【完結】満月に導かれし龍の淫紋 〜運命の番は闇落ち王子〜

亜沙美多郎

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本編

【完結】新国王&新王妃誕生

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———三ヶ月後———

 街はここ最近で一番の賑わいを見せていた。

 待ちに待った『新国王カマル』と『新王妃ルア』をお披露目するパレードが執り行われるからだ。

 国民は誰よりも近くで見たいと、朝早くからパレードの通りに詰めかけていた。

 お祝いムードの高まる街はお祭りのようで、通りの両脇には、色んな店が軒を連ねてお酒やお菓子などが売られている。

 告知されていた時間が近づくにつれ、国民の気持ちが昂ぶっていく。

「カマル王子の誕生だ!」
「運命の番の顔を早く見たい」
「龍は飛ぶのか?」

 さまざまな会話が飛び交う。

 そのうち、音楽隊の音が聞こえ始めると声援はさらに大きくなった。

「「「わーーーっっ!!」」」」

 空気が震えるほどの声が響き渡ったわけは、一番に通ったのがカマルと月亜の双龍だったからだ。

 スッと飛び去るだけでも、ここまで大きな体になると、強い風が沸き起こる。

 双龍はあくまで優雅に国民の間を飛び抜けていく。

 金龍と青龍。

 太陽の光を反射して、鱗がより輝きを増していた。

 その美しさに誰もが目を奪われる。突風にも近い強い風で、髪や服が乱れる。そんなことも気にならないくらい、夢中で双龍の姿を目で追う。

 長い身体を持つ双龍は、観客が放心状態になれるほどの時間を飛行に要した。

 国民は鱗の一枚一枚までも見逃すものかと、瞬きもせず、二匹の龍に釘付けになった。

 双龍が飛び去ると、その後から音楽隊が続き、その後からは兵隊の行進。そしてカマルと月亜を乗せた馬車へと続く。

 カマルと月亜の姿がいよいよ見えると、また国民から祝福の声が湧き上がる。

 絶えず紙吹雪が舞う中、真っ白な生地に金糸で刺繍が施された衣装を纏った二人は、馬車の上から手を振って声援に応えた。


 オーディン城までの道のりは長く、朝食後すぐに支度をして出発したパレードてあったが、城に辿り着いた時、ほぼ夕方になっていた。

 それでもカマル国王の演説を聞くために、誰一人として帰る者はいない。

 オーディン城の前には人だかりが遠くにまで続いている。

 全員がカマルの声を待っている。


「カマル・オーディンです。この度、父であるハワードから、国王の座を継承させていただく運びとなりました……」

 壇上に上がったカマルの第一声が響く。

 全員がカマルの話に耳を澄ませた。月亜その様子を背後から見守っている。

 頼もしいカマルの姿に惚れ惚れしていた。


 しかし……。
 月亜は実を言うと今日は朝から体調が優れなかった。なんだか体が気だるいし、頭が重い。そして微熱もあった。

「風邪? でも今日は大切な日だから……」

 少し無理をしてパレードに参加した。馬車に乗っているときはまだ良かった。座っている間はカマルに身を寄せ、自分の姿勢をなんとか保てた。

 今は立ったままカマルの演説を聞いている。
 どうにか誤魔化しながらも、本格的に体調が悪くなっていくのを自覚している。体の気怠さと、異常なほどの睡魔が襲ってくるのだ。

 こんな素晴らしい日なのに……。

「ルア様……ルア様? 顔色が優れませんが、椅子でもお持ちしましょうか?」

「は、はい。ありがとうございます」

 ベネットが気づいて対応してくれて良かった。
 用意してくれた椅子に座ると、いくらか楽になる。

 ようやくパレードの全日程が終わる頃、月亜はすぐにカマルの部屋で休ませてもらうことにした。

 カマルが部屋に飛び込んで来る。

「ルア、今日は体調が悪かったとベネットから聞いたぞ。なぜ言わなかった?」

「カマルさん、ごめんなさい。カマルさんの演説中に、酷い目眩に見舞われてしまって……」

 折角のカマル国王誕生の演説だというのに、カマルがどんな演説をしたのかさえ覚えていない。

 月亜はそれが悔しくもあったが、カマルは至って月亜の体調だけが心配な様子だ。

「怒らないんですか?」

「怒る? 何故? ルアを心配しているだけだよ。悪化しないように、今日はゆっくり休むといい」

 カマルが額にキスをすると、月亜が眠るまでここにいると言って、ベッドの脇に腰を下ろす。

 月亜は手を握ってもらい、目を閉じた。

 目を閉じると思い出す。二人が番になった日のことを。

 今から三ヶ月前、カマルと番になった……。

 城に帰ってからは慌ただしい日々ではあるが、相変わらず召使いも陽気な人ばかりで賑わしい。

 楽しい毎日を送っている。

 そういえばそれ以降、発情していない。それに加え今日の症状……。

 あれ? と考え込む。

 これは、多分。いや……絶対にそうである。

 月亜は自分の体調不良の原因に気付いてしまった!

「カマルさん。俺のここ、手を当ててください」

 カマルの手を取り、そっと自分の下腹に乗せる。

「俺の体調が悪い原因は、きっとこの子ですよ」

 カマルが困惑し始めた。
 この子とは誰だ? 必死に頭を巡らせる。
 その様子が面白くて月亜はしばらくカマルの百面相を楽しんだ。

「え……もしかして? ルア?」

「ええ、そうです。ここに、います」

 月亜の子宮で、新しい命が芽生えていた。

「ルア!! そうか……そうか!! 私とルアの……」

 ようやく答えが分かると、カマルは瞬時に目頭を押さえた。間極まったカマルは少しの間言葉を失っていた。

「あの、俺の思い込みだったら恥ずかしいので……ハワード様にはまだ言わないで欲しんですけど……」

 これでハワードに知られたら、歓喜のあまり、またパレードを行うくらいは言い出しかねない。くれぐれも確定するまでは……とカマルに頼む。

 すると、カマルからの返事は意外なものだった。

「月亜はきっと身籠っているよ。今日は満月だしね」

 満月? 満月が何故、自分の妊娠と繋がるのか月亜には分からなくて、きょとんとした顔を見せる。

「もしかして、満月と私達の関係を知らない?」
「はい、知りません。なんですか? 教えてください」

 今度はカマルがビックリした声を出した。

「本当なのかい? もしかして、自分の名前の意味も知らない?」
「そんなの知りませんよ。親から聞いたりもしませんでしたし……」

 カマルは反省した。
 また自分が知ってるから、月亜も知ってるだろうと思い込んでいた。モリスの件で反省したというのに。

 これからは自分がどうであれ、必ず話題にしようと心に誓った。


「私の名前“カマル”は【月】という意味なんだ。そして“ルア”と言う名前も、同じく【月】」

 月亜はそこまで聞いて思い出したことがあった。

 初めてカマルに襲われたあの日、自分の名前を聞いたカマルが『やはり、自分の運命の番で間違いない』と言ったのだ。

 何のことだと思いながらも、状況的に受け流すしかなかった。

「思い出した? 私達は満月の日に出会い、満月の日に番になった。そして、今夜も満月……」

「俺たちの運命は、満月に導かれているということなんですか?」

 ルアの問いかけに「そうだ」と答えた。

「だからルアのお腹には、私たちの宝物が宿ったんだよ」

 ルアの腹で手を重ね、喜びを分かち合う。

 今宵の満月を一緒に見ようと話しながら。




———完———



⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

最後までお付き合い頂き、感謝致します。
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