24 / 104
本編
今できること
しおりを挟む
モリスが王位継承を狙っているのは猫神の話から確定された。
しかし、悪魔になったからといってすぐに国王の座を奪えるわけではない。ハワード国王が現役でいる限り、そしてカマルがこの世に生存している限りモリスの目論みはただの戯言でしかない。
「悪魔になっていたとして、どうやってモリスさんがカマルさんの代わりになれるんでしょうか?」
「私の記憶のモリスは優しい子だった。まさか両親を殺すなんて真似はしないと信じたい。しかし……」
『その二人の力が如何なるものかにもよる……と言いたいのであろう?』
「そうだ……モリスの蜘蛛の紋は通常よりも大きい。毒を持った時、それ相当の力を手に入れることとなる」
どうやら、紋の大きさは召喚獣のパワーと比例するようだ。
「それなら! 綜馬の蛇の紋もかなり大きいです! 大きさだけなら、カマルさんの龍と大差ないかもしれません」
『確かに、あやつの紋もなかなかのものだった』
「モリスたちは、私を殺しに来るかもしれない」
静かにカマルが呟いた。
手っ取り早くカマルが死んでくれれば、次男であるモリスが次期国王となる。
森で綜馬に会ったのは、もしかするとカマルの生存確認のためなのかもしれない。
「そんなことはさせません!! また次の満月がきます!! そに日まで何事もなければ、俺とカマルさんは番になれるじゃないですか!」
次の満月まであと半月といったところだ。
あと半月、モリスたちに見つからずに過ごせれば、番になって城に帰れる。
見つからないようにするには、なるべくあの結界から出なければいいだけの話じゃないか。
月亜は万事解決! と自信満々に言った。
しかし、猫神はその前にまだやらなくてはいけないことがあると言う。
『カマルの闇が完全に祓えていないまま、龍を召喚するのは危険だ。闇堕ちした龍が出てきてしまえば、それこそ取り返しの付かぬこととなる』
「そうだな。私もそれを考えていた」
「あと半月でカマルさんの闇を浄化しなければ、番えないということなんですか?」
『番にはなれる。ただ、闇を完全に払わなければ、貴様にも召喚獣である龍にも闇を分け与えることとなると言っておるのだ』
「そんな……」
番になれば、全て浄化できるのでは……なんて考えは甘かった。
カマルの症状は回復に向かっているとはいっても、まだ声は掠れたまま。それに、火傷痕のようになった皮膚も少し薄くなった程度だ。
これをあと半月で浄化など、そんなことが可能なのか?
『なあに、気に病むでない』
猫神があっけらかんと言う。
「何か、いい方法があるんですか?」
月亜が食い気味で身を乗り出した。
『何を言っておる。貴様らが必要なのは、お互いの体液であろう。あとの半月で浄化できるまで体液を吸収しあえば済む話ではないか』
「はっ? ちょっ!! 猫神さま!?」
月亜は顔から火が出るほど赤面した。猫神はもっと抱き合えと面と向かって言ってきたのだ。
恥ずかしげもなく、よく言えるものだと感心している場合ではない。
『それが一番の得策ではないか』
猫神の猫目がキラリと光った……気がした。
「……もっと違う方法があるのかと思っていました」
不貞腐れるように言うと、今度はカマルが口を開く。
「ルアはもう私から抱かれるのは嫌か?」
「そんなわけありません!! その……嬉しいです、けど……こんな恥ずかしいこと平然と言わないでくださいって言いたいんです!!」
猫神が盛大に笑っていた。
『愉快、愉快。貴様はワシを飽きさせん。ほら、解決策が分かったなら、さっさと食って体力をつけて励まんか!』
「猫神さまっ!!!」
他人に“セックスをしろ”なんて言う神さまなど、他にはいないだろう。
それに当然の如く答えるカマルにも驚いた。
さっきまで殆ど何も口にせず猫神と話し込んでいたのに、立ち上がったと思いきや果物を手に取り食べ始めたのだ。
嬉しいはずなのに、恥ずかしい気持ちの方が上回っている。こうして腹一杯食べて、屋敷に帰った後はカマルに抱かれると宣言されているようなもの。
月亜はさっきまでとは打って変わって急に食欲がなくなった。猫神はそんな月亜を茶化すように食べろ食べろと煽ってくる。
「もう!! こんな神さま知らない!!」
半泣きで月亜が叫んでも、猫神は楽しそうに笑っているだけだ。
「ルア、また屋敷に果物を持って帰ろう」
「……そうします」
数種類の果物を取ると、屋敷へと向かった。月亜の心臓は大袈裟なほど大きく伸縮している。
自分でもここまで緊張しなくてもいいのに、とは思っている。今回のは猫神が悪い。
一歩前を歩く猫神の後頭部を睨みつけた。
『そう怖い顔をするな。綺麗な顔が台無しだぞ』
神さまには背後からの視線もお見通しらしい。完全に月亜を揶揄っている。
「猫神であってもルアに色目を使うのは許さない」
カマルはカマルで要らぬ嫉妬心を猫神に向け始めた。この二人、月亜では収集がつかないと諦めた。
「では、逆に聞きますけど猫神さまは結婚とかはしないんですか?」
自分とカマルの話題を逸らせるために言っただけなのに、猫神は意外な反応を見せた。
『けっ! 結婚!? まぁ、そうだな。神同士で結婚しているやつもおるけどな』
突然動揺し始めた。月亜は心が湧き立つ感覚を味わう。
「猫神さまも、結婚したい人がいるんですか?」
もう一踏ん張り突っ込んでみる。
さっきまで楽しそうに月亜を揶揄っていた猫神が、しどろもどろになってきた。これはきっと恋の相手がいるのだろうと、月亜は睨んだ。
『例えおったとしても、貴様には関係ないであろうが!!』
分かり易く照れ隠しをした猫神だったが、別れ際に好きな雌猫がいるとだけ教えてくれた。
もっと詳しく聞きたいのに、猫神はそれだけ言うと姿をくらましてしまった。
「逃げられた」
今度会ったら質問攻めにしようと、月亜は企む。
「ルアは逃さないよ」
カマルがルアを捕まえて抱き上げた。
「カマルさん! 歩けますって!!」
「こうした方が早い。一秒も無駄にしたくない」
至って真剣なカマルをどんな顔で見ればいいのか分からず、月亜はまた顔を熱くさせた。
しかし、悪魔になったからといってすぐに国王の座を奪えるわけではない。ハワード国王が現役でいる限り、そしてカマルがこの世に生存している限りモリスの目論みはただの戯言でしかない。
「悪魔になっていたとして、どうやってモリスさんがカマルさんの代わりになれるんでしょうか?」
「私の記憶のモリスは優しい子だった。まさか両親を殺すなんて真似はしないと信じたい。しかし……」
『その二人の力が如何なるものかにもよる……と言いたいのであろう?』
「そうだ……モリスの蜘蛛の紋は通常よりも大きい。毒を持った時、それ相当の力を手に入れることとなる」
どうやら、紋の大きさは召喚獣のパワーと比例するようだ。
「それなら! 綜馬の蛇の紋もかなり大きいです! 大きさだけなら、カマルさんの龍と大差ないかもしれません」
『確かに、あやつの紋もなかなかのものだった』
「モリスたちは、私を殺しに来るかもしれない」
静かにカマルが呟いた。
手っ取り早くカマルが死んでくれれば、次男であるモリスが次期国王となる。
森で綜馬に会ったのは、もしかするとカマルの生存確認のためなのかもしれない。
「そんなことはさせません!! また次の満月がきます!! そに日まで何事もなければ、俺とカマルさんは番になれるじゃないですか!」
次の満月まであと半月といったところだ。
あと半月、モリスたちに見つからずに過ごせれば、番になって城に帰れる。
見つからないようにするには、なるべくあの結界から出なければいいだけの話じゃないか。
月亜は万事解決! と自信満々に言った。
しかし、猫神はその前にまだやらなくてはいけないことがあると言う。
『カマルの闇が完全に祓えていないまま、龍を召喚するのは危険だ。闇堕ちした龍が出てきてしまえば、それこそ取り返しの付かぬこととなる』
「そうだな。私もそれを考えていた」
「あと半月でカマルさんの闇を浄化しなければ、番えないということなんですか?」
『番にはなれる。ただ、闇を完全に払わなければ、貴様にも召喚獣である龍にも闇を分け与えることとなると言っておるのだ』
「そんな……」
番になれば、全て浄化できるのでは……なんて考えは甘かった。
カマルの症状は回復に向かっているとはいっても、まだ声は掠れたまま。それに、火傷痕のようになった皮膚も少し薄くなった程度だ。
これをあと半月で浄化など、そんなことが可能なのか?
『なあに、気に病むでない』
猫神があっけらかんと言う。
「何か、いい方法があるんですか?」
月亜が食い気味で身を乗り出した。
『何を言っておる。貴様らが必要なのは、お互いの体液であろう。あとの半月で浄化できるまで体液を吸収しあえば済む話ではないか』
「はっ? ちょっ!! 猫神さま!?」
月亜は顔から火が出るほど赤面した。猫神はもっと抱き合えと面と向かって言ってきたのだ。
恥ずかしげもなく、よく言えるものだと感心している場合ではない。
『それが一番の得策ではないか』
猫神の猫目がキラリと光った……気がした。
「……もっと違う方法があるのかと思っていました」
不貞腐れるように言うと、今度はカマルが口を開く。
「ルアはもう私から抱かれるのは嫌か?」
「そんなわけありません!! その……嬉しいです、けど……こんな恥ずかしいこと平然と言わないでくださいって言いたいんです!!」
猫神が盛大に笑っていた。
『愉快、愉快。貴様はワシを飽きさせん。ほら、解決策が分かったなら、さっさと食って体力をつけて励まんか!』
「猫神さまっ!!!」
他人に“セックスをしろ”なんて言う神さまなど、他にはいないだろう。
それに当然の如く答えるカマルにも驚いた。
さっきまで殆ど何も口にせず猫神と話し込んでいたのに、立ち上がったと思いきや果物を手に取り食べ始めたのだ。
嬉しいはずなのに、恥ずかしい気持ちの方が上回っている。こうして腹一杯食べて、屋敷に帰った後はカマルに抱かれると宣言されているようなもの。
月亜はさっきまでとは打って変わって急に食欲がなくなった。猫神はそんな月亜を茶化すように食べろ食べろと煽ってくる。
「もう!! こんな神さま知らない!!」
半泣きで月亜が叫んでも、猫神は楽しそうに笑っているだけだ。
「ルア、また屋敷に果物を持って帰ろう」
「……そうします」
数種類の果物を取ると、屋敷へと向かった。月亜の心臓は大袈裟なほど大きく伸縮している。
自分でもここまで緊張しなくてもいいのに、とは思っている。今回のは猫神が悪い。
一歩前を歩く猫神の後頭部を睨みつけた。
『そう怖い顔をするな。綺麗な顔が台無しだぞ』
神さまには背後からの視線もお見通しらしい。完全に月亜を揶揄っている。
「猫神であってもルアに色目を使うのは許さない」
カマルはカマルで要らぬ嫉妬心を猫神に向け始めた。この二人、月亜では収集がつかないと諦めた。
「では、逆に聞きますけど猫神さまは結婚とかはしないんですか?」
自分とカマルの話題を逸らせるために言っただけなのに、猫神は意外な反応を見せた。
『けっ! 結婚!? まぁ、そうだな。神同士で結婚しているやつもおるけどな』
突然動揺し始めた。月亜は心が湧き立つ感覚を味わう。
「猫神さまも、結婚したい人がいるんですか?」
もう一踏ん張り突っ込んでみる。
さっきまで楽しそうに月亜を揶揄っていた猫神が、しどろもどろになってきた。これはきっと恋の相手がいるのだろうと、月亜は睨んだ。
『例えおったとしても、貴様には関係ないであろうが!!』
分かり易く照れ隠しをした猫神だったが、別れ際に好きな雌猫がいるとだけ教えてくれた。
もっと詳しく聞きたいのに、猫神はそれだけ言うと姿をくらましてしまった。
「逃げられた」
今度会ったら質問攻めにしようと、月亜は企む。
「ルアは逃さないよ」
カマルがルアを捕まえて抱き上げた。
「カマルさん! 歩けますって!!」
「こうした方が早い。一秒も無駄にしたくない」
至って真剣なカマルをどんな顔で見ればいいのか分からず、月亜はまた顔を熱くさせた。
22
お気に入りに追加
1,249
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです


アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる