【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
7 / 75
本編

5

しおりを挟む
 光の神とは『どんな願いも誰の願いも叶えてくれる』という神様なのだ。

 願いを叶えてはあげるけれども、その後は各々で頑張るしかない。光の神はその手助けをしている。

 その光の神が誰の願いも叶えないなんて……。

「他に変わった所はないの?」

 兎獣人蘭恋らんれんが訪ねる。

「急に暴れる時があるんだ。苦しそうに、悶えてる。そう言う時は大体自室に篭って落ち着くまでは近寄るなと言われてる」

輝惺きせい様、一体どうしたんだろう?」

「なんか……光の神なのに、光を嫌っているような気がしてならないんだよね……」

 月詠が考え込んだ。

 聞けば聞くほど輝惺様の印象とは遠ざかっていく。

亜玖瑠あくる様はどうなの?」

「うん……亜玖瑠様は殆ど外には出てこられない。ずっと神殿に篭っている時もあれば、日中は寝込んでいる時もある。食事もまともに摂られない時だって……」

「闇の神様なんて、俺たちにはとても想像ができない」

 鳥獣人・秦羽しんばが言う。それに他の八乙女も頷いた。

「そもそも、闇の神様なんて必要なのかな?」

 狐獣人・須凰すおうと犬獣人・朱邑あけさとが話し合っている。

 ……何かがおかしい。

 違和感だけが胸につっかえている。

「俺、朔怜ざれい様に輝惺様と亜玖瑠様について尋ねてみるよ」

「そうしてくれると助かる」

「何か分かったら教えてね?」

 今日の所はそれで雑談は終わり。朝の祓詞を唱えると、それぞれの持ち場に戻って行った。


「ただいま帰りました……」

 闇の神の元に帰ると神殿を覗いてみた。

「亜玖瑠様……いない……」

 今日は自室に篭られているのだろうか。

 一人で掃除を始めた。

 違和感はみんなと話してから益々膨れ上がっている。

 でも、まさか神様が病気になんてかかるわけもないし……。

 何もわからないのが余計に不安だった。

 僕から聞けば答えてくれるだろうか……。

 一人だとこの広い敷地を掃除するだけでも随分な時間を要した。

 やっと終わると腹ぺこで食事の準備に取り掛かる。

(今日は食べてくれるといいけど……)

 昨日の晩は食べていないから、お粥は普段より柔らかくしておいた。

 準備が整うと亜玖瑠様の部屋へと向かう。

「亜玖瑠様。お食事の準備ができております。食べられそうですか?」

「……ああ」

 僅かに返事が聞こえた。これは珍しい。亜玖瑠様が返事をしてくださるなんて……。

 しかも今日は直ぐに部屋から出てきたのだ!!

 今日は一体どうしたのだろう。

 殆ど反応のないのが当たり前になりつつあったのに、驚きすぎて尻尾がピンっと張っている。

 目を見開いて亜玖瑠様を凝視してしまった。

「……何か?」

「ひっ! いえ、なんでもございません!!」

 急いで立ち上がり、歩き始めた。

 亜玖瑠様はゆったりと中庭に目線を送っている。

「一人でやったのか?」

「はっ、はひ!! 今朝は亜玖瑠様の調子が悪いのかと思い、勝手ながら一人で庭の手入れをさせていただきました」

 怒っているのかと思い、慌てて土下座をした。

 しかし、亜玖瑠様はとても穏やかな口調で「ありがとう」と言ったのだ。

「ほえ?」

 予想外の言葉に息を呑んだ。闇の神がこんなにも柔らかいオーラを纏っているなんて。

 本当に、輝惺様も亜玖瑠様もどうしたというのだ……。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

処理中です...