【完結】満月に導かれし龍の淫紋 〜運命の番は闇落ち王子〜

亜沙美多郎

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本編

国王との対面

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 馬車の窓は閉められていて、外の様子は伺えない。

「さあ、ついて来たまえ」

 その男性に促され馬車から降りると、大きな城の前に立っていた。

「……凄い。初めて見た」

 写真で見るような古いヨーロッパ風の城そのものだ。口をだらしなく開けたまま見上げていると、その中年男性が冷ややかな目で見てきた。

「ゴホン……お前はこの国の者ではないのかね?」

「はい、多分……あっ、絶対に違います。こんな景色もお城も初めて見ましたから」

「ふぅ……」

 わざとらしく息を吐く。連れてくるんじゃなかったとでも言いたげだ。それ以上は何も言わずに城内へと歩を進めたので、続いて歩いた。

 辺りを見渡したいほどに豪華な城内だったが、さっきのオーバーなため息を思い出しグッと堪えた。

 細かい模様が施された絨毯が敷き詰められた廊下を奥へ奥へと進み、緩やかな螺旋階段を上がると、二階の廊下を更に何部屋か通り過ぎた。案内されたのは、これまでで最も大きなドアだった。

 通された部屋は舞踏会でも開けそうなほど広く、床はピカピカの御影石のようであった。天井からは大きなシャンデリアが吊るされている。まるで御伽噺の世界に来たような感覚になる場所だ。


 さっきの中年男性が少し待つようにと促すと、奥のドアから出て行った。

 こんな豪華なところは、あまりにも場違いすぎて落ち着かない。しかもさっきまで土の上に寝転んでいたから、服も髪もボロボロなのだ。今のうちに逃げ出したいくらいに気まずい。


 少しずつ後退りをし、ドアに向かって進んでいたが、あともう少しでドアノブに手が触れるというところで奥のドアが開いてしまった。

「おや、またベネットは奇妙な子を連れてきたものだ」
「本当ですわね……」

 入ってくるなり、月亜の頭の先から足の先までマジマジと眺めて話している。

 ベネットとは、きっとさっきの中年男性の名前だろう。

 しかし……この人たちは誰なんだ。と、月亜からも負けないくらいマジマジと見返した。

 よく見ると、とても大胆な服を着ている。この人も自分の親くらいの年齢に見えるが、鍛えあげられた体を見せつけるように上半身の殆どを曝け出すような服だ。

 そして、上半身いっぱいに動物などのタトゥーが五つも彫られている。

 上から鷹、象、孔雀、蠍、そして一番下に虎が描かれていて、虎の額部分に淫紋である子宮のタトゥーが施されたいた。

 隣の女性もツーピースになったドレスを着ていて、やはり腹を出している。そしてこの女性には白鳥のタトゥーが描かれていた。翼を広げた背の部分にやはり子宮のタトゥーが刻まれている。

 なんとも奇妙な夫婦だと不思議に思っていると、男性のほうが柔らかく微笑んで話し始めた。

「君は本当に紋を知らないようだね。どこから来たかも分からないそうだが……記憶を失っているのかな?」

 どうやら危害を加えるわけではなさそうだと内心ホッとした。

「記憶はあるのですが……気付けばこの国に来ていて自分でも状況が掴めないんです」

 2人は首を傾げて困ったような顔をした。

「あの、それでここはどこで、貴方たちは誰なんですか?」

 思い切って尋ねてみた。

「ああ、本当に何も知らないんだね。ここはプラテネスという国で、私が国王のハワード・オーディン。そして……」

「王妃のミッチェル・オーディンと申します」

 優美にお辞儀をした。

「国王……? プラテネス……?」

 そんな国の名前は聞いたことがない。つまり、ここは……。

「異世界———?」

 呆然としてしまい、そこからの話は殆ど耳に入ってこなかった。

 とりあえず、この世界にも第二次性のバース性が存在していること、そして、アルファは精通すると淫紋が現れる。珍しくオメガにも現れる場合がある。という説明だけはなんとか聞き取った。

 そして侍女を呼ぶと、湯浴みさせるよう命令し、三人がかりで隅々まで洗われた。

 侍女たちは常に陽気であった。「磨けば綺麗な顔をしている」「体が華奢すぎる」「肌が白い」などと好き放題言ってくる。

 女性に体を洗われるだけでも恥ずかしいのに、侍女の三人はお構いなしに下腹部にグッと顔を近づけた。

「うーん……これは……淫紋かしら?」
「でもなんの形にも見えないわよ?」
「強いて言えば……ミミズのようね!」

 三人一斉に甲高い声で笑い飛ばす。完全に馬鹿にされていると感じたが、彼女たちには至って悪気はないらしい。

「そういえば、あなたはアルファなの?」

「っ!! ……いえ……その、俺は……オメガです」

 隠しても仕方ないので正直に話す。すると更に「その割にはオメガ特有の甘い香りがしない」と言われたので、発情期が来たことがないと打ち明けた。

 また馬鹿にされるかもしれないと身構えたが、特に気にしていないようで少し肩透かしを食らう。

「運命の番に出会えば発情するかもね」

 一人の侍女がラフに答える。良くも悪くも、この人たちには裏も表もない。


「さあ、では着替えましょう!」

 一番年上っぽい侍女が新しい服を持ってきてくれたのだが、さっきの国王のように腹が丸出しで驚いた。この国の者は皆こんな服なのか? でもこの侍女たちは普通のワンピースに白いエプロンという格好だ。

 されるがままに着替えると、さっきの妙な黒い線がくっきりと見えて余計に恥ずかしい。


「この服じゃないとダメなんですか?」

「そりゃそうですよ! これからハワード国王がこのミミズが淫紋かどうかを見定めてくれるのですから」

(ミミズって……)なんて思うが、本当にひょろっとした線があるだけなので仕方ない。言い返す気力もないので黙っていた。

 すると、一人の侍女が言い出した。

「そういえば、貴方の他にももう一人新しくいらっしゃったのよ」

「え? 違う国から来た人ですか?」

 そうみたいですよ。とその人が言う。月亜と同じように、変わった服装をしていたと付け加えた。この国には月亜が穿いていたデニムなんてないのだろう。

 それよりも、もう一人転生した人がいるというのが気になった。


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