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本編
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亜玖瑠様が仕事へ出掛けてしまった。
てっきり僕もついて行くのかと思ったが、ここにいろと言われ残されてしまった。
「なんだよーーー!! 連れ行ってくれるって思うじゃんかー!!」
遥か遠くの亜玖瑠様の背中に向かって叫んでやった。
もちろん、絶対に聞こえない距離をとってだ。聞こえたら大変だからね。
やっと僕も他の八乙女みたいに神の仕事を経験させてもらえると思ったのに!!
「ンンンン……! ムキューーーっっ!!」
地団駄を踏んだ後、境内を走り回ってやった。どうにか発散しないと精神的に壊れてしまいそうだ。
一年もこんな状態が続くのかと思っただけでゾッとする。
仕える神様が違っただけで、こんなにも日常が変わるなんて、不公平だ。
僕だって色んな場所に一緒に行ったりしてみたい。
大切な仕事にだって立ち会ってみたい。
神様の禊だって手伝いたい。
「僕は何もさせてもらえない……」
今日もまた一人だ。
また怒りが込み上げてきて、また気が済むまで走り回った。
もう神様が好き勝手してるのだから、僕だって好き勝手させてもらいますからね!!
(あとでこっそりナッツも食べてやるぅぅ!! って、別にそれは自由なんだろうけど……)
ひとしきり体を動かすと、ようやく少し気が紛れて休憩をしようと神殿へ上がる階段に腰を下ろした。
正面には見上げるほど大きな鳥居がある。
闇の神の神殿は鳥居も真っ黒だ。
きっと何もかもが黒いと言うこの空間が、気が滅入る原因にもなっていると思う。
「はぁ……」
と大きなため息を吐くと、亜玖瑠様が帰ってきた。
「うっ……思っていたより帰りが早かった……」
さっき腰を下ろしたばかりなのに……と思いながらも亜玖瑠様を出迎える。
「禊を……」
「亜玖瑠様? 大丈夫ですか?」
「早くっっ!!」
「はい!!」
亜玖瑠様の顔が真っ青だ。
どんな仕事だったのだろう。
思えば輝惺様のことばかり考えていて、亜玖瑠様のことは何も知らない。
とにかく邪悪な気を纏っているのだけは巫子の僕にも分かった。
急いで真っ白の襦袢を準備する。
亜玖瑠様は躊躇いもせず鳥居を潜る直前の場所で全裸になり、この襦袢に素早く着替えた。
「神殿の裏に滝がある。そこに私の数珠を持ってきてくれ。私は禊が終わるまでは中に入れない」
「承知しました!」
亜玖瑠様はこのまま滝へと向かい、僕は大急ぎで神殿へと走った。
ここに僕と亜玖留様、二人の数珠を置いている。
念の為二人分の数珠を手に取ると、また外に出て神殿の裏へと急いだ。
「亜玖瑠様! 数珠です!」
数珠を手渡すと亜玖瑠様は僕に「ここにいろ」とだけ言い、池の中に入って行った。
滝は見上げても、靄が掛かっていて途中までしか見えない。
この上には何があるのかさえも分からないが、打ち付ける透明の水はとても神秘的で綺麗だった。
亜玖瑠様はしばらく拝みながらこの滝に打たれていた。
穢れが浄化されて行くのが分かる。
闇の神の仕事に、僕を連れて行かなかった理由が分かった気がした。
夕食時、やっと少し闇の神の仕事について話してくれた。
「闇の神は黄泉の国を支配している」
「黄泉の国……」
「亡くなった人や神が行く場所だ。主に、悪いことをした者達だ」
「それで今日は、黄泉の国に?」
そうだ……と微かに声を出して言った。
「闇の神はその名の通り、闇を支配する神なのだ」
覇気のない声で淡々と喋っていたが、それでも無言で食べる食事に比べればいくらかマシだと思えた。
それにここに来て早数日経っている。
ようやく少し闇の神様について教えてもらえたのが嬉しい。
「僕にお手伝いできることはありますか?」
折角お仕えするために来たのだから、少しくらいは役に立ちたい。
しかし、亜玖瑠様は黙り込んでしまった。
「あの!! 無理にとは言いませんから!!」
慌てて話したが、そうではなかった。
しばらく黙り込んでいた亜玖瑠様が、ようやく口を開いた。
「この神殿で八乙女が居続けているのは初めてだ」
てっきり僕もついて行くのかと思ったが、ここにいろと言われ残されてしまった。
「なんだよーーー!! 連れ行ってくれるって思うじゃんかー!!」
遥か遠くの亜玖瑠様の背中に向かって叫んでやった。
もちろん、絶対に聞こえない距離をとってだ。聞こえたら大変だからね。
やっと僕も他の八乙女みたいに神の仕事を経験させてもらえると思ったのに!!
「ンンンン……! ムキューーーっっ!!」
地団駄を踏んだ後、境内を走り回ってやった。どうにか発散しないと精神的に壊れてしまいそうだ。
一年もこんな状態が続くのかと思っただけでゾッとする。
仕える神様が違っただけで、こんなにも日常が変わるなんて、不公平だ。
僕だって色んな場所に一緒に行ったりしてみたい。
大切な仕事にだって立ち会ってみたい。
神様の禊だって手伝いたい。
「僕は何もさせてもらえない……」
今日もまた一人だ。
また怒りが込み上げてきて、また気が済むまで走り回った。
もう神様が好き勝手してるのだから、僕だって好き勝手させてもらいますからね!!
(あとでこっそりナッツも食べてやるぅぅ!! って、別にそれは自由なんだろうけど……)
ひとしきり体を動かすと、ようやく少し気が紛れて休憩をしようと神殿へ上がる階段に腰を下ろした。
正面には見上げるほど大きな鳥居がある。
闇の神の神殿は鳥居も真っ黒だ。
きっと何もかもが黒いと言うこの空間が、気が滅入る原因にもなっていると思う。
「はぁ……」
と大きなため息を吐くと、亜玖瑠様が帰ってきた。
「うっ……思っていたより帰りが早かった……」
さっき腰を下ろしたばかりなのに……と思いながらも亜玖瑠様を出迎える。
「禊を……」
「亜玖瑠様? 大丈夫ですか?」
「早くっっ!!」
「はい!!」
亜玖瑠様の顔が真っ青だ。
どんな仕事だったのだろう。
思えば輝惺様のことばかり考えていて、亜玖瑠様のことは何も知らない。
とにかく邪悪な気を纏っているのだけは巫子の僕にも分かった。
急いで真っ白の襦袢を準備する。
亜玖瑠様は躊躇いもせず鳥居を潜る直前の場所で全裸になり、この襦袢に素早く着替えた。
「神殿の裏に滝がある。そこに私の数珠を持ってきてくれ。私は禊が終わるまでは中に入れない」
「承知しました!」
亜玖瑠様はこのまま滝へと向かい、僕は大急ぎで神殿へと走った。
ここに僕と亜玖留様、二人の数珠を置いている。
念の為二人分の数珠を手に取ると、また外に出て神殿の裏へと急いだ。
「亜玖瑠様! 数珠です!」
数珠を手渡すと亜玖瑠様は僕に「ここにいろ」とだけ言い、池の中に入って行った。
滝は見上げても、靄が掛かっていて途中までしか見えない。
この上には何があるのかさえも分からないが、打ち付ける透明の水はとても神秘的で綺麗だった。
亜玖瑠様はしばらく拝みながらこの滝に打たれていた。
穢れが浄化されて行くのが分かる。
闇の神の仕事に、僕を連れて行かなかった理由が分かった気がした。
夕食時、やっと少し闇の神の仕事について話してくれた。
「闇の神は黄泉の国を支配している」
「黄泉の国……」
「亡くなった人や神が行く場所だ。主に、悪いことをした者達だ」
「それで今日は、黄泉の国に?」
そうだ……と微かに声を出して言った。
「闇の神はその名の通り、闇を支配する神なのだ」
覇気のない声で淡々と喋っていたが、それでも無言で食べる食事に比べればいくらかマシだと思えた。
それにここに来て早数日経っている。
ようやく少し闇の神様について教えてもらえたのが嬉しい。
「僕にお手伝いできることはありますか?」
折角お仕えするために来たのだから、少しくらいは役に立ちたい。
しかし、亜玖瑠様は黙り込んでしまった。
「あの!! 無理にとは言いませんから!!」
慌てて話したが、そうではなかった。
しばらく黙り込んでいた亜玖瑠様が、ようやく口を開いた。
「この神殿で八乙女が居続けているのは初めてだ」
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