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二章~アシル・クローシャー編~

63 お兄ちゃんになったクレール

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「……もう一人いますね」
「え?」

 出産で苦しむ最中、医師が予想外の一言を放った。

「もう一人……?」
「はい、力んで~」
「んっ……」

 痛い痛い痛い痛い……お腹が割れるような痛みに耐え、さっき無事男の子を出産した。しかし、それでも体が楽にならない。すると、医師が産道を覗き込み「おやおや」と驚嘆の声を上げた。

 再び陣痛の波が来る。
「はい、力入れて~」
「んっ……ぅん……っく……」
 もう腰が砕けそうだ。早く楽になりたい。耐え難い痛みに苦悶していると、再び産道にめり込むような刺激を感じた。
 
「ぅぐっ……!!!!」
「アシル様、頑張って。頭が見えてますよ。もう一回力んで」
「っか……んくっ……」

 体を中から裂かれる程の痛み。
 苦海に身を置いていると言っても過言ではないほどの苦しみを、なんとか乗り越える。

「……はい、楽にしてねぇ~」
 医師の間の抜けた言葉と共に、ぬるんっと体内から滑り出す感覚がし、やっと全身の力が抜けた。

「アシル様、よく頑張りましたねぇ。いやぁ、まさか双子とは驚きました」
 二人とも、男の子ですよと、助手の女性が二人。それぞれを抱っこして見せてくれた。
 お腹が重かったハズだと、今になって納得してしまう。まさか二人も身籠っていたなんて!!

 すぐに綺麗に体を洗い、ベッドに連れてきてくれた。
 そしてその後、みんなにもお披露目。部屋に入ってきたクレールにエリアス様、そしてお父様も、ベッドで二人の男の子が泣いていたのに驚き過ぎて言葉を失っていた。

「ふ……二人?」
 クレールが指差し確認で何往復もしている。
「双子だったみたい」
 フラフラの思考でなんとか答えた。

 赤ちゃんはお父様からの隔世遺伝でダークブラウンの髪色をしている。一人は天然パーマまで同じだ。お父様はそれに歓喜した。
 もう一人はエリアス様譲りのサラサラヘア。これでもし顔がそっくりでも見分けられると内心安堵する。

「名前、どうしようか?」
 一人と思っていたから、早急にもう一人決めなければ呼んであげられない。

「クレール、君が記していたノートから決めるといい」
 エリアス様が促すと、両手で握りしめていたノートを開き、二人にピッタリの名前を選び抜いた。

「くるくるの髪の毛のほうが、ノアで、サラサラの髪の毛のほうが、ノランがいい!!」
「ノアにノランか。良い名だね」
 待ち焦がれていた弟が予想外に急に二人も産まれ、その上自分が名前をつけたことにクレールは感極まって泣き出した。

「念願の、お兄ちゃんだね」
「……はいっ」
「でもクレールもまだ子供だから、これからもいっぱい甘えてね」
「……はいっ」

 こうしてベルクール家に新しい家族が増え、賑やかになりそうな予感を漂わせた。
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