が、輝惺様……?」
わけが分からない。闇の神が輝惺様なはずがない。
「輝惺様は、光の神様ですよね?」
「そうだ。でも今は亜玖瑠の体の中に、私、輝惺が閉じ込められているのだ」
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