【完結】満月に導かれし龍の淫紋 〜運命の番は闇落ち王子〜

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
37 / 104
本編

すれ違い

しおりを挟む
「お父様……」

「まさか……まさか、悪魔に身を捧げたのはお前だったのか!?」

 ハワードの召喚獣である象と虎が並んでいる。

 蠍が土の中から、ハワードの進行方向の解毒を担っていた。

 その蠍も土の中から姿を現した。

『ほら、モリス。お父様にたっぷりと甘えるが良い』

 猫神が煽るようにモリスに話しかける。

「……えなんか……お前なんか……!! もう僕のお父様なんかじゃないっっ!!」

 毒蜘蛛が飛ばした毒糸をハワードに狙いを定めた。
 それを召喚獣の虎が炎を吹いて焼き消した。

「お前なんか、カマルがいればそれで良いんだろ!! どんなに頑張っても、僕は国王にもなれない。ただのオメガだ!!」
 
 もう一度毒糸を飛ばすが、またしても呆気なく虎の吹き出す炎に焼き消される。

『やはり、ただ構ってほしいだけの子供ではないか』

「五月蝿い!! 五月蝿い、五月蝿い!! 僕は気付いたんだ。欲しいなら、自分で奪い取ればいいってね」

「モリス……なんと言うことを……」

 ハワードは愕然として、言葉を失っている。

 その間にも、毒蜘蛛と毒蛇はこの森中を侵食させていく。

「国王という名はカマルが継承するとは言え、仲の良い二人でこの国を支えて行って欲しいと願っていた。執政官をお前に任せたいと。だからカマルと同等の勉強をさせていた。それなのに……」

 モリスは呆然としていた。そんな重役を与えてくれるなど、ハワードの口から聞いたことなどなかった。

「そんな……お父様は、僕を必要としてくれていたってことなの……」

「当たり前だろう!! モリスも私の大切な息子であり、この国を担っていく立場の人間だ。それくらい、自覚してくれていると思っていた」

「もっと早くに知っていれば……」

 モリスは泣き崩れた。ハワードの気持ちを知っていればよかった。
 もっと素直に、自分の気持ちをハワードに話せばよかった。

 そうすれば、悪魔に身を捧げる必要もなかったのだ。

 しかし、嘆いてももう遅い。

「……もう、お終いだ。何もかも……僕はもう人間じゃない。悪魔だ」

 悲鳴を上げながら毒糸を飛ばした。

 猫神は木の枝からジャンプをして姿を消すと、人化した姿でモリスの真正面に現れ、回し蹴りを喰らわせた。

『初めから、欲しいものを欲しいと言えば良かったのだ。モリスよ』

 猫神の足元にモリスが倒れむ。

 ハワードは怒っている。召喚獣の象が一歩、また一歩モリスへと近寄る。

「来るな!!」

 モリスの叫びは聞きえれてもらいない。


「猫神よ、この森の毒は現状どうなっている?」

 ハワードが静かに尋ねる。

『かなり広範囲に渡っておる。ソウマは……湖の方向へと進んでおるようだな』

「モリスの放った毒蜘蛛を一匹ずつ殺していくなんて、時間が足りない。こうなれば雷魔法で……」

『ハワード、それは駄目だ!! 雲を作るな。今夜だけは!!』

 ハワードの雷魔法は森全域を轟かせるほどの威力がある。しかし、その場合空には森を覆い尽くす雷雲が発生してしまう。

 その猫神の一言で、モリスは悟った。

「やっぱり、カマル兄さんはこの森にいるんだね」

「カマル……満月……もしかして!?」

 もうこれ以上は隠しても無駄と睨んで猫神が暴露した。

『ハワードよ、今夜、龍が生まれる』

「カマルが、番を見つけたのか?」

『その通り。闇も瘴気も完治した。今頃、番になっておろう』

 時間稼ぎをした甲斐あって、空には大きな満月が浮かんでいた。

『そうだ。今宵は大満月だったな』

 猫神が夜空を見上げた。





 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...