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本編
淫紋
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またさっきの広い部屋に戻ってきた。ドアを開けるともう一人、若い男性が立っている。服装も殆ど同じだから、この人がもう一人の転生者なのかもしれない。
ドアを閉める音にこちらを振り返ると、腹に蛇のようなタトゥーが掘られていた。まだタトゥーの全貌は描かれておらず、頭までは現れていないが、それでも自分のものより随分立派だ。
下腹から背中をぐるりと一周し、胸のほうにまで広がっているではないか。そしてしっかりと子宮のタトゥーも刻まれている。
これは間違いなく淫紋だ。
比べれば自分のものなど確かにミミズでしかない。
恥ずかしくて自然と下腹を手で隠した。
座っていた国王にお辞儀をすると、国王が立ち上がり腹を見せるよう命じてきた。
おずおずと手を退ける。
やはり黒い線に気付きはしたが、何かは分からないようであった。
「あの……これは紋ではないです……よね?」
月亜からの質問にどう答えるか迷い、しばらくの間黙っていた。沈黙が気まずい。違うなら違うと言ってくれて構わないと思いながらも、冷や汗が背中に滲む。
国王の様子に、不思議に思ったもう一人の転生者も隣から覗き込んでくる。
(見ないでくれ)という思いは伝わらない。月亜のミミズのようなタトゥーを見るやプッと吹き出した。そりゃそうだろう。もし逆の立場でも同じ反応を見せた自信がある。
「……君はオメガだと聞いたが」
「はい。でも、発情したことがありません」
なにか言われるかもしれないと思ったが、「そうか……」と呟いただけで特に深掘りはされなかった。
「そっちの君は?」
「俺はアルファです!」
堂々と爽やかに返事をする。羨ましいと思った。自分もアルファで、こんな立派な紋が入ったなら、正々堂々と返事ができたのに……。
「そうか……」
国王はコチラの返事にも同じように答え、考え込んだ。
なにから説明しようか悩んでいるようであったが、それを遮るように質問した。
「あの、これがもし淫紋だったとして、オメガの俺が発情しないとどうなるんですか?」
「淫紋は基本的に番ができないと召喚できない。オメガだろうがアルファだろうが、淫紋が現れればできるだけ早く番を見つけなければいけない。じゃないと、紋に精気を吸われ息絶えることとなる」
「「そんな!!」」
これには二人とも驚いた。
「君のはまだ淫紋かどうかも判断がつかない。こんな紋はみたことがない。そしてコチラの君はもしかすると……龍の紋かもしれない」
「龍?」
蛇にしては紋が大きすぎる。と続けて言う。
「この私の紋はトーテムと言って、とても珍しいものだ。この五つの動物たちを一度に召喚することもできる。そして、それぞれ炎、水、土、雷、治癒の魔法を使う。一般的には最も強いとされている紋なのだ。しかしこれよりも強い紋が一つだけある。それが龍だ」
国王は俺たちがここまでの説明を理解したと踏むと、続けて話し始めた。
「一人だけ、その龍の紋を持つ者がいた。私の長男だ。しかし十五歳で精通したにも関わらず、二十三歳になっても番を見つけられなかった。龍は運命の人としか番わない。運命の番以外には発情もしない。長男のカマルの番はとうとう現れなかった」
「それで、どうなったんですか?」
「死こそ間逃れてはいるものの、闇堕ちしてしまってね。今は森の奥深くに隠れているようだ。しかし、番が見つからなければもう命も危ないだろう」
「そんな……」
淫紋は味方にも敵にもなるということなのか。
俺が呆然としていると、隣から声を発した。
「あの、召喚してるところって見られませんか?」
「あぁ。いいだろう」
この場所で全ての召喚獣を出すのは危険だから……と、一匹だけ召喚して見せると言った。
国王が集中した途端、空気がピンと張り詰める。
「……汝の真なる力、目覚めよ。今ここに顕現を!! 召喚!!」
呪文を唱えながら虎のタトゥーを触ると、そこだけが光り、命が吹き込まれたように虎が瞬きをした。そして次の瞬間タトゥーから巨大な虎が飛び出してきたのだ。
これだけの大きな獣だとは想像もしてなかった二人は、驚きすぎて尻餅をついて後退りをした。
「コイツは炎の魔法を使う召喚獣だ」
説明もまともに耳に入らないくらいの迫力にたじろく。
国王はすぐに召喚獣を体に戻した。
「龍ならこの部屋では収まりきらないだろう」と言った。
隣の男性は興奮と喜びを隠しきれない様子だ。番を見つけなくては召喚もできないし、死ぬかもしれないのに。
それとも、こんなふうにネガティブに考えるのはオメガだけなのかもしれない。
一度に色んな話をしたから休むといいと、国王は別室へと促した。
召使いに案内された部屋に入る。
「うわぁ!! すごい!!」
南側の大きな窓は開放的で、広いバルコニーへと続いている。そして部屋の真ん中にキングサイズほどの大きなベッド。マットは体ごと沈んでしまいそうなほどフカフカだ。
俺よりも先にもう一人の転生者がベッドにダイブする。
「気持ちいいー!!」と大の字に寝転び、俺に視線を向けた。
「隣、来なよ。こんなに広いんだからさ」
「いいの?」
「あんたも、転生したんだろ?」
急に真剣な顔つきになった。ずっと同じことを考えていたようだ。
黙って頷く。
「なんでかは分かんないけど、悩んでも仕方ないじゃん? ここで生きていくしかないんだからさ。なら、どうにかこの快適で豪華な城から追い出されずにすむ方法を考えないとな」
本当に、その通りだと思った。
もう元いた世界で生まれ変わることはない。この世界でも生きなければいけないのには変わりない。
男性の隣に静かに腰を下ろす。
「そんな遠慮せずに寝転べよ」なんて言われたものだから、素直に寝転んだ。
「気持ちいい……」
「だろ? なぁ、名前聞いてもいいか? 俺は倉木綜馬」
「天海月亜」
「ルア。よろしくな」
「うん、よろしく!」
綜馬がいい人そうで安心した。年齢も綜馬が二つ上の二十二歳だと教えてくれた。
自己紹介が終わると、途端に二人とも睡魔に見舞われウトウトとする。暖かいのは、綜馬が頭を撫でてくれているのだと気付く。それがあまりにも気持ちよくて、そのまま眠ってしまった。
ドアを閉める音にこちらを振り返ると、腹に蛇のようなタトゥーが掘られていた。まだタトゥーの全貌は描かれておらず、頭までは現れていないが、それでも自分のものより随分立派だ。
下腹から背中をぐるりと一周し、胸のほうにまで広がっているではないか。そしてしっかりと子宮のタトゥーも刻まれている。
これは間違いなく淫紋だ。
比べれば自分のものなど確かにミミズでしかない。
恥ずかしくて自然と下腹を手で隠した。
座っていた国王にお辞儀をすると、国王が立ち上がり腹を見せるよう命じてきた。
おずおずと手を退ける。
やはり黒い線に気付きはしたが、何かは分からないようであった。
「あの……これは紋ではないです……よね?」
月亜からの質問にどう答えるか迷い、しばらくの間黙っていた。沈黙が気まずい。違うなら違うと言ってくれて構わないと思いながらも、冷や汗が背中に滲む。
国王の様子に、不思議に思ったもう一人の転生者も隣から覗き込んでくる。
(見ないでくれ)という思いは伝わらない。月亜のミミズのようなタトゥーを見るやプッと吹き出した。そりゃそうだろう。もし逆の立場でも同じ反応を見せた自信がある。
「……君はオメガだと聞いたが」
「はい。でも、発情したことがありません」
なにか言われるかもしれないと思ったが、「そうか……」と呟いただけで特に深掘りはされなかった。
「そっちの君は?」
「俺はアルファです!」
堂々と爽やかに返事をする。羨ましいと思った。自分もアルファで、こんな立派な紋が入ったなら、正々堂々と返事ができたのに……。
「そうか……」
国王はコチラの返事にも同じように答え、考え込んだ。
なにから説明しようか悩んでいるようであったが、それを遮るように質問した。
「あの、これがもし淫紋だったとして、オメガの俺が発情しないとどうなるんですか?」
「淫紋は基本的に番ができないと召喚できない。オメガだろうがアルファだろうが、淫紋が現れればできるだけ早く番を見つけなければいけない。じゃないと、紋に精気を吸われ息絶えることとなる」
「「そんな!!」」
これには二人とも驚いた。
「君のはまだ淫紋かどうかも判断がつかない。こんな紋はみたことがない。そしてコチラの君はもしかすると……龍の紋かもしれない」
「龍?」
蛇にしては紋が大きすぎる。と続けて言う。
「この私の紋はトーテムと言って、とても珍しいものだ。この五つの動物たちを一度に召喚することもできる。そして、それぞれ炎、水、土、雷、治癒の魔法を使う。一般的には最も強いとされている紋なのだ。しかしこれよりも強い紋が一つだけある。それが龍だ」
国王は俺たちがここまでの説明を理解したと踏むと、続けて話し始めた。
「一人だけ、その龍の紋を持つ者がいた。私の長男だ。しかし十五歳で精通したにも関わらず、二十三歳になっても番を見つけられなかった。龍は運命の人としか番わない。運命の番以外には発情もしない。長男のカマルの番はとうとう現れなかった」
「それで、どうなったんですか?」
「死こそ間逃れてはいるものの、闇堕ちしてしまってね。今は森の奥深くに隠れているようだ。しかし、番が見つからなければもう命も危ないだろう」
「そんな……」
淫紋は味方にも敵にもなるということなのか。
俺が呆然としていると、隣から声を発した。
「あの、召喚してるところって見られませんか?」
「あぁ。いいだろう」
この場所で全ての召喚獣を出すのは危険だから……と、一匹だけ召喚して見せると言った。
国王が集中した途端、空気がピンと張り詰める。
「……汝の真なる力、目覚めよ。今ここに顕現を!! 召喚!!」
呪文を唱えながら虎のタトゥーを触ると、そこだけが光り、命が吹き込まれたように虎が瞬きをした。そして次の瞬間タトゥーから巨大な虎が飛び出してきたのだ。
これだけの大きな獣だとは想像もしてなかった二人は、驚きすぎて尻餅をついて後退りをした。
「コイツは炎の魔法を使う召喚獣だ」
説明もまともに耳に入らないくらいの迫力にたじろく。
国王はすぐに召喚獣を体に戻した。
「龍ならこの部屋では収まりきらないだろう」と言った。
隣の男性は興奮と喜びを隠しきれない様子だ。番を見つけなくては召喚もできないし、死ぬかもしれないのに。
それとも、こんなふうにネガティブに考えるのはオメガだけなのかもしれない。
一度に色んな話をしたから休むといいと、国王は別室へと促した。
召使いに案内された部屋に入る。
「うわぁ!! すごい!!」
南側の大きな窓は開放的で、広いバルコニーへと続いている。そして部屋の真ん中にキングサイズほどの大きなベッド。マットは体ごと沈んでしまいそうなほどフカフカだ。
俺よりも先にもう一人の転生者がベッドにダイブする。
「気持ちいいー!!」と大の字に寝転び、俺に視線を向けた。
「隣、来なよ。こんなに広いんだからさ」
「いいの?」
「あんたも、転生したんだろ?」
急に真剣な顔つきになった。ずっと同じことを考えていたようだ。
黙って頷く。
「なんでかは分かんないけど、悩んでも仕方ないじゃん? ここで生きていくしかないんだからさ。なら、どうにかこの快適で豪華な城から追い出されずにすむ方法を考えないとな」
本当に、その通りだと思った。
もう元いた世界で生まれ変わることはない。この世界でも生きなければいけないのには変わりない。
男性の隣に静かに腰を下ろす。
「そんな遠慮せずに寝転べよ」なんて言われたものだから、素直に寝転んだ。
「気持ちいい……」
「だろ? なぁ、名前聞いてもいいか? 俺は倉木綜馬」
「天海月亜」
「ルア。よろしくな」
「うん、よろしく!」
綜馬がいい人そうで安心した。年齢も綜馬が二つ上の二十二歳だと教えてくれた。
自己紹介が終わると、途端に二人とも睡魔に見舞われウトウトとする。暖かいのは、綜馬が頭を撫でてくれているのだと気付く。それがあまりにも気持ちよくて、そのまま眠ってしまった。
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