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本編
満月当日の異変
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いよいよ明日を満月に控えた日。
月亜のタトゥーは立派な龍が仕上がっていた。そして、カマルの淫紋も真っ黒へと戻った。
カマルの淫紋は割と早くに黒くなっていたが、月亜の龍は今朝起きた時にようやく顔まで仕上がっていた。まさか自分のほうがギリギリになるとは思っておらず、月亜は内心ホッとした。
これでもし月亜のタトゥーが仕上がらなければ、明日番うことができなくなるハメだった。
「カマルさん、今日は晴れましたよ!」
昨日までは三日ほど雨が続いていた。この世界に来て、月亜にとっては初めての雨だった。
食糧は果樹園まで行かずとも猫神が運んでくれる。
屋敷に来た猫神は、少しの間月亜を揶揄ったりして楽しんでいる。
そうして満足すると勝手にスッと姿を消すのだった。
カマルはその様子を甲斐甲斐しく見守っているのだ常だ。
「折角だからオンセンに行こう」
「賛成です!」
雨上がりの湖はいつも以上にキラキラと輝いていた。
雲一つない空に、太陽が存在を主張している。
水面は太陽が反射して光の鱗になっていた。
猫神が、モリスが森を嗅ぎ回っていると言っていた割には、結界の中ではそれを感じないほど平和であった。
こうしてカマルと天然温泉を楽しんでいると、本当にモリスたちは何かを仕掛けてくるのかと疑ってしまう。
本当は国王や龍を恐れて何もできないのでは……と、想像してしまうほど、この半月の時間は平穏に過ぎた。
こんな平和な日々がずっと続くのかと思ってしまう。
空高く、大きな鳥が弧を描いて飛んでいる。そんな光景をカマルと二人、温泉に浸かりながら眺めているなんて、贅沢な時間だ。
結界の中も、すっかりと闇は浄化できている。初めてここに足を踏み入れた時の衝撃は一生忘れないだろうが、カマルの闇が浄化されると共に、森の緑も蘇った。
カマルと結界の中を散歩しながら黒くなくなった空間を堪能した。
闇が浄化されて、カマルは安堵している。
「明日は日中のうちに猫神にお礼を言いに行こう」
「そうですね。沢山、お世話になりましたもんね」
月亜は完全体になった龍も見てほしいと続けて言う。初めはミミズみたいだった紋が、カマルの言う通り立派な龍へと変貌を遂げた。
満月の前日は至って平穏なまま過ぎ去った。
そして迎えた満月当日、カマルも月亜も朝からほのかに発情の気配を感じていた。
体が本能で番う準備を始めている。
それでも満月の出る夜にしか番えないので、なるべく気を紛らわそうと二人で掃除をしてみたり散歩に出かけたりして過ごす。
猫神とは昼過ぎくらいになってようやく会えた。
『いよいよだな』
ここでの生活は猫神の存在がとても心強かった。
カマルと二人でお礼を言うと、まだ今日一日あるではないか。と言ってまた果樹園でいろんな話をした。
月亜の龍の紋にも祝いの言葉をかけてくれ、二人が番になる記念に……とお守りの勾玉をプレゼントしてくれた。
この三日間の雨で、モリスたちは森には来ていないらしい。
「諦めたんですかねぇ?」
『そうではないだろうな。今日はまた天気が良いから動きがあるかもしれぬ。この後また巡回してくる』
なるべく穏やかに過ごそうと、二人で話し合っていたけれど、やはり心のどこかでモリスたちの存在は消えなかった。
カマルは特にそうで、フッとした瞬間に考え込んでる様子だった。
その度に月亜は気を紛らわせようと、楽しい話題をもちかけたりしていた。
そんな夕方。
森の気配が変わった。
やけに木々がざわざわと騒ぎ出している。
風が強くなっただけではなさそうだ。
外に出てみたが特別何かがどうなっているわけではない。
ただ、妙な違和感だけをカマルも月亜も感じていた。
空は綺麗なオレンジ色に染まっている。
月亜は、この胸騒ぎは番になる時を感じて気持ちが昂っているのかと思っていた。
しかしそうではなかった。
突然、ドオーーンという音と共に、地面が揺れた。
何事かと屋敷の庭でカマルと二人、森の様子を見ていると、突然猫神が姿を現したのだ。
『大変な事態が起こった』
いつもおっとりと喋る猫神が慌てているというだけで、只事ではないと理解できる。
猫神の毛という毛が逆立っていた。相当な怒りのオーラを放っている。
そしてその次に猫神が言った一言に、二人とも驚かずにはいられなかった。
『モリスらが、森に毒を放ちよったのだ!!』
「なんだって!?」
『どうやら、探しても一向に見つからない貴様らを炙り出すための作戦のようだ』
やはり綜馬と森で会った時、綜馬は月亜はカマルと一緒にいると狙いを定めていた。だから従者を使い森を探させた。
それでもカマルの姿も見つけられなかったモリスと綜馬は、自分達の召喚獣を使い、森中に毒を撒き始めたのだ。
『良いか、この結界が消えるまで絶対に外には出るなよ!? そして必ず今夜、月が出たと同時に番うのだ』
結界の中は安全だ。カマルと月亜が無事番になるまではなんとしてでもこの結界は解かないと言う。
「猫神さまは、今からどうするんですか?」
『一先ずは毒蜘蛛と毒蛇のところへ向かう。あやつら、この森が消えれば、自分達の生活にも影響が及ぶと分かっておらんな』
この国が豊かなのは、この森があるからなのだ。
この森ではさまざまな果実や薬草、花がとれ、狩をし、生活を豊かにしている。
その森が毒に侵されてしまえば、最終的に困るのは我々人間なのだ。
そんなことすら考えもせずにモリスたちは自分の都合だけで毒を撒いた。
「……許せない……」
月亜は自分も一緒に行くと言ったが、頑なに許可してくれなかった。
『貴様が何かあれば番が成立せんのだ!! この森を救ってくれる気があるのなら、今はここで隠れていろ!』
猫神はトンっと身軽にジャンプをすると同時に消えた。
「猫神さま!!」
月亜が叫んでも、もう猫神の姿はいなくなった後だ。
結界が消えるまで、こんなところに隠れていろだなんて……。
猫神は一人で戦おうとしているのか……。
月亜のタトゥーは立派な龍が仕上がっていた。そして、カマルの淫紋も真っ黒へと戻った。
カマルの淫紋は割と早くに黒くなっていたが、月亜の龍は今朝起きた時にようやく顔まで仕上がっていた。まさか自分のほうがギリギリになるとは思っておらず、月亜は内心ホッとした。
これでもし月亜のタトゥーが仕上がらなければ、明日番うことができなくなるハメだった。
「カマルさん、今日は晴れましたよ!」
昨日までは三日ほど雨が続いていた。この世界に来て、月亜にとっては初めての雨だった。
食糧は果樹園まで行かずとも猫神が運んでくれる。
屋敷に来た猫神は、少しの間月亜を揶揄ったりして楽しんでいる。
そうして満足すると勝手にスッと姿を消すのだった。
カマルはその様子を甲斐甲斐しく見守っているのだ常だ。
「折角だからオンセンに行こう」
「賛成です!」
雨上がりの湖はいつも以上にキラキラと輝いていた。
雲一つない空に、太陽が存在を主張している。
水面は太陽が反射して光の鱗になっていた。
猫神が、モリスが森を嗅ぎ回っていると言っていた割には、結界の中ではそれを感じないほど平和であった。
こうしてカマルと天然温泉を楽しんでいると、本当にモリスたちは何かを仕掛けてくるのかと疑ってしまう。
本当は国王や龍を恐れて何もできないのでは……と、想像してしまうほど、この半月の時間は平穏に過ぎた。
こんな平和な日々がずっと続くのかと思ってしまう。
空高く、大きな鳥が弧を描いて飛んでいる。そんな光景をカマルと二人、温泉に浸かりながら眺めているなんて、贅沢な時間だ。
結界の中も、すっかりと闇は浄化できている。初めてここに足を踏み入れた時の衝撃は一生忘れないだろうが、カマルの闇が浄化されると共に、森の緑も蘇った。
カマルと結界の中を散歩しながら黒くなくなった空間を堪能した。
闇が浄化されて、カマルは安堵している。
「明日は日中のうちに猫神にお礼を言いに行こう」
「そうですね。沢山、お世話になりましたもんね」
月亜は完全体になった龍も見てほしいと続けて言う。初めはミミズみたいだった紋が、カマルの言う通り立派な龍へと変貌を遂げた。
満月の前日は至って平穏なまま過ぎ去った。
そして迎えた満月当日、カマルも月亜も朝からほのかに発情の気配を感じていた。
体が本能で番う準備を始めている。
それでも満月の出る夜にしか番えないので、なるべく気を紛らわそうと二人で掃除をしてみたり散歩に出かけたりして過ごす。
猫神とは昼過ぎくらいになってようやく会えた。
『いよいよだな』
ここでの生活は猫神の存在がとても心強かった。
カマルと二人でお礼を言うと、まだ今日一日あるではないか。と言ってまた果樹園でいろんな話をした。
月亜の龍の紋にも祝いの言葉をかけてくれ、二人が番になる記念に……とお守りの勾玉をプレゼントしてくれた。
この三日間の雨で、モリスたちは森には来ていないらしい。
「諦めたんですかねぇ?」
『そうではないだろうな。今日はまた天気が良いから動きがあるかもしれぬ。この後また巡回してくる』
なるべく穏やかに過ごそうと、二人で話し合っていたけれど、やはり心のどこかでモリスたちの存在は消えなかった。
カマルは特にそうで、フッとした瞬間に考え込んでる様子だった。
その度に月亜は気を紛らわせようと、楽しい話題をもちかけたりしていた。
そんな夕方。
森の気配が変わった。
やけに木々がざわざわと騒ぎ出している。
風が強くなっただけではなさそうだ。
外に出てみたが特別何かがどうなっているわけではない。
ただ、妙な違和感だけをカマルも月亜も感じていた。
空は綺麗なオレンジ色に染まっている。
月亜は、この胸騒ぎは番になる時を感じて気持ちが昂っているのかと思っていた。
しかしそうではなかった。
突然、ドオーーンという音と共に、地面が揺れた。
何事かと屋敷の庭でカマルと二人、森の様子を見ていると、突然猫神が姿を現したのだ。
『大変な事態が起こった』
いつもおっとりと喋る猫神が慌てているというだけで、只事ではないと理解できる。
猫神の毛という毛が逆立っていた。相当な怒りのオーラを放っている。
そしてその次に猫神が言った一言に、二人とも驚かずにはいられなかった。
『モリスらが、森に毒を放ちよったのだ!!』
「なんだって!?」
『どうやら、探しても一向に見つからない貴様らを炙り出すための作戦のようだ』
やはり綜馬と森で会った時、綜馬は月亜はカマルと一緒にいると狙いを定めていた。だから従者を使い森を探させた。
それでもカマルの姿も見つけられなかったモリスと綜馬は、自分達の召喚獣を使い、森中に毒を撒き始めたのだ。
『良いか、この結界が消えるまで絶対に外には出るなよ!? そして必ず今夜、月が出たと同時に番うのだ』
結界の中は安全だ。カマルと月亜が無事番になるまではなんとしてでもこの結界は解かないと言う。
「猫神さまは、今からどうするんですか?」
『一先ずは毒蜘蛛と毒蛇のところへ向かう。あやつら、この森が消えれば、自分達の生活にも影響が及ぶと分かっておらんな』
この国が豊かなのは、この森があるからなのだ。
この森ではさまざまな果実や薬草、花がとれ、狩をし、生活を豊かにしている。
その森が毒に侵されてしまえば、最終的に困るのは我々人間なのだ。
そんなことすら考えもせずにモリスたちは自分の都合だけで毒を撒いた。
「……許せない……」
月亜は自分も一緒に行くと言ったが、頑なに許可してくれなかった。
『貴様が何かあれば番が成立せんのだ!! この森を救ってくれる気があるのなら、今はここで隠れていろ!』
猫神はトンっと身軽にジャンプをすると同時に消えた。
「猫神さま!!」
月亜が叫んでも、もう猫神の姿はいなくなった後だ。
結界が消えるまで、こんなところに隠れていろだなんて……。
猫神は一人で戦おうとしているのか……。
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