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二章~アシル・クローシャー編~
35 仲良しさん④
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翌日、エリアス様は既に起きて仕事にいく身支度を終えていた。
いつの間に帰って来ていたのかも分からないし、彼がきちんと睡眠をとったのかも不明だ。
しかし、いつもと変わらないピシッとした姿勢で起きたぼくに「おはよう」と声をかけた。
「おはようございます。昨夜は先に寝てしまってごめんなさい」
「何も謝る必要はない。私も久しぶりに朝方まで語らっていた。私の方こそ気にかけないですまなかった」
エリアス様は殆ど眠ってはいないが、今日は午前中のうちに街で商談があるマルティネス王子に同行するのだと言った。
以前話していたりんごのお香の生産性を上げるための、殆ど相談に近い、気の知れた商人との話し合いだと言う。
「マルティネス王子の知り合いの調香師が、早速試作を作ってくれてね。私も今日初めて嗅ぐのだ」
「それは楽しみですね」
「今夜のために少し頂いておくよ」
今日の仕事はそれだけだから、午後からはゆっくり体を休めると言って部屋を出た。
ダイニングへ行くと、クレールとヴィクトール様が並んで朝食を食べている。
クララ様の姿が見えないので、近くにいたルシィに声をかけた。
「クララ様は?」
「お疲れのようで、お部屋で休んで頂いています」
「後ほど部屋へ伺っても?」
「少しお食事を召し上がった後、すぐに寝られたので起き次第お声をかけますね」
妊婦での長旅は、自覚するよりも体力を消耗してしまったのかも知れない。
体調が良くなるまで滞在してもらうよう、手配をした。
それにより、ヴィクトール様もベルクール家で過ごす日が増え、クレールとの時間が延長された。クララ様を心配しつつ、クレールとまだ一緒にいられることを二人で喜びあった。
「今日も明日も、クレールお兄ちゃんと一緒に寝られるね」
「その他もずっと一緒にいられますよ。今日はクララ様が元気になれるように、花を摘みにいきましょう。クララ様の好きな花を知っていますか?」
「ピンク!!」
「それなら沢山あります。きっと喜んでもらえますよ」
「クレール、お花のことならルシィが詳しいから声をかけておこうか?」
「アシルお母様、お願いします」
二人の背中を見送っていると、昨日の夢を思い出した。
『僕たちはつがい……?』
もし、そうなら……なんて考えてしまう。まだ二人ともバース性など調べてもいない。
その検査は初等部の卒業間際に行われる。
小さなヴィクトール様の手を引き歩くクレールが、アルファなのだろうか。
「いや、でもあれは夢だし。そんなことを言っていたら、その後自分も妊娠する夢を見たじゃないか」
気を取り直して、クレールの部屋から花壇を覗こうと移動した。
ベッドの上には昨日読んだと思われる本が何冊か置かれている。
きっとクレールが読み聞かせたのだろう。デスク横の本棚に戻すと、一冊の日記帳を見つけた。
「あの子、日記なんて書いていたんだ」
手に取り、何気にページを捲ると、そこに綴られていたのは、クレールではなくコーキが書いたものだった。
いつの間に帰って来ていたのかも分からないし、彼がきちんと睡眠をとったのかも不明だ。
しかし、いつもと変わらないピシッとした姿勢で起きたぼくに「おはよう」と声をかけた。
「おはようございます。昨夜は先に寝てしまってごめんなさい」
「何も謝る必要はない。私も久しぶりに朝方まで語らっていた。私の方こそ気にかけないですまなかった」
エリアス様は殆ど眠ってはいないが、今日は午前中のうちに街で商談があるマルティネス王子に同行するのだと言った。
以前話していたりんごのお香の生産性を上げるための、殆ど相談に近い、気の知れた商人との話し合いだと言う。
「マルティネス王子の知り合いの調香師が、早速試作を作ってくれてね。私も今日初めて嗅ぐのだ」
「それは楽しみですね」
「今夜のために少し頂いておくよ」
今日の仕事はそれだけだから、午後からはゆっくり体を休めると言って部屋を出た。
ダイニングへ行くと、クレールとヴィクトール様が並んで朝食を食べている。
クララ様の姿が見えないので、近くにいたルシィに声をかけた。
「クララ様は?」
「お疲れのようで、お部屋で休んで頂いています」
「後ほど部屋へ伺っても?」
「少しお食事を召し上がった後、すぐに寝られたので起き次第お声をかけますね」
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それにより、ヴィクトール様もベルクール家で過ごす日が増え、クレールとの時間が延長された。クララ様を心配しつつ、クレールとまだ一緒にいられることを二人で喜びあった。
「今日も明日も、クレールお兄ちゃんと一緒に寝られるね」
「その他もずっと一緒にいられますよ。今日はクララ様が元気になれるように、花を摘みにいきましょう。クララ様の好きな花を知っていますか?」
「ピンク!!」
「それなら沢山あります。きっと喜んでもらえますよ」
「クレール、お花のことならルシィが詳しいから声をかけておこうか?」
「アシルお母様、お願いします」
二人の背中を見送っていると、昨日の夢を思い出した。
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もし、そうなら……なんて考えてしまう。まだ二人ともバース性など調べてもいない。
その検査は初等部の卒業間際に行われる。
小さなヴィクトール様の手を引き歩くクレールが、アルファなのだろうか。
「いや、でもあれは夢だし。そんなことを言っていたら、その後自分も妊娠する夢を見たじゃないか」
気を取り直して、クレールの部屋から花壇を覗こうと移動した。
ベッドの上には昨日読んだと思われる本が何冊か置かれている。
きっとクレールが読み聞かせたのだろう。デスク横の本棚に戻すと、一冊の日記帳を見つけた。
「あの子、日記なんて書いていたんだ」
手に取り、何気にページを捲ると、そこに綴られていたのは、クレールではなくコーキが書いたものだった。
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