【完結】番を夢見るオカン系男子の不器用な恋〜番を持てないα×自己肯定感の低いβ〜

亜沙美多郎

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「今日は俺一人で行ってくるよ」
 朝ごはんを食べた蒼斗が言う。病院まで、この間の検査結果を聞きに行く予定であった。
「大丈夫だよ。もうすっかり元気だし。蒼斗は心配し過ぎ」
「でも、病み上がりなんだから。今日はゆっくりしてて。帰りにスイーツ買ってくる」
 翔真の頬にキスをする。
 
 お互いに思いの丈をぶつけてから、あからさまに蒼斗からのスキンシップは増えている。
 翔真が流石に二人きりでも恥ずかしいと言うと、
「鈍感な翔真には、大袈裟なくらいアピールしないとダメだって分かったから」
 なんて言う始末。
 嬉しいような、まだ慣れなくて照れくさい気持ちの方が優っているような……。

 蒼斗を見送ると、少しずつ家事を始めた。
 きっと今の蒼斗なら、翔真が一人で買い出しに行ったと言うだけでも怒りが爆発するだろう。
 学生マンションに荷物を取りに行くなんて、もっての外だ。
 
「やることないな……」
 掃除も洗濯も、ハウスキーパーさんが来ただけあり、家事だけではそれほど時間は潰せなかった。
 テレビを見る気にもなれず、勉強でもするかと思い、自室へ入った。

 雅哉たちには蒼斗と両思いだったと伝えると、『やっぱり!!』という返事で笑った。
 二人の勘が当たっていたので、そうもなるだろう。
 いろんな意味で心配をかけたことを詫びると、今度ご飯ご馳走して。と、これは翔真の手作りのご飯を食べさせろと言う意味である。
『勿論だよ』というスタンプを送っておいた。

 大学復帰後はすぐに教育実習だ。今のうちにゆっくりしておくのも、確かに悪くはない。勉強はやめ、リビングのソファで推理小説を読みながら蒼斗の帰りを待った。

 蒼斗は午後を少し過ぎた頃に帰ってきた。
 手にはハンバーガー屋さんの袋と、反対の手にはケーキらしい箱を下げている。
「おかえり、どうだった?」
「あぁ、先に飯にしようぜ。食べてから、ゆっくり話すよ」
「何かあったの?」
 蒼斗の表情が曇っていると気付いた。どちらかの結果に問題でもあったのだろうか。

「簡単に説明できることじゃないんだ。とにかく、冷めないうちに食べようぜ。こっちは冷蔵庫入れといて」
「分かった……」
 ケーキの箱を受け取ると、ダイニングへと移動した。
 胸騒ぎがする。食べる前にスッキリしたいが、歩きまわった蒼斗も休憩したいだろうと思い、我慢した。

 翔真の好きなお店まで足を運んでくれていたらしい。それなのに、この後の話が気になり過ぎて全く味わえなかった。
 まともに喉も通らない。

 もしかして、自分が自覚してない病気にかかっていて、蒼斗に移してしまったのではないか。などと、嫌な可能性ばかりが脳裏を過ぎる。

 翔真は遂に食べる手を止め、俯いてしまった。
「翔真? まだ食欲湧かない?」
「そうじゃなくて……、やっぱり話が気になっちゃって……」
「そっか……。そうだよな」
「ごめん。蒼斗は疲れてるのに」
「これくらいじゃ疲れねぇよ。また翔真は余計な心配する」
「ごめん」
「ごめんは禁止な」

 蒼斗とリビングに移動し、並んで座った。
「あのさ、翔真の高熱の原因なんだけど。俺の所為かもしれない……ってか、俺の所為なんだ」
「ゴム使わなかったから? それは俺がそうしてって言ったからで!」
「違うんだ。そうじゃなくて……信じられないんだけど、俺の体質が関係してるって」
「どう言うこと?」
「単刀直入に言うと、翔真のバース性が変化してるんだ。今、βとΩの両方の反応が出てるらしい」
「Ω?」
「そう。俺がどうやらビッチングの能力が備わってたらしくて。それで……あの時、翔真の中で射精したから、翔真の体質の変化と共に体調に異常が出たのかもしれない。そう言われた」
「俺が……Ω……」

 もし、自分がΩだったら……なんて幾度となく願った。そうすればαと番になれる。
 今までは諦めていた希望の光が、こちらに向いた気がした。

 それに気づいていない蒼斗は、申し訳なさそうに翔真を見ている。
 蒼斗はこれまでαの中で生活してきた。βと友達になったのだって、翔真が初めてなのだ。
 高校に入ってから、何人か彼女がいたこともあったが、全員αだっと記憶している。
 Ωに発情しないと、番を諦めていた蒼斗であった。
 でもそうじゃなかった。今までは、番になりたい人に出会ってなかっただけだった。

「翔真、俺さ……。翔真が好きすぎて、本能で番になりたいって強く願い過ぎたんだと思う。独り占めしたくて。誰にも渡したくないって、あの時、必死だった」
「蒼斗の強い願いが、眠っていた能力を引き出した……」
 翔真をまっすぐに見つめたまま、蒼斗が頷いた。

 そして、今後はきちんと避妊具をつけると加えて言う。
「嫌だ!!」
 咄嗟に叫ぶように反論してしまった。
 Ωになれば、蒼斗と番になれる。それは翔真の一番の夢なのだ。

「Ωが大変なのは、翔真も知ってるだろう? 例え話をしていた時とは訳が違う。翔真の一生を左右するんだ。βなら仕事も選べる。でもΩは受け入れてくれない企業だって未だにいっぱいある」
「それでも……それでも俺は……蒼斗と番になりたいよ……」
「ビッチングで苦しむのも翔真なんだぞ。一回や二回のセックスでΩになれる訳じゃない。バース性が変わるまで、ひたすら俺の性液を注ぎ続けないといけない。それに、もしΩへの性転換が成功したとして、その間翔真はまた高熱に魘される。大学だって休まないといけない」
「……」

 そこまで正論を言われると、何も言い返せない。
 自分はなんて子供地味ているんだと、反省する。蒼斗が真剣に考えてくれているのが嬉しく思う。
 それでも、蒼斗との番の夢を捨てる気には到底なれなかった。

「……夏休み」
「なに?」
「夏休みならいい?」
「何が?」
「ビッチング! それなら大学も行かなくていいし、時間もあるだろう?」
「翔真……。別に慌てなくても、卒業してからでもいいじゃん」
「遅かれ早かれ俺と一緒になってくれるんなら、早い方がいい。ずっと番に憧れてた。冗談なんかじゃないんだ。俺はΩになるのを、ずっと夢見てきた。それになれるチャンスが今なら、逃したくない」

 雅哉と耀が番になると聞いたから、真似して言ったのではない。
 これは紛れもない、心の底からの希望だ。
 翔真の切羽詰まった様子をじっくり観察していた蒼斗は、首を縦に振ってくれた。

「分かった。翔真、俺のためにΩになってくれ」
「本当にいいの?」
「根負けだよ。って言いたいところだけど、俺が日和ってた。人の人生を変えてしまうかもしれないって、責任感に潰されそうになってた。もしこの話をすれば、翔真を誘導尋問してしまいそうだし。でも言わなきゃいけないことで……」
「それだけ一生懸命、考えてくれたんでしょ? 俺、愛されてるね」
「当たり前だろ。今すぐ押し倒したいほど翔真が好きだよ」

 どっちからも、自然と引き寄せ合うように口付けた。
 蒼斗に跨る体勢で抱きつくと、二人の息遣いはより激しさを増していく。

「翔真。あのさ……やっぱ、今すぐビッチングしてもいい?」
「いいよ。俺をΩにしてくれる?」
「大学、行けなくなるけど」
「場合によっては休学する。ちゃんと卒業するって約束する」
「我慢できないほど辛くなったら、正直に言えよ?」
「うん。でも、耐えられる自信あるよ」
「また無理するだろ、翔真は」
「ね、俺もう我慢できない」
「俺の部屋行こう」

 そのまま翔真を抱き上げ、口付けながら蒼斗の部屋へと移動した。
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