【完結】満月に導かれし龍の淫紋 〜運命の番は闇落ち王子〜

亜沙美多郎

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続編 カマルとルアの子育て編

ナタンの距離感がなんだか変だ。

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 召使いに紅茶とお菓子の準備を頼み、また部屋へと戻った月亜だが……。
 なるべく時間をかけて歩いた。
 あまり一人にしてもいけないので、許される範囲でゆっくりと歩く。
 
 途中、召使いに話しかけられそうになったので、指を立てて合図した。
「どうされたのですか?」
 察した召使いがヒソヒソ声で喋ってくれた。
「ハハッ……。どうもお客様が苦手で……」
「ダリエ様ですか?」
「ダリエ様?」
「はい、ナタン・ダリエ様。隣国の王太子様ですよ」

 そういえば、名前も知らないでいたと気付いた。
「彼をよく知っているのですか?」
「はい、私はここで長いので。ナタン・ダリエ様が幼い頃から存じております」
 その召使いは穏やかに微笑んだ。

 話によると、子供の頃から大人しかったそうだ。
 結婚されたと知った時、古くからいる召使いはみんな驚いたというくらい。
「そりゃ、あんな御身分ともなれな政略結婚でしょうが……。ナタン様が子供の頃、子守りをした経験のある召使いでさえ、殆ど声も思い出せないって言っていますよ」

 召使いの話に大いに頷いてしまった。
 これは月亜のコミュニティー能力ではどうにもならないと諦めた。

 この召使いが、無理に話しかけられるのも苦手でしたよ、と言っていたので、月亜もそうしようを思った。

 結局廊下で話し込んでしまい、紅茶を運んできてくれた別の召使いと共に部屋へと戻った。
 気まずい感じで入らずに済んだのはいいが、召使いはすぐに出て行ってしまった。

 静まり返った部屋で、二人の大人の男が紅茶を飲んでいるという、なんともいえない時間だけが過ぎていく。

 ティーポットに残っていた紅茶まで飲み干した頃、ようやく口を開いたのはナタンの方であった。

「あの、お名前をお聞きしても良いですか?」
「はい。自ら名乗りもせず、申し訳ありません。私はルア・オーディンと申します」
「私はナタン・ダリエと申します。あの……オーディンさんは、Ω……なんですよね?」
「えっ? ……はい、そうです……けれども……」

 いきなりなんて質問をしてくるんだ?
 失礼ではないのか?
 元から苦手意識があったのに、更なる嫌気が差してくる。
 顔に出ないように誤魔化すのが大変なほどだ。

 結婚してから、月亜をΩと罵った人などいない。
 でも今、なんとなく馬鹿にされたような気持ちになってしまった。

 ちょうどそのタイミングで、ダリエ国王が帰国されるとのことで、少しは気持ちが救われた。
 ……と思ったのだが……。
 部屋を出る間際、ドアを開けようとドアノブに手を出した瞬間、背後から首を掠める感触があった。

 なんと、ナタンが月亜の頸を嗅いでいたのだ。
「な、何をするのです!?」
「あ、失礼。番のいるΩは、本当に何も匂わないのか知りたくて」
 どうやらナタンはα同士で結婚したらしく、Ωと関わりのない人生だったそうだ。
 それにしても、直接匂いを嗅ぐなんて失礼にもほどがある。

「そんなの、聞けば分かることではないですか?」
 キッと睨みつけた。
「いや、悪気はないんだ。だからすまないと言っている。そんなに怒らないで」
 本当に悪気はないのだろう。だからこんな非常識な行為が簡単にできるのだ。

 ナタンはこれ以上、どう謝れば良いかも分からないと言った様子であった。
 こんなのが次期国王なんて……隣国は大丈夫なのか? と心配になる。
 余計なお世話だが……。

 とにかく、金輪際会いたくない!!!
 夜にカマルにこの話を聞いてもらおうと心に誓った。

 シオンはといえば、このナダルの息子ととても楽しく遊んでいたそうだ。
 それはそれで良い。
 シオンが楽しい時間を過ごせたのは有り難いと思える。

 しかし、どうしてもこのナダルという男を好きになれなかったのは、帰り際に肩を抱いてきたからである。

「是非、また子供同士、遊ばせてほしい」
 その一言を言うためだけに、番のいる月亜の肩を抱く必要があるのか?
 それとも、この距離感は隣国の常識なのか?
 どちらにせよハワードの前で拒否もできず、唇を噛み締めて耐えるしか出来なかった。


 夜、シオンが寝静まった後、カマルは突然月亜に擦り寄った。
「どうしたのですか? カマルさん」
「ルアから、別のαの匂いがする」

 ……あいつだ!!!
 再び怒りが込み上げてきた。
 月亜は今日の一部始終を言って聞かせた。

「ルア、匂いを上書きしないといけないね」
 カマルの目が笑っていない。

(お仕置きされる!?)

 月亜はカマルの熱い眼差しにゾクリと身震いをした。
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