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自分からΩの香り……。
一体何が起こったのか、翔真も蒼斗もまるで理解できない。しかも、蒼斗はΩのフェロモンに当てられない、特殊なαなのだ。それなのに、Ωのフェロモンの香りを感じただけでも、異常な現象だ。
「もしかすると、体質が変わったのかもしれないよ? 一度、病院で診てもらった方がいいんじゃない?」
βの翔真からΩの匂いがしたと言うのは勘違いだったとしても、フェロモンを感じるようになったのかもしれない。
そうなると、抑制剤も変わってくるだろう。
いろんな可能性を考えて、受診するべきだと伝えると、蒼斗は渋々頷いた。
「まさか、翔真がΩになった……なんてことはない……よな?」
「性転換? まぁ、極、稀にバース性の突然変異はあるみたいだけど、そんな都合良い話が現実に起こるわけないじゃん」
「……だよな。でも一応、翔真も受診しよう。その稀に該当してれば大変だ」
「心配ないと思うけど、一緒に行っておくとお互い安心か」
「俺は別に翔真がΩになっててもいいけどな。もしそうだとすれば、翔真のフェロモンなら届くってことだし」
蒼斗が頸に鼻を擦り付ける。そうしてもう一度「甘い」と言った。
自分では良く分からない。しかし万が一のことを考え、大学を休んですぐに病院へと向かった。
病院は蒼斗の実家からほど近い総合病院で、蒼斗の父親はここで医師と理事を担う一人であり、母親は事務局長をしている。
「翔真、こっちから入るから」
「裏口?」
「そう、もしもの場合を考えて。先に父さんに連絡入れてあるから、すぐに診てもらえる」
「すごい……VIP待遇だ」
「はいはい、そんな感心してないで、早く終わらせよう?」
総合受付も通過せずに、蒼斗の後ろをついて行く。廊下の一番奥の診察室のドアを開けた。
そこに座っていたのは、蒼斗の父親だった。
「今日は、翔真くん」
穏やかに笑う。親子だけに顔の系統は良く似ている。きっと蒼斗も将来はこういう感じになるのだろうと想像できる。
「今日は。突然すみません」
「気にすることはない。一応、血液検査もするからベッドに横になってね」
ナースに案内されたベッドに横たわる。
腕に針が刺され、鮮血が容器に溜まっていく。カーテン越しの隣のベッドでは、蒼斗も同じようにしているようだ。
「少し熱があるから」と、翔真は軽い解熱剤を出され、その足で蒼斗のマンションへと向かった。
「結果が出るまで五日かかるって」
「まぁ、なにも異常は出ないだろうけど」
それにしても、さっきより熱が上がってきたみたいだ。
「翔真、やっぱ顔赤い。俺のベッドで寝てなよ。着替え取りに行ってくるから、学生マンションの鍵借りる」
「ありがとう。そうさせてもらう」
朝は蒼斗と一線を超えたことに、気恥ずかしさが出ているのかと思っていたが、これは本格的に風邪を引いたのかもしれない。悪寒が酷くなっていき、頭がぼーっとする。
布団をを顔まで上げると、蒼斗の匂いがした。
「蒼斗……」
身体中で大輪の花が咲くかのように、蒼斗の匂いで満たされる。こんなだから、Ωの匂いがするなんて言われてしまうんだ。
しかし枕から漂う蒼斗の香りは、翔真を寝かせてはくれない。
徐々に息切れを起こし、蒼斗の名前を呼び続けた。
(これじゃあ、本当のΩみたいだ)
頭が痛い。身体が熱い。まともに呼吸もできない。
助けてほしい。昨夜の蒼斗と触れ合った肌の感触が蘇る。
欲しい、欲しい、あの温もりがすぐにでも欲しい。
「蒼斗、早く帰ってきて……」
高熱からか、汗が止まらない。
「蒼斗……」
やはり、側にいてもらえば良かったと後悔した。
蒼斗に触れられたくて仕方ない。弱っているから、こんなことを思うのだろうか。
ただの甘えかもしれない。
諦めずに自分を想ってくれた蒼斗に、甘えろと言われ、調子に乗っているとは自覚している。
それでも、こんなに風邪が悪化したのも初めてに近い。
子供の頃から、そこまで病弱ではなかった。むしろ至って健康児。
何もかもが“普通”のβ。
意識が朦朧としてくると、そんなことも考えられなくなった。
蒼斗を求めながら、目を閉じた。
♢♢♢
よく眠った。そのくらいの感覚だったが、目を覚ますと蒼斗の目が潤んでいる。
「翔真! 良かったぁ。丸三日寝たんだぜ?」
「そんなに?」
「びっくりしたよ。翔真のマンションから帰ってきたら、翔真スゲー苦しそうなんだもん。呼んでも返事もしないし。スゲー心配した」
「ごめん。まさか三日も眠り続けるなんて思ってなかったから」
蒼斗に手を伸ばす。その手を蒼斗は頬に寄せた。
あれだけ苦しんだ熱は、すっかりと下がったようで、視界もはっきりしている。
ただの風邪にしてはタチが悪いなんて言っても、それに抗う余裕もなかったと振り返る。
「翔真、腹減ってね?」
「お腹は空いてるけど、あんまりは食べられそうにはないな。そうだ。ご飯、作るよ」
「あぁ!! 翔真はまだ寝てろよ。出前で頼もうと思ってたし。少しなら食べられそう?」
「あったかくて、胃に優しいやつ」
「オッケ。じゃぁスープ頼んどくわ」
翔真の気持ちを察してか、蒼斗は翔真の側を離れなかった。
PCから手際よく注文すると、スポーツドリンクを手渡してくれた。
喉を冷たい液体が通り抜けるのが分かる。
気持ちいい。一口飲み込んではまた一口……。身体が潤っていくのを実感した。
「食べて、もう一回熱測って、大丈夫そうだったらシャワーな」
「迷惑かけてごめんね」
「何言ってんだよ。こんな時くらい堂々と甘えてりゃいいだろ。日頃は俺の方が何もかもやってもらってるし。恩返しするいい機会だよ」
蒼斗は、翔真が居ない間、掃除や洗濯、ゴミ出しに至るまで何一つまともに出来ない自分に驚愕したと言った。翔真が当たり前にやっている物だから、器用な自分にもできるだろうと思っていたようだ。
「じゃあ、何でこんなに部屋が綺麗なの?」
洗濯物やゴミも溜まっていなさそうだ。
キチンと整頓された蒼斗の部屋を見渡した。
「あぁ……それは、実家に来てくれてるハウスキーパーさんを呼んで、家事全般やってもらってたから」
「なるほど」
さすがはα一家。翔真にはない武器を持っている。何も言い返す言葉も持たず、口角だけで笑った。
眠っている間に連休も終わり、大学も始まっていたわけだが、蒼斗が診断書をもらい、連絡を入れてくれたようだった。これで単位を落とさずに済む。
そういえば、雅哉と耀に何も連絡しないままだと言うことを思い出した。スマホなど勿論見てもないし、きっとあの二人のことだから、連絡をしてくれているだろう。
蒼斗とはじめて一つになった後から、本当なら、こっちに帰ってきてまた抱いてもらうはずだった。
その間に自分が高熱を出してしまい、さらには三日間も眠り続けてしまっている。熱は下がったとはいえ、二日後の診断までは蒼斗は翔真を抱かないだろう。
高熱の原因を考えても思い当たる節はない。避妊具を使わなかったのがいけなかったのか? それは考えたくもない。
蒼斗には言えるはずもないが、これからもゴムを使わずにしてもらおうと密かに思っている。
それは妊娠したいなどではなく、単純にΩへの憧れからだろうと自己判断している。
実際、最奥に放たれた性液を受け止めたのは、何にも例えようのない多幸感であった。
もしかして、これで本当のΩになれたりして……と妄想しただけで、顔が綻んでしまう翔真であった。
一体何が起こったのか、翔真も蒼斗もまるで理解できない。しかも、蒼斗はΩのフェロモンに当てられない、特殊なαなのだ。それなのに、Ωのフェロモンの香りを感じただけでも、異常な現象だ。
「もしかすると、体質が変わったのかもしれないよ? 一度、病院で診てもらった方がいいんじゃない?」
βの翔真からΩの匂いがしたと言うのは勘違いだったとしても、フェロモンを感じるようになったのかもしれない。
そうなると、抑制剤も変わってくるだろう。
いろんな可能性を考えて、受診するべきだと伝えると、蒼斗は渋々頷いた。
「まさか、翔真がΩになった……なんてことはない……よな?」
「性転換? まぁ、極、稀にバース性の突然変異はあるみたいだけど、そんな都合良い話が現実に起こるわけないじゃん」
「……だよな。でも一応、翔真も受診しよう。その稀に該当してれば大変だ」
「心配ないと思うけど、一緒に行っておくとお互い安心か」
「俺は別に翔真がΩになっててもいいけどな。もしそうだとすれば、翔真のフェロモンなら届くってことだし」
蒼斗が頸に鼻を擦り付ける。そうしてもう一度「甘い」と言った。
自分では良く分からない。しかし万が一のことを考え、大学を休んですぐに病院へと向かった。
病院は蒼斗の実家からほど近い総合病院で、蒼斗の父親はここで医師と理事を担う一人であり、母親は事務局長をしている。
「翔真、こっちから入るから」
「裏口?」
「そう、もしもの場合を考えて。先に父さんに連絡入れてあるから、すぐに診てもらえる」
「すごい……VIP待遇だ」
「はいはい、そんな感心してないで、早く終わらせよう?」
総合受付も通過せずに、蒼斗の後ろをついて行く。廊下の一番奥の診察室のドアを開けた。
そこに座っていたのは、蒼斗の父親だった。
「今日は、翔真くん」
穏やかに笑う。親子だけに顔の系統は良く似ている。きっと蒼斗も将来はこういう感じになるのだろうと想像できる。
「今日は。突然すみません」
「気にすることはない。一応、血液検査もするからベッドに横になってね」
ナースに案内されたベッドに横たわる。
腕に針が刺され、鮮血が容器に溜まっていく。カーテン越しの隣のベッドでは、蒼斗も同じようにしているようだ。
「少し熱があるから」と、翔真は軽い解熱剤を出され、その足で蒼斗のマンションへと向かった。
「結果が出るまで五日かかるって」
「まぁ、なにも異常は出ないだろうけど」
それにしても、さっきより熱が上がってきたみたいだ。
「翔真、やっぱ顔赤い。俺のベッドで寝てなよ。着替え取りに行ってくるから、学生マンションの鍵借りる」
「ありがとう。そうさせてもらう」
朝は蒼斗と一線を超えたことに、気恥ずかしさが出ているのかと思っていたが、これは本格的に風邪を引いたのかもしれない。悪寒が酷くなっていき、頭がぼーっとする。
布団をを顔まで上げると、蒼斗の匂いがした。
「蒼斗……」
身体中で大輪の花が咲くかのように、蒼斗の匂いで満たされる。こんなだから、Ωの匂いがするなんて言われてしまうんだ。
しかし枕から漂う蒼斗の香りは、翔真を寝かせてはくれない。
徐々に息切れを起こし、蒼斗の名前を呼び続けた。
(これじゃあ、本当のΩみたいだ)
頭が痛い。身体が熱い。まともに呼吸もできない。
助けてほしい。昨夜の蒼斗と触れ合った肌の感触が蘇る。
欲しい、欲しい、あの温もりがすぐにでも欲しい。
「蒼斗、早く帰ってきて……」
高熱からか、汗が止まらない。
「蒼斗……」
やはり、側にいてもらえば良かったと後悔した。
蒼斗に触れられたくて仕方ない。弱っているから、こんなことを思うのだろうか。
ただの甘えかもしれない。
諦めずに自分を想ってくれた蒼斗に、甘えろと言われ、調子に乗っているとは自覚している。
それでも、こんなに風邪が悪化したのも初めてに近い。
子供の頃から、そこまで病弱ではなかった。むしろ至って健康児。
何もかもが“普通”のβ。
意識が朦朧としてくると、そんなことも考えられなくなった。
蒼斗を求めながら、目を閉じた。
♢♢♢
よく眠った。そのくらいの感覚だったが、目を覚ますと蒼斗の目が潤んでいる。
「翔真! 良かったぁ。丸三日寝たんだぜ?」
「そんなに?」
「びっくりしたよ。翔真のマンションから帰ってきたら、翔真スゲー苦しそうなんだもん。呼んでも返事もしないし。スゲー心配した」
「ごめん。まさか三日も眠り続けるなんて思ってなかったから」
蒼斗に手を伸ばす。その手を蒼斗は頬に寄せた。
あれだけ苦しんだ熱は、すっかりと下がったようで、視界もはっきりしている。
ただの風邪にしてはタチが悪いなんて言っても、それに抗う余裕もなかったと振り返る。
「翔真、腹減ってね?」
「お腹は空いてるけど、あんまりは食べられそうにはないな。そうだ。ご飯、作るよ」
「あぁ!! 翔真はまだ寝てろよ。出前で頼もうと思ってたし。少しなら食べられそう?」
「あったかくて、胃に優しいやつ」
「オッケ。じゃぁスープ頼んどくわ」
翔真の気持ちを察してか、蒼斗は翔真の側を離れなかった。
PCから手際よく注文すると、スポーツドリンクを手渡してくれた。
喉を冷たい液体が通り抜けるのが分かる。
気持ちいい。一口飲み込んではまた一口……。身体が潤っていくのを実感した。
「食べて、もう一回熱測って、大丈夫そうだったらシャワーな」
「迷惑かけてごめんね」
「何言ってんだよ。こんな時くらい堂々と甘えてりゃいいだろ。日頃は俺の方が何もかもやってもらってるし。恩返しするいい機会だよ」
蒼斗は、翔真が居ない間、掃除や洗濯、ゴミ出しに至るまで何一つまともに出来ない自分に驚愕したと言った。翔真が当たり前にやっている物だから、器用な自分にもできるだろうと思っていたようだ。
「じゃあ、何でこんなに部屋が綺麗なの?」
洗濯物やゴミも溜まっていなさそうだ。
キチンと整頓された蒼斗の部屋を見渡した。
「あぁ……それは、実家に来てくれてるハウスキーパーさんを呼んで、家事全般やってもらってたから」
「なるほど」
さすがはα一家。翔真にはない武器を持っている。何も言い返す言葉も持たず、口角だけで笑った。
眠っている間に連休も終わり、大学も始まっていたわけだが、蒼斗が診断書をもらい、連絡を入れてくれたようだった。これで単位を落とさずに済む。
そういえば、雅哉と耀に何も連絡しないままだと言うことを思い出した。スマホなど勿論見てもないし、きっとあの二人のことだから、連絡をしてくれているだろう。
蒼斗とはじめて一つになった後から、本当なら、こっちに帰ってきてまた抱いてもらうはずだった。
その間に自分が高熱を出してしまい、さらには三日間も眠り続けてしまっている。熱は下がったとはいえ、二日後の診断までは蒼斗は翔真を抱かないだろう。
高熱の原因を考えても思い当たる節はない。避妊具を使わなかったのがいけなかったのか? それは考えたくもない。
蒼斗には言えるはずもないが、これからもゴムを使わずにしてもらおうと密かに思っている。
それは妊娠したいなどではなく、単純にΩへの憧れからだろうと自己判断している。
実際、最奥に放たれた性液を受け止めたのは、何にも例えようのない多幸感であった。
もしかして、これで本当のΩになれたりして……と妄想しただけで、顔が綻んでしまう翔真であった。
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