【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
8 / 75
本編

6

しおりを挟む
「あの、お聞きしてもよろしいですか?」

 食事が終わった直後を狙って、思い切って声をかけてみた。

 そうじゃないと、亜玖瑠あくる様は直ぐに神殿か自室に篭ってしまう。

「……なんだ」

 静かに答えてくれた。今日はよほど機嫌が良いと予測した。

狼神オオカミ様も、ご病気になったりするのでしょうか?」

 僕からの質問に、亜玖瑠様は僅かに眉を上げ、僕を見た。

 ここにきてから初めて目が合った気がする。

 黄金に輝く瞳は、実は闇の神様も他の神様も同じであったと、今さらながら気がついた。

「我々は病とは無縁である」

(ひゃーーー!! やはり今日は上機嫌だぁ!!)

 答えてくれただけで歓喜にわなないた。口元がニヤケそうになるのをなんとか我慢する。

 しかも亜玖留様の話はそれだけでは終わらなかった。

「私が引きこもっているからそう思ったのであろう?」

「ひゃいっ!!」

 見透かされていたのが恥ずかしい。僕の視線ってそんなに分かりやすいのだろうか。

「大丈夫だ。病ではない」

 そう言うと、また自室へと戻ってしまった。

 一人で食事の後片付けをする。いつもは虚しい気持ちで行う作業も、今日はルンルンな気持ちで出来る。

 その後は神としての勉強をする。本来なら各狼神様に色々と教わるのだが、仕方なく色んな巻物を引っ張り出しては一人で読み耽っている。

 他の狼神様の神殿を行き来することもあるみたいだけど、闇の神様の所へは誰も用事がないみたいだ。

 他の八乙女は日々色んな経験をさせてもらっている。

 僕は一人で全てを決めなくてはいけない。まさかここまで放任だとは予想していなかった。

 神殿で瞑想をしていたが、亜玖瑠様のことを考えてしまい、どうにも無心になれない。

「うーーーん……!! やめたぁああ!!」

 バタっと大の字に寝転ぶ。

「このままだと、明後日くらいには何をしていいか分からなくなってしまう!!」

 行儀が悪いのは承知の上、それでも少しくらい気を紛らわせないとやってられない!

 寝転んだまま、あっちへゴロゴロ~こっちへゴロゴロ~。またあっちへゴロゴロ~、こっちへゴロゴロ……。ドンっと何かにぶつかった。

 痛いわけではないが、ここに何かあっただろうか……。

 広い神殿の中で小さなリス獣人の僕一人くらいがゴロゴロ転がったところで何も支障はないはず……。

「わっっ!! 亜玖瑠様!! 申し訳ありません!!」

 ぶつかったのは、亜玖瑠様の脚だった!!

 最悪だ……。なんでよりによって……いつもはこんなこと絶対にやらないのに……。

 みるみる自分の顔色が失われていく。

 しかも今日はせっかく亜玖瑠様のご機嫌がよかったのに、これでいつもより不機嫌になってしまうかもしれない。

 亜玖瑠様がしゃがんで目を見てきた。

 無表情すぎて気持ちが読めない。

「ご、ご……ごごごごめん……なさい……」

 半泣きになって、謝った。

 亜玖瑠様の手が伸びてくる。

(叩かれるっ!?)

 肩をすくめて目をギュッと閉じた。

 すると、亜玖瑠様の手は僕の頬に添えられた。

「仕事だ」

 それだけ言うと、亜玖瑠様は直ぐに立ち上がり。神殿から出ていった。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...