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本編
恋敵
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「お兄様が闇堕ちしてしまって、次期国王を継承できるのは僕だけでしょ? でも運命の番が見つからなくて……そんな時に現れたのが彼なんだ」
モリスの悩みは自分よりも遥かに深刻なものだった。後継者である長男のカマルが闇堕ちし、オメガであるにも関わらず番を作ってでもこの国を支えようとしている。
この状況で、綜馬と番う約束をしたとは言えなかった。
「見て、僕の紋。赤黒くなってるでしょう? この紋が真っ赤に染まったら、僕も闇堕ちするんだ。もう、精気を吸われ始めてるんだよ」
腹の紋を撫でながら言う。モリスの淫紋は確かにハワード国王のものとは色味が違っている。国王は黒だったが、モリスのそれは明らかに赤みを帯びていた。
「そんな……急いで番を見つけないと、モリスの命も危ないてこと?」
「そうなんだ……だから、協力してくれる?」
悲しそうに俯いたモリスの手を取る。
「うん、協力するよ!」
「本当に!? ありがとう!! 僕……死なない、よね?」
「そんなことさせない!! 絶対に!!」
涙目のまま笑った顔が憂いを必死に隠していて、この先の計画など全く考えていないまま了承してしまった。
モリスを助けたいのは本心だ。しかし、まず綜馬に何と言って番う約束を破棄するのか……。
モリスは自分から頼んだとは言って欲しくないと言った。ここで話たのも秘密にしてほしいと。
モリスは自分の状況を憐れみの目で見られたくないのだ。
綜馬が戻ってくる前に……と、部屋を出た。
「どうしよう……」
勢いで言ってしまったはいいが、自分に仲を取り持つ役目など果たせるのか。
しかし、いくら綜馬と番う約束をしているとは言え、月亜自身が発情しなければ意味がない。もしこの先何年も発情期が来なかったら……。
モリスは淫紋の作用により命を落とすだろうし、既に淫紋だと診断されている綜馬の命だって危険だ。
二人の無事を祈るなら、月亜が犠牲になるしかない。
(だって、俺が一番どうでもいい存在じゃないか。国の未来も、淫紋による命の危険に晒される心配もない)
頭では分かっていても、いざ実践となるとどうすればいいのか全く分からない。
「まだ起きてたんだ」
綜馬が部屋帰ると早々に、番う約束を取り消してもらおうと意気込んだ。
将来番う約束をしていたのはついさっきなのに、綜馬はどう思うだろうか。
「うん、そろそろ横になろうかと思ってたところ」
言おうとするほど言葉を失う。
「あのモリスって子と仲良くなれる気がしないよな」
「そう、かな? 話してみると、案外良い子かもしれないよ」
誤魔化しの言葉ならいくらでも出てくるのに、肝心の内容に踏み込めない。
「ないない! あの無愛想見ただろ? やっぱ番になるなら、ルアみたいな可愛くて愛嬌のある子のほうが良い」
ベッドに入りながら、ごく自然に腕枕をされた。額にキスを落とすと、「おやすみ」と目を閉じる。
とうとう今日は言えずじまいだった。綜馬から優しい言葉をかけられると、裏切るなんてできないと葛藤してしまう。
モリスと綜馬の間で揺れる感情。どちらを優先すれば良いのか、どれだけ考えても答えは出なかった。
綜馬の寝顔を眺めながら、眠れない夜は月亜の心を暗闇へと誘う。
一睡もできない夜を過ごした。隣でぐっすりと眠っている綜馬の顔を眺めているだけで時間だけが過ぎていく。
自分が綜馬を諦めれば、この国は救われるだろう。
しかし、もしも綜馬がモリスを拒めばどうなる? もしも月亜を選べばどうなるのだ? モリスは……淫紋の呪いに力尽きて死にゆく様を見守るしかないのだろうか。
それはあまりにも酷な話である。それならば、自分一人が犠牲になるのが得策と言えよう。
綜馬の瞼にそっと口付けた。一日だけでも良い夢を見させてもらった。もう十分だ。
これでスッパリと諦めようと決意した。
外が明るくなっている。もう朝だ。
ゆっくりとベッドから這い出ると、バルコニーへと足を運ぶ。
丁度、東の空から朝日が顔を出している。優しい光が傷心を慰めてくれているように感じた。
「綺麗な朝日だね」
「綜馬! ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫。バルコニーに出るのが見えたから来ただけだよ」
綜馬が後ろから抱き寄せた。優しさが余計に胸を締め付ける。
「ルアは暖かいな」溢れた声が直接耳から入ると、なんとも居た堪れない気分になった。モリスとの会話がなければ、素直に喜べただろうに。
その後の朝食に、モリスの姿は見られなかった。
「呼んできましょうか?」と言うと、「部屋には近づかないように」と召使いからこっそり耳打ちされる。
発情期に入ったと悟った。
昨日の体調不良は発情期の予兆だったらしい。同じオメガなのに、気付いてあげられなかった。
不甲斐なさに苛まれる。
と、同時にプレッシャーが襲いかかってきた。
これは、綜馬を番として出迎えたい心情の現れなのではないか。もしそうならば、近づくなと言われたモリスの部屋に、どうにか綜馬を行かせてほしいという願いが込められているのではないか。
テーブルの下で握った拳に力が篭る。
モリスからの無言の圧を感じとってしまった。
モリスの悩みは自分よりも遥かに深刻なものだった。後継者である長男のカマルが闇堕ちし、オメガであるにも関わらず番を作ってでもこの国を支えようとしている。
この状況で、綜馬と番う約束をしたとは言えなかった。
「見て、僕の紋。赤黒くなってるでしょう? この紋が真っ赤に染まったら、僕も闇堕ちするんだ。もう、精気を吸われ始めてるんだよ」
腹の紋を撫でながら言う。モリスの淫紋は確かにハワード国王のものとは色味が違っている。国王は黒だったが、モリスのそれは明らかに赤みを帯びていた。
「そんな……急いで番を見つけないと、モリスの命も危ないてこと?」
「そうなんだ……だから、協力してくれる?」
悲しそうに俯いたモリスの手を取る。
「うん、協力するよ!」
「本当に!? ありがとう!! 僕……死なない、よね?」
「そんなことさせない!! 絶対に!!」
涙目のまま笑った顔が憂いを必死に隠していて、この先の計画など全く考えていないまま了承してしまった。
モリスを助けたいのは本心だ。しかし、まず綜馬に何と言って番う約束を破棄するのか……。
モリスは自分から頼んだとは言って欲しくないと言った。ここで話たのも秘密にしてほしいと。
モリスは自分の状況を憐れみの目で見られたくないのだ。
綜馬が戻ってくる前に……と、部屋を出た。
「どうしよう……」
勢いで言ってしまったはいいが、自分に仲を取り持つ役目など果たせるのか。
しかし、いくら綜馬と番う約束をしているとは言え、月亜自身が発情しなければ意味がない。もしこの先何年も発情期が来なかったら……。
モリスは淫紋の作用により命を落とすだろうし、既に淫紋だと診断されている綜馬の命だって危険だ。
二人の無事を祈るなら、月亜が犠牲になるしかない。
(だって、俺が一番どうでもいい存在じゃないか。国の未来も、淫紋による命の危険に晒される心配もない)
頭では分かっていても、いざ実践となるとどうすればいいのか全く分からない。
「まだ起きてたんだ」
綜馬が部屋帰ると早々に、番う約束を取り消してもらおうと意気込んだ。
将来番う約束をしていたのはついさっきなのに、綜馬はどう思うだろうか。
「うん、そろそろ横になろうかと思ってたところ」
言おうとするほど言葉を失う。
「あのモリスって子と仲良くなれる気がしないよな」
「そう、かな? 話してみると、案外良い子かもしれないよ」
誤魔化しの言葉ならいくらでも出てくるのに、肝心の内容に踏み込めない。
「ないない! あの無愛想見ただろ? やっぱ番になるなら、ルアみたいな可愛くて愛嬌のある子のほうが良い」
ベッドに入りながら、ごく自然に腕枕をされた。額にキスを落とすと、「おやすみ」と目を閉じる。
とうとう今日は言えずじまいだった。綜馬から優しい言葉をかけられると、裏切るなんてできないと葛藤してしまう。
モリスと綜馬の間で揺れる感情。どちらを優先すれば良いのか、どれだけ考えても答えは出なかった。
綜馬の寝顔を眺めながら、眠れない夜は月亜の心を暗闇へと誘う。
一睡もできない夜を過ごした。隣でぐっすりと眠っている綜馬の顔を眺めているだけで時間だけが過ぎていく。
自分が綜馬を諦めれば、この国は救われるだろう。
しかし、もしも綜馬がモリスを拒めばどうなる? もしも月亜を選べばどうなるのだ? モリスは……淫紋の呪いに力尽きて死にゆく様を見守るしかないのだろうか。
それはあまりにも酷な話である。それならば、自分一人が犠牲になるのが得策と言えよう。
綜馬の瞼にそっと口付けた。一日だけでも良い夢を見させてもらった。もう十分だ。
これでスッパリと諦めようと決意した。
外が明るくなっている。もう朝だ。
ゆっくりとベッドから這い出ると、バルコニーへと足を運ぶ。
丁度、東の空から朝日が顔を出している。優しい光が傷心を慰めてくれているように感じた。
「綺麗な朝日だね」
「綜馬! ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫。バルコニーに出るのが見えたから来ただけだよ」
綜馬が後ろから抱き寄せた。優しさが余計に胸を締め付ける。
「ルアは暖かいな」溢れた声が直接耳から入ると、なんとも居た堪れない気分になった。モリスとの会話がなければ、素直に喜べただろうに。
その後の朝食に、モリスの姿は見られなかった。
「呼んできましょうか?」と言うと、「部屋には近づかないように」と召使いからこっそり耳打ちされる。
発情期に入ったと悟った。
昨日の体調不良は発情期の予兆だったらしい。同じオメガなのに、気付いてあげられなかった。
不甲斐なさに苛まれる。
と、同時にプレッシャーが襲いかかってきた。
これは、綜馬を番として出迎えたい心情の現れなのではないか。もしそうならば、近づくなと言われたモリスの部屋に、どうにか綜馬を行かせてほしいという願いが込められているのではないか。
テーブルの下で握った拳に力が篭る。
モリスからの無言の圧を感じとってしまった。
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