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三章〜クレール・ベルクール編〜

22 研究室にバレた嘘

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 アシルお母様がいてくれて、本当に助かった。オメガとして、色々理解してくれるから。

 初めてヒートを起こした相手がヴィクトール様で、どんなにショックかも、アシルお母様なら分からってくれる。

 この三日、ずっと離れずにいてくれて本当に助かった。

 一人だと気分が滅入ってしまう。

 それでも三日後、アシルお母様はベルクール邸へ帰ってしまう。
「手紙を書きます」
「うん、くれぐれも気を付けてね」
 ギリギリまで抱きしめ合い、見送った。

「さぁ、僕も気持ちを入れ替えないと」
 何時までも落ち込んでいられない。新薬が効かない場合が出てしまったのだ。先輩に正直に話すことを、この三日のうちに決めた。

 本当はオメガであることも打ち明けなればいけないが、学生時代から吐き続けた嘘からようやく解放されると思うと、少し肩の力が抜ける。

 研究室に着き次第、ヴェルジー室長の所へ赴いた。
「おや、もう復帰して大丈夫かい?」
 ヴェルジー室長はエリアスお父様に、一週間休んで大丈夫だと言ったそうだ。
 それって……。

「ベルクール公爵様がね、全部説明してくれたよ。まぁ、座りなさい」
 今日は仕事はいいから話しをしようと言って、室長室でハーブティーを淹れてくれた。

「オメガだと、隠していて申し訳ありませんでした」
「ははっ、そんなに畏まらなくていい。意外とよくあるものだ。この研究室にも過去に何人かいたんだよ」
「でも、今はいませんよね?」
「それぞれ番が出来て退職したんだ」
 みんな、幸せにやってるようだと付け加えた。その殆どは研究員と結ばれたそうだ。
 
 エリアスお父様は、ことの全てをヴェルジー室長に話してくれていた。それでもここを辞めないでいいと言ってくれて、本当に嬉しかった。

「でも、一つ言わなければいけないことがあります。僕はその日、久しぶりにアルファの弟と、アルファの幼馴染に会うからと、研究室の新薬を勝手に飲みました」
「ほう、それでもヒートを起こしたと……」
「はい。弟には効きました。でも幼馴染には……全く……」
 改めて言葉にすると怖い。
 ヴェルジー室長も考え込み、「運命の番……かもしれないが……」
 と囁いた。

 誰もが敢えて口にしなかったセリフであった。ヴィクトール様は、まだバース性が安定していない。それでまだ断定は出来ないから、その言葉を飲み込んでいた。

 誰だってそう思うに決まっている。ヴェルジー室長も、エリアスお父様から話しを聞くまでベータと信じ込んでいた。少しも疑わなかったと笑ってくれたが、僕はそのくらいオメガ性が弱い。

「突然のことでショックだったと思うが、もしも運命の番だったら喜ばしい事じゃないか。あまり自分を責めなくてもいいと、私は思うが、軽率だったかな?」
「いえ、大丈夫です……」
「しかし、新薬の研究をより進めなければいけない。また、よろしく頼むよ」
「はい! ありがとうございます!」

 全てを知った上で解雇にされなかった。その上、オメガとしての意見を出して欲しいなんて言われてしまった。
 深々と頭を下げて、研究室を後にする。

 イザックには学生時代から嘘を突き通していたから、誰よりも先に伝えたいと思い、帰りに屋敷に寄ってもらうよう、言付けておいた。
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