10 / 75
本編
8
しおりを挟む
「八乙女が来たことがない……のですか?」
これには相当驚いた。
銀狼七柱大神α様に対して、八乙女は毎年七~十名ほど送られる。
人数が足りないはずはなのに……。
「なぜ、八乙女は亜玖瑠様のところには来なかったのですか?」
亜玖瑠様はまた黙り込んでしまった。
言うべきか否かを見定めているようだ。
また明日には喋らない亜玖瑠様に戻ってしまうかもしれない。
今日喋ってくれるのであれば、聞けることは聞いておきたいと思った。
「私の仕事柄、いない方が良いのだ」
闇の神は黄泉の国を治めている。神様の中でも明るい仕事内容ではないのは理解できる。
「だから八乙女を来させなかった……?」
「そうではない。大抵の者は逃げ出した……と言った方が正しい。皆、初日に逃げ出していなくなった。だから、こんなにも長くここにいてくれたのは、初めてだ」
たった数日でこんなにも心を開いてくれたのはそういうワケだったのか……。
一度正座を直して真剣に向き合った。
今日亜玖瑠様が話してくれたのは、全て初めて知ったことだ。
いままで仕事の指示を一切出されなかったのは、前例がないから出しようがなかったということか。
「亜玖瑠様はずっとお一人で過ごされて、寂しくないのですか?」
「……分からない。それが常だったから、今のほうが不思議な感覚だろうな」
「え?」
「……何だ?」
「だって、他人事みたいに仰るので……」
亜玖瑠様が口を押さえて黙り込んでしまった。
何か隠しているような気がした。そこを僕が問いただしても良いのかも分からない。
でもこのまま見過ごすのはいけないような気がしたのだ。
巫子がこんなこと、差し出がましいのは分かっている。それでも無視をしたまま一年を共に過ごすのは無理だ。
「あの! ここに来た時からずっと違和感を感じておりました。何かあるなら申してください!!」
でも亜玖瑠様は何も言ってはくれない。
自室へ戻ろうと、立ち上がってしまった。
「亜玖瑠様!! 僕にできることがあれば些細なことでも致したいのです! あの……輝惺様と関係ありますか?」
口から偶然出た言葉だった。
月詠から聞いた話にも違和感しかなかった。
もしかするとこの二人の間に何か問題でも起きたのかと、喋ったことで繋がった。
これがどうやら当たっていたらしく、亜玖瑠様は真っ黒の襖に手を掛けたまま、その場にへたり込んでしまった。
「亜玖瑠様!!」
慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか? お部屋まで支えます」
「いや……大丈夫だ……」
ふらふらの体で起きあがろうとしたが、再びへたり込む。
「やはり、何かありますね?」
このまま問題を放置するのは危険なような気がした。
すると、亜玖瑠様はようやく事実を話してくれた。
「輝惺は……私だ……」
「えっ!? 闇の神様が、輝惺様……?」
わけが分からない。闇の神が輝惺様なはずがない。
「輝惺様は、光の神様ですよね?」
「そうだ。でも今は亜玖瑠の体の中に、私、輝惺が閉じ込められているのだ」
これには相当驚いた。
銀狼七柱大神α様に対して、八乙女は毎年七~十名ほど送られる。
人数が足りないはずはなのに……。
「なぜ、八乙女は亜玖瑠様のところには来なかったのですか?」
亜玖瑠様はまた黙り込んでしまった。
言うべきか否かを見定めているようだ。
また明日には喋らない亜玖瑠様に戻ってしまうかもしれない。
今日喋ってくれるのであれば、聞けることは聞いておきたいと思った。
「私の仕事柄、いない方が良いのだ」
闇の神は黄泉の国を治めている。神様の中でも明るい仕事内容ではないのは理解できる。
「だから八乙女を来させなかった……?」
「そうではない。大抵の者は逃げ出した……と言った方が正しい。皆、初日に逃げ出していなくなった。だから、こんなにも長くここにいてくれたのは、初めてだ」
たった数日でこんなにも心を開いてくれたのはそういうワケだったのか……。
一度正座を直して真剣に向き合った。
今日亜玖瑠様が話してくれたのは、全て初めて知ったことだ。
いままで仕事の指示を一切出されなかったのは、前例がないから出しようがなかったということか。
「亜玖瑠様はずっとお一人で過ごされて、寂しくないのですか?」
「……分からない。それが常だったから、今のほうが不思議な感覚だろうな」
「え?」
「……何だ?」
「だって、他人事みたいに仰るので……」
亜玖瑠様が口を押さえて黙り込んでしまった。
何か隠しているような気がした。そこを僕が問いただしても良いのかも分からない。
でもこのまま見過ごすのはいけないような気がしたのだ。
巫子がこんなこと、差し出がましいのは分かっている。それでも無視をしたまま一年を共に過ごすのは無理だ。
「あの! ここに来た時からずっと違和感を感じておりました。何かあるなら申してください!!」
でも亜玖瑠様は何も言ってはくれない。
自室へ戻ろうと、立ち上がってしまった。
「亜玖瑠様!! 僕にできることがあれば些細なことでも致したいのです! あの……輝惺様と関係ありますか?」
口から偶然出た言葉だった。
月詠から聞いた話にも違和感しかなかった。
もしかするとこの二人の間に何か問題でも起きたのかと、喋ったことで繋がった。
これがどうやら当たっていたらしく、亜玖瑠様は真っ黒の襖に手を掛けたまま、その場にへたり込んでしまった。
「亜玖瑠様!!」
慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか? お部屋まで支えます」
「いや……大丈夫だ……」
ふらふらの体で起きあがろうとしたが、再びへたり込む。
「やはり、何かありますね?」
このまま問題を放置するのは危険なような気がした。
すると、亜玖瑠様はようやく事実を話してくれた。
「輝惺は……私だ……」
「えっ!? 闇の神様が、輝惺様……?」
わけが分からない。闇の神が輝惺様なはずがない。
「輝惺様は、光の神様ですよね?」
「そうだ。でも今は亜玖瑠の体の中に、私、輝惺が閉じ込められているのだ」
1
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる