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辞退
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大広間に小さな響めきが起きた。
「ねぇ、君。ここは別世界とはいえ、王太子の番になれるかもしれないんだよ? 辞退するのは、勿体ないんじゃない?」
隣にいた垂れ目の人が嗜める。
「もしかして番になる人がいたとか?」
「そうではありませんが……番の候補者になれば、あなた達と争わなきゃいけないんですよね。僕は別にどこに行っても良いのですが、穏やかに過ごしたいとだけ思っているんです」
「まぁ、この中から一人しか選ばれないんだもんね。君の言っているのも間違いではないのかな。でも知らない世界に来たなら、助け合ったりもできるでしょ? あ、私はカイゼル・ボートワン」
「……白峰亮です」
もう一人は口を開かなかった。
ルシフェルが「エルネストとカイゼルはこのまま候補者として残るので良いか?」二人を交互に見ながら訊ねたことで彼の名前を覚えた。
二人とも、力強く頷く。
「元の世界では周りにアルファがいなくて、私は酷いヒートに悩まされてきました。番なんて一生出会えないと諦めていたのですが、まさか運命の番が別世界にいるだなんて!」
カイゼルはすでに決心を固めていた。
エルネストも「俺も、辞退なんてするつもりはない」短くも確固たる決意を宣言した。
「では、亮さん。元の世界に帰ることもできますし、ここで暮らすことも許可できる。どちらか選びなさい」
「帰っても意味ないです。召喚の際に体の負担が生じるみたいなので、このままここで仕事をさせてもらえないでしょうか」
ルシフェルはヴァルティスに視線を送る。
「あぁ、構わない。ここで従者として働けるよう、手配しておく」
ヴァルティスが言うと、侍女の一人を呼び出した。
「初めまして、セレシアと申します。早速ですが、従者専用の別邸がございますので、まずはそちらで着替えましょう」
「よろしくお願いします」
ヴァルティスとルシフェルに向かってお辞儀をすると、セレシアについて行く。
「ねぇ、候補者にはならなくても、召喚された者同士、会ったらお話しくらいしましょうね」
「お気遣い、どうも」
カイゼルは見た目や話し方そのものの性格をしていそうだ。
もしかすると、元の世界では裕福な家で育ったのかもしれない。人を疑ったことのないような澄んだ眸はいきなり王族の一員になっても違和感もない。
見た目も中性的で儚げだ。
彼が真実の番だったなら、納得できると思った。
(どうせ、僕が真実の番なわけないし。万が一そうだったとしても、間もなく死んでしまうオメガなど、喜ばれるはずもない)
余命宣告のことは言わなかった。最初から夢を見ない道を選んだ。
残された時間を穏やかに過ごしたいと思う気持ちは、異世界へ来ても変わらない。
大広間を出ると緊張が解れ、肩を回す。
セレシアは「突然のことで驚かれたでしょう?」と微笑みかけてくれた。
頬のそばかすが可愛らしい女性で、同じオメガなのも親近感が湧く。
「番が、いるんですね」
背後から歩いていると、彼女の頸に噛み痕があるのを見つけた。
「そうなんです。運命の番と巡り会えました。……結婚はできないんですけどね」
「何故です?」
「身分が違いすぎるお方なんです。でも、私は幸せだから現状に満足していますよ」
王族や、貴族階級の人なのかもしれないと思った。
「ねぇ、君。ここは別世界とはいえ、王太子の番になれるかもしれないんだよ? 辞退するのは、勿体ないんじゃない?」
隣にいた垂れ目の人が嗜める。
「もしかして番になる人がいたとか?」
「そうではありませんが……番の候補者になれば、あなた達と争わなきゃいけないんですよね。僕は別にどこに行っても良いのですが、穏やかに過ごしたいとだけ思っているんです」
「まぁ、この中から一人しか選ばれないんだもんね。君の言っているのも間違いではないのかな。でも知らない世界に来たなら、助け合ったりもできるでしょ? あ、私はカイゼル・ボートワン」
「……白峰亮です」
もう一人は口を開かなかった。
ルシフェルが「エルネストとカイゼルはこのまま候補者として残るので良いか?」二人を交互に見ながら訊ねたことで彼の名前を覚えた。
二人とも、力強く頷く。
「元の世界では周りにアルファがいなくて、私は酷いヒートに悩まされてきました。番なんて一生出会えないと諦めていたのですが、まさか運命の番が別世界にいるだなんて!」
カイゼルはすでに決心を固めていた。
エルネストも「俺も、辞退なんてするつもりはない」短くも確固たる決意を宣言した。
「では、亮さん。元の世界に帰ることもできますし、ここで暮らすことも許可できる。どちらか選びなさい」
「帰っても意味ないです。召喚の際に体の負担が生じるみたいなので、このままここで仕事をさせてもらえないでしょうか」
ルシフェルはヴァルティスに視線を送る。
「あぁ、構わない。ここで従者として働けるよう、手配しておく」
ヴァルティスが言うと、侍女の一人を呼び出した。
「初めまして、セレシアと申します。早速ですが、従者専用の別邸がございますので、まずはそちらで着替えましょう」
「よろしくお願いします」
ヴァルティスとルシフェルに向かってお辞儀をすると、セレシアについて行く。
「ねぇ、候補者にはならなくても、召喚された者同士、会ったらお話しくらいしましょうね」
「お気遣い、どうも」
カイゼルは見た目や話し方そのものの性格をしていそうだ。
もしかすると、元の世界では裕福な家で育ったのかもしれない。人を疑ったことのないような澄んだ眸はいきなり王族の一員になっても違和感もない。
見た目も中性的で儚げだ。
彼が真実の番だったなら、納得できると思った。
(どうせ、僕が真実の番なわけないし。万が一そうだったとしても、間もなく死んでしまうオメガなど、喜ばれるはずもない)
余命宣告のことは言わなかった。最初から夢を見ない道を選んだ。
残された時間を穏やかに過ごしたいと思う気持ちは、異世界へ来ても変わらない。
大広間を出ると緊張が解れ、肩を回す。
セレシアは「突然のことで驚かれたでしょう?」と微笑みかけてくれた。
頬のそばかすが可愛らしい女性で、同じオメガなのも親近感が湧く。
「番が、いるんですね」
背後から歩いていると、彼女の頸に噛み痕があるのを見つけた。
「そうなんです。運命の番と巡り会えました。……結婚はできないんですけどね」
「何故です?」
「身分が違いすぎるお方なんです。でも、私は幸せだから現状に満足していますよ」
王族や、貴族階級の人なのかもしれないと思った。
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