【完結】満月に導かれし龍の淫紋 〜運命の番は闇落ち王子〜

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
35 / 104
本編

モリスと綜馬

しおりを挟む
 夜は直ぐそこまで来ているというのに、こんなにも時間の経過が遅く感じる日はない。

 結界の中は安心とは言え、地響きは鳴り続けている。

 さっきまで、鳥や動物たちが逃げ惑うのを目の当たりにしていたが、逃げ切れたのか毒にやられたのか、地鳴りの他は何も聞こえなくなった。

 毒はどこまで広がっているのだろうか。

 猫神が今、毒蛇と毒蜘蛛と戦っているだろう。

 モリスと綜馬の動きが結界からは何も分からない。これが一番のストレスの根源だ。

 月亜のストレスを少しでも和らげようと、カマルはずっと月亜を抱きしめている。

「ルア、もう少しの辛抱だ。猫神はそんな簡単にはやられない。番いになったら、すぐに龍を召喚させよう」

「はい。分かってます。分かってるんですけど……何もできないのが悔しくて……」

「もう夜は直ぐそこだ。もう、私たちも番う準備に入ろう」

 カマルが月亜のフェロモンを促す。月亜の下腹の淫紋に手を添えると、腹の奥が熱を帯びて疼き始めた。

「今は、猫神を信じるしかない。それに、これだけのことを起こしておいて、国王が動かないはずがない。大丈夫だ。我々は負けない」

 カマルが口付けた。

 月亜も目の前のカマルに集中した。カマルの言うとおり、今は番うことに集中するべきだ。

 外が薄暗くなると、二人はベッドへ沈んだ。



⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 対してモリスと綜馬はカマルを炙り出そうと、森の奥へと進んでいた。

「兄さん。カマル兄さん、どこ? 早く出てきてよ」

 召喚させた巨大な蜘蛛の腹にあぐらを組んで、森を進んでいるのはモリスだ。

 毒蜘蛛となった召喚獣は、森中の木に毒のついた糸を張り巡らせていく。この糸に絡まれば、身体中に毒が回る。

 既に虫や鳥がその餌食に掛かっていた。

「こんな虫けらが欲しいんじゃないのに……カマル兄さんは一体どこに隠れてるの? 早く、僕の毒を味わってくれないかな。ふふ……」

「モリス、俺は向こうのほうから森の奥を目指す!」

 毒蜘蛛の隣に大蛇が現れた。綜馬の召喚獣だ。器用にモリスの蜘蛛の糸を避けながら近寄ってきた。

「本当に、この森にカマル兄さんはいるんだよね?」

 綜馬はニヤリと笑った。

「ああ、間違いない。それを証拠に上を見てみろ?」

 二人が見上げた先に、人化した猫神が二人にその姿を見せた。

「この森の守り神か……無謀なことを……」

「あいつが次期国王とルアを匿っているんだろうな」

『お前ら、ワシの森を穢しよってからに!! 許さぬ!!』

 猫神がまた変化し、三本の尻尾を持つ妖の姿になった。そしてモリスたちと対面する木々に蔓を張り巡らせていく。

「ここで足止めしようって魂胆かよ」

 綜馬が馬鹿にするような口ぶりで吐き捨てた。

「神様は僕の味方になってくれないの? 大人しくカマル兄さんを差し出してくれれば、僕たちは直ぐにこの森から立ち去ってあげるのに」

『馬鹿を言うでない。お前らの行動は常に監視しておった。この先には行かせぬ』

 蔓はみるみる三人の周りを囲んでいく。

「神には申し訳ないが、こっちもこんな所で止まってるワケにはいかないんだよね。ハワード国王に見つかる前に、カマルとルアを仕留めないといけないから」

「ごめんね。猫神ちゃん」

 モリスがウインクを投げると、巨大な毒蜘蛛の尻から数え切れない数の小さな毒蜘蛛を飛ばした。その蜘蛛は蔓を這い、よじ登って行く。

「まあ、こんな植物、毒にかかれば直ぐに枯れるしね。ご苦労さん、猫神」

 綜馬の毒蛇が、蔓を目がけて毒を含んだ粘膜を吐き飛ばした。

 毒が付着した場所からジュワリと蔓が溶けていく。

「どけ、猫神。次はお前に毒を飛ばすぞ」

 綜馬が猫神を睨みつける。

「こらこら、ソウマ。そんな怖い喋り方しないで? もう僕の蜘蛛たちが広がって行ったよ。兄さんのところまで、たどり着いてね。僕の蜘蛛たち」

 色気のある笑みを浮かべるモリスは、また追加で蜘蛛を放った。

「ま、俺もぼちぼち行きますか」

 大蛇に跨った綜馬も、計画通りにモリスとは別ルートからカマルたちを目指して進むと言って、この場を離れた。

 放たれた蜘蛛も毒糸を張り巡らせながら、森の奥へと進んでいく。

 その上空を一羽の白鳥が飛んだ。そして旋回すると、また飛んできた方角へと戻って行った。

「チッ。お母様ったら、もう気づいちゃったの?」

 モリスが舌打ちをする。

『お前らの計画は無駄に終わりそうだな』

 妖の姿のまま、猫神が威嚇した。

「は? 何を言ってるの、状況わかってる? 既にこの森には僕の蜘蛛たちが毒糸を張り巡らせているんだよ?」

『さあ、その蜘蛛がどこまで行けるかな? そして、お前の父親が既に動き出したようだがな。気付いていないのか?』

 猫神に言われて、モリスは初めて後ろを振り返った。

 後ろを見上げた先には、ハワードの召喚獣である象が地に足を下ろした瞬間であった。

「なっ!———お父様が、象を召喚なさるなんて……」

『それだけではないだろう。周りももっとよく見るがいい』

 ハワード国王の召喚したぞうの脇からは、虎に狼、豹、熊、そして空からは鷹や鷲、梟の召喚獣が放たれた。

「なんで……こいつら一体どこから……」

『いきなりの窮地だな。そんなのでカマルの元へ辿り着けるのか?』

 猫神がニヤリと笑った。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...