【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

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「あの、お聞きしてもよろしいですか?」

 食事が終わった直後を狙って、思い切って声をかけてみた。

 そうじゃないと、亜玖瑠あくる様は直ぐに神殿か自室に篭ってしまう。

「……なんだ」

 静かに答えてくれた。今日はよほど機嫌が良いと予測した。

狼神オオカミ様も、ご病気になったりするのでしょうか?」

 僕からの質問に、亜玖瑠様は僅かに眉を上げ、僕を見た。

 ここにきてから初めて目が合った気がする。

 黄金に輝く瞳は、実は闇の神様も他の神様も同じであったと、今さらながら気がついた。

「我々は病とは無縁である」

(ひゃーーー!! やはり今日は上機嫌だぁ!!)

 答えてくれただけで歓喜にわなないた。口元がニヤケそうになるのをなんとか我慢する。

 しかも亜玖留様の話はそれだけでは終わらなかった。

「私が引きこもっているからそう思ったのであろう?」

「ひゃいっ!!」

 見透かされていたのが恥ずかしい。僕の視線ってそんなに分かりやすいのだろうか。

「大丈夫だ。病ではない」

 そう言うと、また自室へと戻ってしまった。

 一人で食事の後片付けをする。いつもは虚しい気持ちで行う作業も、今日はルンルンな気持ちで出来る。

 その後は神としての勉強をする。本来なら各狼神様に色々と教わるのだが、仕方なく色んな巻物を引っ張り出しては一人で読み耽っている。

 他の狼神様の神殿を行き来することもあるみたいだけど、闇の神様の所へは誰も用事がないみたいだ。

 他の八乙女は日々色んな経験をさせてもらっている。

 僕は一人で全てを決めなくてはいけない。まさかここまで放任だとは予想していなかった。

 神殿で瞑想をしていたが、亜玖瑠様のことを考えてしまい、どうにも無心になれない。

「うーーーん……!! やめたぁああ!!」

 バタっと大の字に寝転ぶ。

「このままだと、明後日くらいには何をしていいか分からなくなってしまう!!」

 行儀が悪いのは承知の上、それでも少しくらい気を紛らわせないとやってられない!

 寝転んだまま、あっちへゴロゴロ~こっちへゴロゴロ~。またあっちへゴロゴロ~、こっちへゴロゴロ……。ドンっと何かにぶつかった。

 痛いわけではないが、ここに何かあっただろうか……。

 広い神殿の中で小さなリス獣人の僕一人くらいがゴロゴロ転がったところで何も支障はないはず……。

「わっっ!! 亜玖瑠様!! 申し訳ありません!!」

 ぶつかったのは、亜玖瑠様の脚だった!!

 最悪だ……。なんでよりによって……いつもはこんなこと絶対にやらないのに……。

 みるみる自分の顔色が失われていく。

 しかも今日はせっかく亜玖瑠様のご機嫌がよかったのに、これでいつもより不機嫌になってしまうかもしれない。

 亜玖瑠様がしゃがんで目を見てきた。

 無表情すぎて気持ちが読めない。

「ご、ご……ごごごごめん……なさい……」

 半泣きになって、謝った。

 亜玖瑠様の手が伸びてくる。

(叩かれるっ!?)

 肩をすくめて目をギュッと閉じた。

 すると、亜玖瑠様の手は僕の頬に添えられた。

「仕事だ」

 それだけ言うと、亜玖瑠様は直ぐに立ち上がり。神殿から出ていった。
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