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本編
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光の神とは『どんな願いも誰の願いも叶えてくれる』という神様なのだ。
願いを叶えてはあげるけれども、その後は各々で頑張るしかない。光の神はその手助けをしている。
その光の神が誰の願いも叶えないなんて……。
「他に変わった所はないの?」
兎獣人蘭恋が訪ねる。
「急に暴れる時があるんだ。苦しそうに、悶えてる。そう言う時は大体自室に篭って落ち着くまでは近寄るなと言われてる」
「輝惺様、一体どうしたんだろう?」
「なんか……光の神なのに、光を嫌っているような気がしてならないんだよね……」
月詠が考え込んだ。
聞けば聞くほど輝惺様の印象とは遠ざかっていく。
「亜玖瑠様はどうなの?」
「うん……亜玖瑠様は殆ど外には出てこられない。ずっと神殿に篭っている時もあれば、日中は寝込んでいる時もある。食事もまともに摂られない時だって……」
「闇の神様なんて、俺たちにはとても想像ができない」
鳥獣人・秦羽が言う。それに他の八乙女も頷いた。
「そもそも、闇の神様なんて必要なのかな?」
狐獣人・須凰と犬獣人・朱邑が話し合っている。
……何かがおかしい。
違和感だけが胸につっかえている。
「俺、朔怜様に輝惺様と亜玖瑠様について尋ねてみるよ」
「そうしてくれると助かる」
「何か分かったら教えてね?」
今日の所はそれで雑談は終わり。朝の祓詞を唱えると、それぞれの持ち場に戻って行った。
「ただいま帰りました……」
闇の神の元に帰ると神殿を覗いてみた。
「亜玖瑠様……いない……」
今日は自室に篭られているのだろうか。
一人で掃除を始めた。
違和感はみんなと話してから益々膨れ上がっている。
でも、まさか神様が病気になんてかかるわけもないし……。
何もわからないのが余計に不安だった。
僕から聞けば答えてくれるだろうか……。
一人だとこの広い敷地を掃除するだけでも随分な時間を要した。
やっと終わると腹ぺこで食事の準備に取り掛かる。
(今日は食べてくれるといいけど……)
昨日の晩は食べていないから、お粥は普段より柔らかくしておいた。
準備が整うと亜玖瑠様の部屋へと向かう。
「亜玖瑠様。お食事の準備ができております。食べられそうですか?」
「……ああ」
僅かに返事が聞こえた。これは珍しい。亜玖瑠様が返事をしてくださるなんて……。
しかも今日は直ぐに部屋から出てきたのだ!!
今日は一体どうしたのだろう。
殆ど反応のないのが当たり前になりつつあったのに、驚きすぎて尻尾がピンっと張っている。
目を見開いて亜玖瑠様を凝視してしまった。
「……何か?」
「ひっ! いえ、なんでもございません!!」
急いで立ち上がり、歩き始めた。
亜玖瑠様はゆったりと中庭に目線を送っている。
「一人でやったのか?」
「はっ、はひ!! 今朝は亜玖瑠様の調子が悪いのかと思い、勝手ながら一人で庭の手入れをさせていただきました」
怒っているのかと思い、慌てて土下座をした。
しかし、亜玖瑠様はとても穏やかな口調で「ありがとう」と言ったのだ。
「ほえ?」
予想外の言葉に息を呑んだ。闇の神がこんなにも柔らかいオーラを纏っているなんて。
本当に、輝惺様も亜玖瑠様もどうしたというのだ……。
願いを叶えてはあげるけれども、その後は各々で頑張るしかない。光の神はその手助けをしている。
その光の神が誰の願いも叶えないなんて……。
「他に変わった所はないの?」
兎獣人蘭恋が訪ねる。
「急に暴れる時があるんだ。苦しそうに、悶えてる。そう言う時は大体自室に篭って落ち着くまでは近寄るなと言われてる」
「輝惺様、一体どうしたんだろう?」
「なんか……光の神なのに、光を嫌っているような気がしてならないんだよね……」
月詠が考え込んだ。
聞けば聞くほど輝惺様の印象とは遠ざかっていく。
「亜玖瑠様はどうなの?」
「うん……亜玖瑠様は殆ど外には出てこられない。ずっと神殿に篭っている時もあれば、日中は寝込んでいる時もある。食事もまともに摂られない時だって……」
「闇の神様なんて、俺たちにはとても想像ができない」
鳥獣人・秦羽が言う。それに他の八乙女も頷いた。
「そもそも、闇の神様なんて必要なのかな?」
狐獣人・須凰と犬獣人・朱邑が話し合っている。
……何かがおかしい。
違和感だけが胸につっかえている。
「俺、朔怜様に輝惺様と亜玖瑠様について尋ねてみるよ」
「そうしてくれると助かる」
「何か分かったら教えてね?」
今日の所はそれで雑談は終わり。朝の祓詞を唱えると、それぞれの持ち場に戻って行った。
「ただいま帰りました……」
闇の神の元に帰ると神殿を覗いてみた。
「亜玖瑠様……いない……」
今日は自室に篭られているのだろうか。
一人で掃除を始めた。
違和感はみんなと話してから益々膨れ上がっている。
でも、まさか神様が病気になんてかかるわけもないし……。
何もわからないのが余計に不安だった。
僕から聞けば答えてくれるだろうか……。
一人だとこの広い敷地を掃除するだけでも随分な時間を要した。
やっと終わると腹ぺこで食事の準備に取り掛かる。
(今日は食べてくれるといいけど……)
昨日の晩は食べていないから、お粥は普段より柔らかくしておいた。
準備が整うと亜玖瑠様の部屋へと向かう。
「亜玖瑠様。お食事の準備ができております。食べられそうですか?」
「……ああ」
僅かに返事が聞こえた。これは珍しい。亜玖瑠様が返事をしてくださるなんて……。
しかも今日は直ぐに部屋から出てきたのだ!!
今日は一体どうしたのだろう。
殆ど反応のないのが当たり前になりつつあったのに、驚きすぎて尻尾がピンっと張っている。
目を見開いて亜玖瑠様を凝視してしまった。
「……何か?」
「ひっ! いえ、なんでもございません!!」
急いで立ち上がり、歩き始めた。
亜玖瑠様はゆったりと中庭に目線を送っている。
「一人でやったのか?」
「はっ、はひ!! 今朝は亜玖瑠様の調子が悪いのかと思い、勝手ながら一人で庭の手入れをさせていただきました」
怒っているのかと思い、慌てて土下座をした。
しかし、亜玖瑠様はとても穏やかな口調で「ありがとう」と言ったのだ。
「ほえ?」
予想外の言葉に息を呑んだ。闇の神がこんなにも柔らかいオーラを纏っているなんて。
本当に、輝惺様も亜玖瑠様もどうしたというのだ……。
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