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二章~アシル・クローシャー編~

17 ロベール家へのトラウマ④

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「エリアス様!? 何か、あったんですか?」
「アシルとクレールが一緒に寝ると言っていたから、たまには私もそうしてみるのもいいかもしれないと思ってね」

 ぼくは再びクレールと視線を合わせて、笑った。

「エリアスお父様と、アシルお母様、それと僕の三人で一緒に寝られるなんて、嬉しいです」
「赤ちゃんの時以来だから、クレールは覚えていないよね」

 エリアス様をシーツの中へと誘導する。
 普段、クレールが一人で使っているダブルサイズのベッドは、三人で入ると、とても狭く感じる。
 それでも「暖かくて気持ちいい」とクレールが言うから、ぼくもエリアス様ももっとクレールに引っ付いた。

「二人でどんな話を?」
「エリアス様、クレールったらぼくが人見知りをするから、クララ様との仲を取り持つって言うですよ」
「ははっ! それは頼もしい。クレール、君のママは、なかなか自分の気持ちを伝えるのが苦手なんだ。それはクレールの方が得意だから、助けてやってくれ」
「エリアス様まで、酷いです!! ぼくは母になったのですから、クレールのお手本になりたいのです」
「そんなに頑張らなくてもいい。不器用なアシルもかわいいからね」
 
 エリアス様がそんなふうに言うものだから、クレールにまで笑われてしまった。

「クララは子供の頃から大人しい性格だった。それは、彼女はアンナから圧をかけられて育ったからなんだ。アンナは昔から周りの視線を独り占めしたいたちでね。それは両親の愛情にしてもそうだった」

 エリアス様がロベール姉妹の過去を話し始めた。
 アンナ様は、両親がクララ様に話しかけるのさえも嫌がった。その裏ではクララ様への虐めもあったようだ。
 パーティーでぼくがクララ様に気づかなかったのも、アンナ様を立てて、大人しくしていろということだったらしい。

「だから、ぼくもあの頃、クララ様の存在に気付かなかったんですね」

 クララ様に仲間意識さえ感じてしまった。
 エリアス様の言う通り、なんだか仲良くなれそうな気がするなんて、こんな事で思っていいのかは悩ましいところだが、それでも少しは緊張しなくて済みそうだ。
 
 話をしているうちに、クレールは眠ってしまっていた。
 エリアス様の話を聞いて、とりあえず安心したのだろう。

「ランベルト王子は、とても気さくな方だから、安心して」
 クレールを間に挟んで会話をする。
 エリアス様が腕を伸ばしてぼくの頭を撫でた。
 まるで子供をあやすように。
 それでも心地良いのには抗えず、そのまま眠ってしまったのだった。
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