【完結】満月に導かれし龍の淫紋 〜運命の番は闇落ち王子〜

亜沙美多郎

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続編 カマルとルアの子育て編

猫神様はお友達

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 発情期が終わる頃、シオンを連れて森へと出かけた。
 産まれた時から通っているためか、猫神の存在も自然と受け入れている。
 ……どうやら友達と思っているようだ。

なーこーーねーこーー!」
「シオン、もう少し奥に行かないと、猫神様が出てこられないよ」
「まみぃも、よぶ」
 ぐいっとズボンを掴んで引っ張る。

「じゃあ、一緒に呼んでみようか? せーの」

「なーこーー」
「ねーこーー」

 シオンの声は森によく響く。少し先に大きな猫の影が見えた。

「あーー! いたーー!」

 猫神を見つけたシオンは走り出した。でも足元が悪い場所ではすぐに転んでしまう。
 今日もまた、派手に転んでしまった。

「ぅわぁぁああああああんっ!!」

『また派手に転びよったな』
 猫神様も人化して助けに来てくれた。シオンを抱き上げると『どこが痛い?』と聞いている。
 
 月亜のことはよく揶揄っていた猫神も、子供には弱いらしい。
 というのも、猫神にも子供が産まれているのだ。
 好きな猫がいると言っていたが、その猫との子供がつい最近三匹産まれた。

「今は時間、大丈夫ですか?」
『かまわぬ。ウチのはまだ乳を飲んでは眠っておるわ』

 クールを装っていても、目尻が垂れて表情が随分柔らかくなている。
 きっとすぐに帰るだろう。

『もう少し大きくなったら会わせてやる』
「本当ですか? シオン、子猫ちゃんにも会えるって。よかったね」
「なこ? いくーー!!」
 
 猫神に抱かれたまま、家に行くと勘違いさせてしまった。慌てて訂正すると、駄々をこねそうだ。

『今ではない。今きても嫁に噛まれるぞ』
「むぅぅ……」

 シオンは何故か猫神には聞き分けが良い。
 月亜が言っても泣いて脅してくるのに、不思議と猫神の時は納得する。

 別段、猫神が特別な説得をしているわけでもないのに……。

『どうしたのだ? 何か悩みでもあるのか?』
「シオン、俺が頼んだりしても言うことを聞いてくれないのに、猫神様なら直ぐに聞き入れるの、何でだろうって思ってました」

 猫神は背中を反らせて笑った。

『子供とは、そんなものだ。ママが甘えられる存在だという証拠ではないか』
「そうでしょうか……。もう少しくらいは言うことを聞いて欲しいですけど……」
『気にやむな。貴様のことが好きなのだろう。のぅ、シオン』
「うんっっ。まみぃ、すきぃーー。なこもすきぃ。じいじ、好きぃ。だっどは……」
『カマルはどうだ?』

 カマルはライバルという意識がしっかりと目覚めているらしく、どうも複雑な心境だのだった。
“好きだけどママを取られるのは嫌”という感情を、なんと表現すればいいのかまでは、まだまだ分からない。

『はっはっはっ。パパは恋のライバルだったの。ワシはシオンの見方だからなぁ』
「なーこ、すきぃ」

 猫神に頬擦りをする。子供の扱いが上手いのは月亜もコッソリ尊敬している。

 ハワードとミッチェルはひたすら甘やかしているから、月亜は自分がしっかりしないと。という責任感ばかりが全面的に出てしまうのだ。

 自分でも、もっと余裕を持って子育てしたいと思っているのだが……、これがなかなか難しい。

 猫神はシオンに果物を差し出した。これでもうシオンの心は鷲掴みだ。

「猫神様、ズルい」
『母親ばかりが損な役回りだのぅ。父親など、呑気なものだ。ワシとて、今は嫁に食事を運ぶくらいしかできておらぬわ』

 猫神は子育てにまだまだ関われないのがもどかしいと言った。
『大変な分、育った時の感動も大きいものだろう。その時を楽しみにすれば良い』
「そうですね……。また、息抜きしたくなったら連れてきます」

 猫神は笑って『毎日でも来い』と言った。

 話を聞いてもらっただけでも心が軽くなる。
 シオンを受け取ると、猫神はスルリと消えた。

「なーこ、またあえる?」
「うん。いつでも会えるよ。また来ようね」

 小さな手を引いて歩く。
 いつかはこの手が離れるのだろう。

 今はまだ実感できないけれど……。
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