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本編
ハワードからの提案
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次にハワードと対面したのは夕食の場だった。
あの後はベッドに這うように潜りこみ、夕方まで夢すら見ることなく深く眠った。
全てが終われば、カマルとゆっくり番になれた喜びを分かち合えると思っていたが、まさか朝方まで龍の背に乗り、街中を飛び回るまとは想定していなかった。
国民が沢山の祝福の言葉を叫んでくれたのは、嬉しいような、くすぐったいような気持ちになった。
ハワードは改めて明るい室内で月亜を見て、綜馬と共に城に来た人だと気づいていたらしい。あの時は、城中を探し回って大変だったと笑いながら教えてくれた。
「まさか、君がカマルの運命の番だったなんて、本当に驚いたよ」
「本当ですわ。それが、たった一ヶ月でご立派になられて……」
ハワードもミッチェルも、月亜の変貌ぶりに驚いている。
「猫神さまが、引き合わせてくれたんです」
月亜と猫神が出会った時から、この一ヶ月の出来事をカマルと二人で話した。
ハワードたちは細かく頷いて、カマルの壮絶だった日々も、月亜と出会ってからの日々も、時折涙を浮かべて聞いてくれた。
モリスと綜馬の話題は、誰もが避けているかのように言い出さない。
ただ楽しいだけの時間を共有した。
夕食も終わり、ハワードが急に神妙な面持ちで話し始める。
「カマル。君がこうして闇を祓い帰ってきてくれた。ルアをいう素晴らしい番と共に。それで、私は決めたのだ」
「なんでしょうか……」
「出来るだけ早く、王位継承の儀を執り行いたいと思っている」
「お父様!? 正気ですか? だって、お父様はまだ元気いっぱいじゃないですか!」
カマルも月亜も心底驚いた。カマルは身を乗り出してハワードに詰め寄っている。
通常であれば、カマルが国王となるのはハワードが亡くなった時なのだ。それを生前に行うと言い出したのだから驚くのも無理はない。
「今までは、私のこのトーテムが一番強い淫紋だったが、カマルとルアの龍が現れた。それなら元気なうちに【王】という肩書きを引き継いでもらうのもいいんじゃないか、と考えたのだ。それに、国王となったカマルの姿も生きているうちに見たいじゃないか」
ハワードはとても穏やかな口調だった。
「それで、お父様はどうなさるおつもりですか?」
「勿論、仕事の手助けはする。そのほかはミッチェルとのんびり余生を楽しむのもいいかと思っていてね」
「余生だなんて、まだまだあの世からの迎えなんてきませんよ?」
カマルが言うと、ハワードが盛大に笑う。
「どうだ? カマル、やってくれるか?」
カマルは月亜と視線を合わせて考えた。
「ルアはどう思う?」
「俺は、カマルさんなら、なんでも出来るって思ってますよ」
カマルはこの一言で決意を固めた。
「ハワード国王、ありがたく継承させていただきます」
「そうか、ありがとう……」
二人が握手を交わす。
その後の話し合いで、三ヶ月後に王位継承を祝福するパレードが執り行われることも決まった。
カマルの部屋に帰ろうとした時、ハワードは再びカマルを呼び止めた。
「カマル、あの時、私が雷魔法でモリスを撃つと分かっていただろう? それなのに、なぜトドメをカマルが打ったのだ?」
ハワードは、息子であるモリスは自分の責任として下すべきだと判断していた。
カマルの咄嗟の行動は、それを阻止するようだったとハワードが言う。
「なぜ、カマルがモリスの責任を背負うようなことをしたのだ」
「お父様、私は勘違いをしていたのです。私もお父様も、モリスと過ごす時間が楽しかった。だからモリスも楽しいだろうと勝手に思っていた。でも実際には違う。モリスはずっと苦しんでいた。それが表に出ないように常に笑顔で過ごしていた。私は自分が幸せなら、モリスも幸せだと思い込み、モリスの苦しみに気づいてやれなかった」
「だからといって……」
ハワードが口を挟もうとしたが制止した。
「俺は……俺は、あの時モリスはもう自分の死を悟っていると、気づいたんです。だから、せめて……せめて最後まで、あなたの子供でいさせてあげたかった」
「カマル……そうか……ありがとう。私は、悪魔になってもモリスは自分の子だと、今でも思っているよ。もし私があの時、雷を落としていれば……躊躇って外していたかもしれない。我が子を自分の一番強い魔法で殺すには、父親としての情が僅かに出てしまっていた」
やはり国王は君で正解だ! と言ったハワードの表情は晴々としていた。
カマルの部屋に戻ると、またすぐにベッドへと潜り込む。二人とも、まだ完全に疲労が回復しているわけではなかった。
少しの眠気を感じながら、ようやく番になれた実感を分かち合う。
「ルア。三ヶ月後、王位継承と共に結婚しよう」
腕枕をされて、頬を撫でながらカマルが言う。
「本当ですか? 嬉しいです! カマルさんと夫婦になれるなんて……」
月亜はカマルの胸に顔を埋めた。
「カマルさんとなら、ずっと笑顔で過ごせそうです」
「笑顔だけなど、つまらないな。もっと泣いたり困ったり、感動したり、怒ったりしてくれ。そのほうが、笑ってばかりの人生よりずっと楽しいだろう?」
「……確かに! 俺もカマルさんのヤキモチを焼いた顔や、澄ました顔や、ほかにもまだ見たことのない表情も見たいです」
カマルが困ったように笑う。ヤキモチを焼いている時の顔はあまり見られたくないそうだ。
「ルアはずっと『ルアらしく』いてくれ」
月亜を力強く抱きしめた後、カマルのほうに顔を向かせると、顔が近付いてきた。
ゆっくりと唇を重ねる。
蕩けるような甘いキスに癒されて、月亜はそのまま眠りについた。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
次回、完結です。どうぞ最後までお付き合いくださいませ♩
あの後はベッドに這うように潜りこみ、夕方まで夢すら見ることなく深く眠った。
全てが終われば、カマルとゆっくり番になれた喜びを分かち合えると思っていたが、まさか朝方まで龍の背に乗り、街中を飛び回るまとは想定していなかった。
国民が沢山の祝福の言葉を叫んでくれたのは、嬉しいような、くすぐったいような気持ちになった。
ハワードは改めて明るい室内で月亜を見て、綜馬と共に城に来た人だと気づいていたらしい。あの時は、城中を探し回って大変だったと笑いながら教えてくれた。
「まさか、君がカマルの運命の番だったなんて、本当に驚いたよ」
「本当ですわ。それが、たった一ヶ月でご立派になられて……」
ハワードもミッチェルも、月亜の変貌ぶりに驚いている。
「猫神さまが、引き合わせてくれたんです」
月亜と猫神が出会った時から、この一ヶ月の出来事をカマルと二人で話した。
ハワードたちは細かく頷いて、カマルの壮絶だった日々も、月亜と出会ってからの日々も、時折涙を浮かべて聞いてくれた。
モリスと綜馬の話題は、誰もが避けているかのように言い出さない。
ただ楽しいだけの時間を共有した。
夕食も終わり、ハワードが急に神妙な面持ちで話し始める。
「カマル。君がこうして闇を祓い帰ってきてくれた。ルアをいう素晴らしい番と共に。それで、私は決めたのだ」
「なんでしょうか……」
「出来るだけ早く、王位継承の儀を執り行いたいと思っている」
「お父様!? 正気ですか? だって、お父様はまだ元気いっぱいじゃないですか!」
カマルも月亜も心底驚いた。カマルは身を乗り出してハワードに詰め寄っている。
通常であれば、カマルが国王となるのはハワードが亡くなった時なのだ。それを生前に行うと言い出したのだから驚くのも無理はない。
「今までは、私のこのトーテムが一番強い淫紋だったが、カマルとルアの龍が現れた。それなら元気なうちに【王】という肩書きを引き継いでもらうのもいいんじゃないか、と考えたのだ。それに、国王となったカマルの姿も生きているうちに見たいじゃないか」
ハワードはとても穏やかな口調だった。
「それで、お父様はどうなさるおつもりですか?」
「勿論、仕事の手助けはする。そのほかはミッチェルとのんびり余生を楽しむのもいいかと思っていてね」
「余生だなんて、まだまだあの世からの迎えなんてきませんよ?」
カマルが言うと、ハワードが盛大に笑う。
「どうだ? カマル、やってくれるか?」
カマルは月亜と視線を合わせて考えた。
「ルアはどう思う?」
「俺は、カマルさんなら、なんでも出来るって思ってますよ」
カマルはこの一言で決意を固めた。
「ハワード国王、ありがたく継承させていただきます」
「そうか、ありがとう……」
二人が握手を交わす。
その後の話し合いで、三ヶ月後に王位継承を祝福するパレードが執り行われることも決まった。
カマルの部屋に帰ろうとした時、ハワードは再びカマルを呼び止めた。
「カマル、あの時、私が雷魔法でモリスを撃つと分かっていただろう? それなのに、なぜトドメをカマルが打ったのだ?」
ハワードは、息子であるモリスは自分の責任として下すべきだと判断していた。
カマルの咄嗟の行動は、それを阻止するようだったとハワードが言う。
「なぜ、カマルがモリスの責任を背負うようなことをしたのだ」
「お父様、私は勘違いをしていたのです。私もお父様も、モリスと過ごす時間が楽しかった。だからモリスも楽しいだろうと勝手に思っていた。でも実際には違う。モリスはずっと苦しんでいた。それが表に出ないように常に笑顔で過ごしていた。私は自分が幸せなら、モリスも幸せだと思い込み、モリスの苦しみに気づいてやれなかった」
「だからといって……」
ハワードが口を挟もうとしたが制止した。
「俺は……俺は、あの時モリスはもう自分の死を悟っていると、気づいたんです。だから、せめて……せめて最後まで、あなたの子供でいさせてあげたかった」
「カマル……そうか……ありがとう。私は、悪魔になってもモリスは自分の子だと、今でも思っているよ。もし私があの時、雷を落としていれば……躊躇って外していたかもしれない。我が子を自分の一番強い魔法で殺すには、父親としての情が僅かに出てしまっていた」
やはり国王は君で正解だ! と言ったハワードの表情は晴々としていた。
カマルの部屋に戻ると、またすぐにベッドへと潜り込む。二人とも、まだ完全に疲労が回復しているわけではなかった。
少しの眠気を感じながら、ようやく番になれた実感を分かち合う。
「ルア。三ヶ月後、王位継承と共に結婚しよう」
腕枕をされて、頬を撫でながらカマルが言う。
「本当ですか? 嬉しいです! カマルさんと夫婦になれるなんて……」
月亜はカマルの胸に顔を埋めた。
「カマルさんとなら、ずっと笑顔で過ごせそうです」
「笑顔だけなど、つまらないな。もっと泣いたり困ったり、感動したり、怒ったりしてくれ。そのほうが、笑ってばかりの人生よりずっと楽しいだろう?」
「……確かに! 俺もカマルさんのヤキモチを焼いた顔や、澄ました顔や、ほかにもまだ見たことのない表情も見たいです」
カマルが困ったように笑う。ヤキモチを焼いている時の顔はあまり見られたくないそうだ。
「ルアはずっと『ルアらしく』いてくれ」
月亜を力強く抱きしめた後、カマルのほうに顔を向かせると、顔が近付いてきた。
ゆっくりと唇を重ねる。
蕩けるような甘いキスに癒されて、月亜はそのまま眠りについた。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
次回、完結です。どうぞ最後までお付き合いくださいませ♩
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