【完結】満月に導かれし龍の淫紋 〜運命の番は闇落ち王子〜

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
34 / 104
本編

満月当日の異変

しおりを挟む
 いよいよ明日を満月に控えた日。

 月亜のタトゥーは立派な龍が仕上がっていた。そして、カマルの淫紋も真っ黒へと戻った。

 カマルの淫紋は割と早くに黒くなっていたが、月亜の龍は今朝起きた時にようやく顔まで仕上がっていた。まさか自分のほうがギリギリになるとは思っておらず、月亜は内心ホッとした。

 これでもし月亜のタトゥーが仕上がらなければ、明日番うことができなくなるハメだった。

「カマルさん、今日は晴れましたよ!」

 昨日までは三日ほど雨が続いていた。この世界に来て、月亜にとっては初めての雨だった。

 食糧は果樹園まで行かずとも猫神が運んでくれる。

 屋敷に来た猫神は、少しの間月亜を揶揄ったりして楽しんでいる。

 そうして満足すると勝手にスッと姿を消すのだった。

 カマルはその様子を甲斐甲斐しく見守っているのだ常だ。

「折角だからオンセンに行こう」

「賛成です!」

 雨上がりの湖はいつも以上にキラキラと輝いていた。
 
 雲一つない空に、太陽が存在を主張している。

 水面は太陽が反射して光の鱗になっていた。


 猫神が、モリスが森を嗅ぎ回っていると言っていた割には、結界の中ではそれを感じないほど平和であった。

 こうしてカマルと天然温泉を楽しんでいると、本当にモリスたちは何かを仕掛けてくるのかと疑ってしまう。

 本当は国王や龍を恐れて何もできないのでは……と、想像してしまうほど、この半月の時間は平穏に過ぎた。

 こんな平和な日々がずっと続くのかと思ってしまう。

 空高く、大きな鳥が弧を描いて飛んでいる。そんな光景をカマルと二人、温泉に浸かりながら眺めているなんて、贅沢な時間だ。

 結界の中も、すっかりと闇は浄化できている。初めてここに足を踏み入れた時の衝撃は一生忘れないだろうが、カマルの闇が浄化されると共に、森の緑も蘇った。

 カマルと結界の中を散歩しながら黒くなくなった空間を堪能した。

 闇が浄化されて、カマルは安堵している。

「明日は日中のうちに猫神にお礼を言いに行こう」

「そうですね。沢山、お世話になりましたもんね」

 月亜は完全体になった龍も見てほしいと続けて言う。初めはミミズみたいだった紋が、カマルの言う通り立派な龍へと変貌を遂げた。

 満月の前日は至って平穏なまま過ぎ去った。


 そして迎えた満月当日、カマルも月亜も朝からほのかに発情の気配を感じていた。

 体が本能で番う準備を始めている。

 それでも満月の出る夜にしか番えないので、なるべく気を紛らわそうと二人で掃除をしてみたり散歩に出かけたりして過ごす。

 猫神とは昼過ぎくらいになってようやく会えた。

『いよいよだな』

 ここでの生活は猫神の存在がとても心強かった。

 カマルと二人でお礼を言うと、まだ今日一日あるではないか。と言ってまた果樹園でいろんな話をした。

 月亜の龍の紋にも祝いの言葉をかけてくれ、二人が番になる記念に……とお守りの勾玉をプレゼントしてくれた。


 この三日間の雨で、モリスたちは森には来ていないらしい。

「諦めたんですかねぇ?」

『そうではないだろうな。今日はまた天気が良いから動きがあるかもしれぬ。この後また巡回してくる』

 なるべく穏やかに過ごそうと、二人で話し合っていたけれど、やはり心のどこかでモリスたちの存在は消えなかった。

 カマルは特にそうで、フッとした瞬間に考え込んでる様子だった。

 その度に月亜は気を紛らわせようと、楽しい話題をもちかけたりしていた。


 そんな夕方。

 森の気配が変わった。

 やけに木々がざわざわと騒ぎ出している。

 風が強くなっただけではなさそうだ。

 外に出てみたが特別何かがどうなっているわけではない。

 ただ、妙な違和感だけをカマルも月亜も感じていた。

 空は綺麗なオレンジ色に染まっている。

 月亜は、この胸騒ぎは番になる時を感じて気持ちが昂っているのかと思っていた。

 しかしそうではなかった。

 突然、ドオーーンという音と共に、地面が揺れた。

 何事かと屋敷の庭でカマルと二人、森の様子を見ていると、突然猫神が姿を現したのだ。

『大変な事態が起こった』

 いつもおっとりと喋る猫神が慌てているというだけで、只事ではないと理解できる。

 猫神の毛という毛が逆立っていた。相当な怒りのオーラを放っている。

 そしてその次に猫神が言った一言に、二人とも驚かずにはいられなかった。

『モリスらが、森に毒を放ちよったのだ!!』

「なんだって!?」

『どうやら、探しても一向に見つからない貴様らを炙り出すための作戦のようだ』

 やはり綜馬と森で会った時、綜馬は月亜はカマルと一緒にいると狙いを定めていた。だから従者を使い森を探させた。

 それでもカマルの姿も見つけられなかったモリスと綜馬は、自分達の召喚獣を使い、森中に毒を撒き始めたのだ。

『良いか、この結界が消えるまで絶対に外には出るなよ!? そして必ず今夜、月が出たと同時に番うのだ』

 結界の中は安全だ。カマルと月亜が無事番になるまではなんとしてでもこの結界は解かないと言う。

「猫神さまは、今からどうするんですか?」

『一先ずは毒蜘蛛と毒蛇のところへ向かう。あやつら、この森が消えれば、自分達の生活にも影響が及ぶと分かっておらんな』

 この国が豊かなのは、この森があるからなのだ。

 この森ではさまざまな果実や薬草、花がとれ、狩をし、生活を豊かにしている。

 その森が毒に侵されてしまえば、最終的に困るのは我々人間なのだ。

 そんなことすら考えもせずにモリスたちは自分の都合だけで毒を撒いた。

「……許せない……」

 月亜は自分も一緒に行くと言ったが、頑なに許可してくれなかった。

『貴様が何かあれば番が成立せんのだ!! この森を救ってくれる気があるのなら、今はここで隠れていろ!』

 猫神はトンっと身軽にジャンプをすると同時に消えた。

「猫神さま!!」

 月亜が叫んでも、もう猫神の姿はいなくなった後だ。

 結界が消えるまで、こんなところに隠れていろだなんて……。

 猫神は一人で戦おうとしているのか……。
 

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...